第63話 十五日目(昼) 結局はこうなるんですね……頑張れ、俺の『調理』スキルっ!


「……えー、それでは公爵家の皆様の歓迎会とオーエンさんとリリィさんの再会を祝して――――カンパイッ!!」

『乾杯!』


 "リゾート"にあるグランドホテルの屋上――BBQ広場にて。


 俺の声を合図に、その場にいる全員が手に持ったグラスを上へと掲げて声を上げている様子を……俺は長テーブルを3つ並べてくっ付けた席の端っこ(誕生日席)から眺めている。


 何故、俺が音頭を取る事になったかは不明だ。

 俺はガルロッツォさまオーエンさん、ミムルの内の誰かがやるべきではないかと主張したんだけど……多数決により俺がやる事が決定してしまった。ニヤニヤとしたいい笑顔だったよ、みんなね!!


 ちなみにみんなが掲げたグラスの中身は2種類。お酒が飲める人はガルロッツォ様が持って来てくれたワインで、お酒が飲めない人は子供でも飲めるが売りのシャンパン風飲料だ。ちゃんと蓋を取る時にポンって音が鳴るのが良いんだよなぁ。


 乾杯の挨拶が終われば後は各々で食事を楽しむ時間だ。遅めの昼食になったのでみんな美味しそうに串焼きやオードブルを食べている。

 何よりも有難いのは、俺が串焼きを焼かなくて済んでいる所だ。正直感動した。

 と言うのも、教会に行く前に俺や桜崎さん達が具材を串に刺し調味料を振ってからグリルで焼いたりしている姿を見ていたルークさん・マリーさん・ネルさんが「難しい工程がある訳では無さそうなので、串焼きの準備等は自分達にやらせて欲しい」と申し出てくれて現在凄いスピードで焼いてくれていたりする。


 ただ、3人もお客様ではあるのでやらせ続ける訳にはいかない。とりあえず予め準備していた食材のみやってもらう事にして、それでも足りない様子だったら俺がやるという約束で3人の申し出を受け入れた。

 俺の言葉に3人は恐縮しっぱなしだったけど、此処では一応俺が主催側なのでちゃんと3人も楽しんでいって欲しい。ふっふっふっ、実は予め準備していた食材は少な目に用意していて、3人が食べる時には超高級な霜降り肉を準備する予定なのだ。

 みんなの為に頑張ってくれたご褒美だからな。まあ、それを知っているリディはさっきから食べる量をセーブしていたりしているけど……そんなに霜降りが好きなのか?


「いえ、ますたーの手料理が好きなだけです」

「お、おぅ……」


 真面目な顔で言われるとちょっと照れるな。確かにリディやミムル、マルティシアなんかは俺が作った料理やら何でも美味しそうに食べてくれるので、『調理』スキルが手に入るくらいに料理をしてきた甲斐があると思わせてくれる。最初はマジで腕がつりそうになっていたからな。今では『調理』スキルの効果なのか料理が苦に感じる事はなくなったけど……3人はその細いウエストからは考えられないくらいに食べるから、終わった後の達成感が半端ない。保管してある霜降り肉で足りるかな……ちょっと心配になってきたぞ?


「ご安心を。私が食べる分は自分で用意しますのでっ」

「……食べる量を抑えるとかではないんだ?」

「…………ふっ」


 いや何その愚問ですねって感じの笑い……リディが用意する量は想定の3倍はあるから、下拵えが大変なんだよなぁ……まあ、串焼きだけなら切るだけだからいいか。


 そんな風に安心していたのだが……。


「あーっ!! リディちゃんが大樹くんの料理を独占しようとしてる〜!!」

「リディ様、まさかお一人で食べるつもりじゃありませんよね……?」


 俺とリディのやり取りを聞いていたらしいミムルとマルティシアが、自分達にも食べさせるべきだと主張を始めた。


 そう……何故か最初は誕生日席で1人にさせられていたのだが、乾杯の挨拶が終わるや否や右にリディ、左にミムル、俺とミムルの間の後方にマルティシアという陣形で席に着いていた。両隣に関しては太ももがぶつかるくらいの距離でくっついているし、マルティシアなんかはわざわざ自分の左隣に小さなテーブルを置いてまでその場に留まっている。


 いや、理由は何となく察しているし嬉しくはあるんだけどさ……君たちお酒飲んでるよね? 酔っ払う前に出来ることなら離れて貰いたい……あ、無理ですか……そうですか……。


 そうして話は戻るが、現在若干ほっぺたを赤らめたミムルとマルティシアが、こちらも若干ほっぺたを赤らめたリディにブーブー文句をたれている。

 ただ、そんな2人に返したリディの言葉が問題であり……。


「そんなつもりはありません。私はますたーが料理をすると聞いたので、それならば私も食べたいですとお願いしただけです。なので、2人も食べたいなら私に文句を言うのではなくますたーにお願いするべきです」

「「…………大樹くん(様)!!」」

「うぉっ!?」


 ちょ、主に左側から女の子特有のいい匂いと柔らかい感触が……!!

 ミムルはわざわざ俺の左の太ももの上にお尻を乗せて抱き着いて来て、マルティシアは俺に抱きついているミムルごと後方から優しく包み込む様にして抱き着いて来ていた。

 お酒のせいで2人とも酔っ払ってて体温が高く、前から感じるむにっとした柔らかさと、後方から感じるむにゅんっ!! とした柔らかさに酔っ払ってもいないのに顔が赤くなってしまう。うん、恋人として一夜を過ごした相手だとしても……なんなら裸を見た事のある相手だとしても慣れないものは慣れないっ!!


 しかも、ミムルの奴ぅ……下着はどうした!? なんか胸の柔らかさとは別の感触が伝わってくるんだが!?


 うん、これは後で本人に言うかお世話係であるマルティシアあたりにしっかりと言っておこう。

 ここには俺以外の男だっている訳だし、面倒だとしてもちゃんと下着はつけて貰わないと。


 マルティシアに関しては……正直つけているのかいないのか分からない。というより……その……大きいのでむにゅんっ! となる範囲が広くてですね!? その感触だけでいっぱいいっぱいなんです!!

 それと、マルティシアの場合はミムルの様に動いたりしていないというのも分からない理由だったりする。


 まあ、正直そんな事は些細な問題な訳で……2人には即刻離れてもらわないと俺の自制が限界を超えて、このまま続くとなれば大衆の面前で醜態を晒す事に……それだけは避けなければ!!


「わ、わかった! わかったから!! 2人にもちゃんと作ってあげるから、とりあえず離れ「「わーいっ!! 大樹くん(様)の手料理だー(です)!!」」……な、なんか、あっさりと離れられるのもそれはそれで寂しく感じるなぁ」


 もしかしたら俺が恥ずかしくなって直ぐに音を上げると踏んでの行動だったのだろうか?

 いや、ないな。単純に酔っ払ってるだけな気がする。


 まあ、とりあえず醜態を晒す羽目にならずに済んだので良しとしよう……………………代償は大きかったみたいだが。


「大樹くんが料理するの!? 私も食べたいっ!!」

「そういえば昨日の夜にミムルルート様達に作ってたよね? 私も食べたいかも」

「あ〜それなら私も食べたいなぁ〜?」


 ミムルとマルティシアが大声で、しかも立ち上がり喜ぶもんだからその様子を見ていたみんなが口々に食べたいと言い出してしまった。

 口には出さないが俺の方を見ている人も居るし…………あーはいはい、分かりましたっ!! こうなれば全員分まとめて作りますよ!!


 唸れ! 俺の『調理』スキルよ!!




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