第36話 十四日目 エルフさんと展望台で②
side シェリルノート
『何だよその眼! 気持ち悪い!!』
『片目だけ金色なんて、変なのー!』
『何で真ん中が白いの? 他のみんなは黒いのにー!』
ダイキにジッと左目を見られた瞬間、私は過去の嫌な記憶を思い出してしまった。
これは……精霊眼。
お父さんが言うには、古代エルフの中で精霊と親和性が高い人達には生まれながらに、何かしら特徴が現れるらしい。髪の色、肌の色、五感……様々な場所に出ることがあり、私の場合は左目だった。
精霊眼は非常に目立つ。
私は一応偉い立場の家に生まれた娘ではあるけど、両親は私を自由にさせてくれた。だから、自分で歩けるようになってからは、島中を歩いて回っていた。護衛はついてたけど。
そして、私は周囲から奇異な目で見られるようになっていた。この目が他と違うから、友達もできなかった。御年寄達は私を神の代行者だと敬い、大人達は私を利用して精霊を無理やり働かせようと画策する人も多かった。
御年寄は別にいい。大人達も手を出そうとすれば精霊が守ってくれるし、家族も私を守ってくれる。だから大丈夫。
でも……同い年の友達ができないのは、心が苦しくなった。羨ましかった。寂しかった。
だから私は魔法の研究に明け暮れた。知らないものを調べるのは有意義であっという間に時間が過ぎる。
エルフは長命。だからこそ退屈を嫌い、歳の近い者たちで集まり苦楽を共にする。暇を感じたくないから、楽しい事も悲しい事も仲間と共に全力で楽しむ種族。……脳筋?
だけど、私にはそんな人は居なかった。
しかも私は古代エルフ――その中でも最も有名な"始まりのエルフ"の先祖返りである半精霊のエルフだと判明した。
半精霊は他のエルフ達よりも成長が著しく遅い。お兄ちゃんが15歳の頃はお父さんと同じくらい大きくなったのに、私は15歳になっても子供サイズのままだ。そしてそれは数百年経った今でも変わらず小さいまま。成長はしてると思うけど、それは正確に計らないと分からないくらい微妙なものだった。
……いつかは、"始まりのエルフ"と呼ばれる御先祖様と同じくらいになるのかな?
精霊眼だけでも珍しいのに、半精霊でもある事がわかった私は更に孤独になっていった。
女性は変わらぬものを妬む。いつまでも若いままの私は女性にとって嫉妬の対象でしかなかった。半精霊は、年若いエルフの姿を永劫に保つ。それが妬まれる原因だ。
そして男性に関しても私には近寄ってこない。それは、男性としてのプライドが傷つくから。私は半精霊。精霊との親和性が物凄く高い。魔力も物凄く多い。そして魔法にも精通している。
孤独を忘れる様に魔法の研究をし続けていたのも要因の一つ。孤独を忘れ去る為の逃げ道が、逆に私を孤独にしてしまった。
……しかしながら、男性の嫉妬は女性よりも過激だった。私が一応エルフの王族だったのが悪かったのだろう。暗殺、誘拐、虚偽の噂の拡散……遂に私は島で平和に暮らす事も出来なくなった。
家族は私を愛してくれた。
お父さんとお兄ちゃんは怒りに震え、お母さんは涙を流して私を抱きしめてくれた。私は泣けなかった。涙を流せなかった。そこで泣いたら……私は家族に甘えてしまうと思ったから。
これ以上、私は家族に迷惑を掛けたくない。
だから私は家を出た。
夜中にこっそり……家族への手紙と『世界を見てくる』と言う書き置きを残して小さな船で島を出た。
水の精霊と風の精霊に船を任せて、火の精霊と土の精霊に魔物が来たら追い払って貰う様にお願いした。
そして私は船の中で見に纏った外套に包まりながら――初めて泣いた。
本当は、離れたくなかった。
そばに居たかった。
普通に生きて、普通に成長して、普通に勉強して、普通に友達を作って、普通に恋して、普通に家庭を作って……幸せになりたかった。
でも、これからは一人で生きていく覚悟を決めなければいけない。だから、その日だけはいっぱい泣いた。妖精達が心配するくらいに泣いてしまった。
でも、それはその時だけ。島から大陸へと移動した私は、なるべく体を隠して冒険者として生きて行く事にした。
冒険者になってから暫くはひとりぼっちだった。嫉妬・嘲笑・独占欲・支配欲・性欲……様々な悪意に晒されたけど、全てを返り討ちにして一人で生きていた。
成果を得られると楽しい。魔物を倒す為に魔法をもっと効率良く出来ないか改良するのも楽しい。
でも、孤独を忘れ去るまでには至らない。退屈は、エルフの私にとっては生きる意味を見いだせない人生の様なものだった。
そして私がBランクになった時、アリシア達に出会い……拾われた?
どうやら、捨て子が冒険者をしていると勘違いされていたらしい。着ているものは上等な物だったので、自分達の様に家を出た貴族の子供だと勘違いしていた様だ。
最初は子供と間違えられて面倒だったけど、徐々に根は優しい子達だと気づいてからはアリシア達が殺されないように子守りをする事にした。暫くは退屈しのぎになるかなって。せめてこの子達が人生の伴侶を見つけるか、寿命で死ぬかのどちらかまでは共に行動をしようと思った。
私はエルフ。半精霊のエルフ。だから、100年や200年くらい余裕で面倒を見れる。
でも、アリシア達にも私の素顔は見せていない。私は常に個室を取り、食事も一人でしていた。誘われたら行くけど、フードを取るつもりはなかった。
また、嫌われてしまう。
また、避けられてしまう。
そんな思いが脳裏を過ぎり、私はアリシア達に顔を見せる事が出来なかった。
それなのに……気が緩んでた。
今日は久しぶりに退屈を忘れる事が出来た。そして、未知への探求はまだまだ止まることは無い。
リディ様にも出会えた。私が祈りを捧げると首を傾げてしまわれたけど、フード越しに頭を撫でてくれた。……姉が出来たみたいで嬉しかった。
何より、私はダイキと出逢えた。
精霊に愛されし者。
創造神の寵愛を受けし者。
でも、それだけじゃない。
私はあの時、オーク・キングの死体のそばに立つダイキの周囲に居る精霊を見て確信した。
精霊は相手の心を見透かしてしまう。
邪な考えを嫌い避け、善に惹かれて寄ってくる。
ダイキの傍に寄り添う精霊達は……みんな幸せそうだった。
びっくりした。
精霊があそこまで人族を好く事なんてないと思ってたから。神託を授かる事の出来る司祭や、神の眷属である聖獣の前ですらあそこまでデレデレとした様子で寄り添う事はない。
精霊は人の心を見透かす。だからこそ好き嫌いがハッキリしている。精霊に好かれる者は、優しさを持っている者。
私はそんなダイキに興味を持ち近づいて……そして、彼の傍で生きていたいと思った。
恋や愛は分からない。
私はひとりぼっち。孤独を生き続けてきた半精霊。
だからリディ様みたいになりたいのかと問われても……答えに窮してしまう。分からないから。
でも、彼のそばは温かい。
彼のそばは楽しいに満ちている。
彼のそばは退屈を忘れさせてくれる。
彼のそばには、幸せが溢れている。
家族のそば以外で初めてずっと居たいと思える場所に来れた。
――だから、浮かれてしまっていた。
「……あ、左目は、生まれつき。これは……その」
直ぐに隠したけど、もう手遅れなのは分かってる。
私は"始まりのエルフ"である御先祖様の血を濃く受け継いでいるから、その見た目は良く似ているらしい。書物にもそう書いてあったし、実際にリディ様と会って自覚した。
だから、ダイキに見てもらいたかった。リディ様と同じである事を知ってもらいたかった。それだけしか考えてなかったから……気づくのが遅れてしまった。
怖い……。
折角見つけた居場所を失うのが怖い。
退屈が戻って来るのが怖い。
何より……そばに居たいと思う人に嫌われるのが怖い。
「――シェリル」
「っ……」
私の両肩にダイキが手を置いた。それだけで私の体は大きく震えて血の気が引いていく。
隠されていない右目は閉じてしまっいるので、今ダイキがどんな表情をしているのか分からない。
でも、それがある意味救いであるようにも感じた。もしも嫌そうな顔をしていたら、私の心は耐えられなくなる。
だから、怖いものを見ないように私はギュッと目を閉じた。
「…………」
ダイキはそれから一言も話すことなく、私たちの間には会話はない。聞こえるのは外で騒いでいる仲間たちの声だけ。
その声を聞いているだけで……私は堪えていたものが溢れ出そうになった。
そっか……私はなんだかんだ言って気に入ってたんだ。仲間たちと共に居るこの空間が、気に入っていたんだ。
嫌だ……嫌だ……。
ここから離れたく……ない。
そんな私の肩に置かれたダイキの右手が離れていく。
あぁ……ダメなんだ……。そう思った。
私が怯えていたせい?
何も言えなくなってしまったせい?
どれが原因か分からない。
怖くて、声が出なくて、聞くことも出来ない。
だけどこれで、終わってしまう。次は左肩から手が離れて……そして最後にはきっと、ダイキ自身が離れて――――っ!?
左手が私の肩から離れた直後、突然私の体が地面から浮き上がった。脇の下に手を差し込まれた感覚があり、多分私は……ダイキに持ち上げられてるんだと思う。
そして、そのままダイキは歩き出したかと思ったら直ぐに止まり……私は何か温かいものの上に座らされた。
先程までの浮遊感は消えて、背後からダイキの気配がする。
つまり私は今……ダイキの、膝の上?
♢♢♢
何かに怯えた様に見えるシェリルを放っておく事は出来ず、とりあえず膝の上に乗せてみた。
そして、乗せた後で後悔する。
や、やべぇ……子供扱いしてしまったと。
ただ、あそこで俺が何を言ってもって感じだったんだよなぁ……。原因は恐らく左目なんだろうけど。
シェリルの左目は右目と色が違っていた。
金色に白い瞳孔で、ミムルの瞳の色とちょっと似ている。オッドアイって奴だ。
オッドアイって確か猫に見られる事が多いんだっけ? でも、ここは異世界。もしかしたら、特殊な目だったりするのかな?
しかし、シェリルの怯えた様子から見て……あんまりいい思い出はなさそうだ。
「えーっと……」
「っ……」
そして今も、俺の膝の上で震えている。
左目を覆っていた手は自身の膝上に移動したけど、相変わらず目はギュッと閉じられたままだ。
な、なんか俺がいけない事をしてるみたいで物凄く罪悪感が……こ、怖くないぞー?
そんな意味合いも込めて、子供をあやす様にシェリルの頭を撫でてみる。
「っ……?」
一瞬だけ驚きはしたものの、特に嫌がる素振りは見せなかったので結局そのまま撫で続けた。
それにしても、本当にリディにそっくりだな。
リディが子供になったら、こんな感じなのか……うん、可愛いな。なるべく強くならない様に優しく丁寧にサラサラのプラチナブロンドを撫でていく。
こっちに来てお風呂に入ったのか、シェリルの長い髪からはほのかにいい匂いがする。
それも、他のみんなから香る匂いとは違う匂いで…………あっ! 何処かで嗅いだことのある匂いだと思ったら、シングルルームのお風呂に置いてあったシャンプーの匂いだ!
このグランドホテル、実は各フロア毎にお風呂に備え付けてあるシャンプーが違う。
例えば温泉スパならハチミツの様な香り。マスタースイートならミルクの様な香り。そしてシングルルームなら柑橘系のサッパリとした香りと……部屋の種類によって色んな設備が変わっている様だ。リディの謎のこだわりを感じる。
そしてシェリルと同じ様にお風呂に入ったであろう桜崎さん達からほのかにハチミツの様な匂いがしていた。柑橘系の匂いがするシェリルとは違う匂いである。
桜崎さん達は温泉スパに入ったって言ってたけど……シェリルは行かなかったのか?
もしかして、他のみんなにも素顔は見せていなかったのだろうか?
そんな事を頭の中で考えながらシェリルの頭を撫でていると、漸くシェリルの震えがおさまってきた。
目に入っていた力も少しだけ弱まっているみたいだし、ちょっと安心。
相変わらず目は閉じられたままだけど……こりゃ、目に関する事でイジメとかあった感じか。
確かに地球でも珍しがる人は居るだろうけど……猫とか、コスプレとか、映像作品とか、オッドアイ自体は何かと目に触れる機会はあるから、俺はあんまり気にならない。むしろ……綺麗だなって思った。
それを伝えたい。
声に出して言いたいけど……果たして、いまのシェリルにそれを伝えて大丈夫なのだろうか?
コンプレックスに触れる行為だし、控えた方がいいのかなぁ……。
「…………なんで」
「ん?」
「……なんで、逃げないの?」
「逃げないよ?」
やっと話してくれたと思ったシェリルの話は……奇々怪々? ちょっといきなり過ぎて何を言われているのか分からなかった。そして思わず撫でていた手を止めてしまった俺が逃げないと言うと、シェリルは俺と向かい合うように体の位置を変えて……ゆっくりとその瞼を開く。
そんな彼女の表情には、怯えや恐怖が色濃く出ていた。
「……みんな、私が怖いって。気味悪いって。顔を見てそう言ってきた」
「……」
「……仲良くしたい人は、必ずみんな私の顔を見て離れて行く。怖がられる。避けられる。だから、私は顔を隠してきた」
そう語るシェリルの瞳には涙が溢れている。
これは……俺が思っていたよりも、オッドアイに関する偏見は強いのかもしれないな。また震えてきてるし、今までどれ程辛い目にあってきたんだろう?
そっか。俺が目の前から居なくなると思って……それが怖くて怯えていたのか。
なら……俺に出来ることは――たった一つだけだな。
「――シェリル、よく聞いて?」
「……うん」
「今までシェリルがその目の事でどれだけ傷ついたかは……残念だけど、俺には分からない。それはシェリルだけが経験した事で、俺が軽々しく共感していいものではないと思うから。でも、そんな俺でもわかる事はあるんだ……」
シェリルの目を真っ直ぐに見つめて、その心に語りかけるようにゆっくりと話していく。
今度は俺が見つめても、シェリルは目を隠そうとはしなかった。まだ怯えは消えていないけど……逃げないで俺の話を聞いてくれている。
そんなシェリルの両頬に、俺は優しく手を添えた。そして、その綺麗なオッドアイに溢れる涙を親指で優しく拭ってから優しく微笑みかける。
「シェリルの目は、凄く綺麗だよ」
「……え?」
「今までシェリルがどんな酷い事を言われたのかは分からない。こうして震えて怯えてしまうくらいには、辛く苦しい思いをしてきたんだと思う。でも、どうか自分自身の事は嫌いにならないで欲しい」
シェリルの両頬を優しく撫でながら、俺は嘘偽りのない本心を目の前の女の子に語り掛ける。悲しいだけじゃない、辛いだけじゃない。怯える必要なんてないんだと伝える為に、俺はシェリルと向き合う。
「その瞳を憎まないで欲しい。その瞳を恐れないで欲しい。その瞳を拒絶しないで欲しい……その瞳も含めて……シェリルの事を大切に思ってくれる人は、きっと居るはずだから」
「……っ!!」
「どうか恐れないで欲しい。シェリルの瞳は綺麗だよ。例え他の奴らが否定したって、俺が何度でも肯定する。何度だって褒めるし、こうしてそばに居続ける」
語り掛けている最中の俺の手に、シェリルの瞳から溢れ出る涙が伝う。その涙を優しく何度も何度も拭って、俺はシェリルの額に自分の額を重ね合わせた。
「……居なく、ならない?」
「ならないよ。シェリルが嫌がっても、こうしてそばにい続ける」
「……怖く、ないの?」
「怖くない。こんなに綺麗な瞳を持つ可愛らしい女の子を怖がったりしないよ? シェリルは綺麗で、可愛い女の子だ」
「…………そばに、そばに居ても……いい?」
ぎゅっ……。
俺の服の胸元部分を強く握りしめながら、シェリルは恐る恐るといった様子でそう聞いてきた。
なので俺は、重ね合わせた額を離してから満面の笑みを浮かべて答える。
「当たり前だろ? シェリルが居たいと思ってくれているのなら、今日からここが――シェリルの居場所だ!」
「…………うん……うんっ。ここが、あなたのそばが、私の居場所。大切な居場所……やっと、やっと見つけた……っ!」
「おっと……よしよし。今まで頑張ったな。今日からは俺やリディ、ミムルやマルティシア……それに桜崎さん達やレオニス達だって、変わらず一緒に居てくれる。みんな一緒だ」
嬉しそうに笑いながら、とめどなく涙を流し続けるシェリルの頭を優しく撫でる。その行為はシェリルが泣き疲れて眠るまで続いた。
俺の胸の中で眠るシェリルの顔は愛らしくて幸せそうで、楽しい夢でも見ているのか口元には笑みが浮かんでいた。
さて、このままシェリルをシングルルームへ送り俺はみんなの所に帰ろうと思ったんだが……空いているシングルルームの一室へと入り、シェリルをベットの上に寝かせようとしたところで、思わぬアクシデントが起こった。
「そーっと……そーっと……」
「……っ」
「くっ……ダメかぁ」
何故かは分からないが、シェリルをベッドに仰向けにして寝かせてから離れようとすると直ぐさま泣き出しそうな表情へと変わり、一生懸命に俺の服を掴んで来る。
多分、離れたら高確率で泣き出すと思う。
……流石にあんな事を言ったあとにポイッと悲しげな表情を浮かべるシェリルを置いていく訳には行かない。
「うーん……まあ、しょうがないか」
起きてから何か言われたらちゃんと事情を説明して弁解しよう。
そう覚悟を決めた俺は、リディに事の顛末を説明して後のことを任せてからシェリルの寝ているシングルベッドへ横になる。
「……うん、シェリルは小柄だから問題はなさそうだな」
ぶっちゃけ昼寝をしてしまったからまだ眠くはないんだが、今日はマスタースイートには戻らずこのままシェリルと一緒に寝ることにした。リディに念話で伝えたら【ごゆっくり楽しんで下さい】とか言われたけど……寝るだけだからな! 現にシェリルだって既に寝ている訳だし、何もやましい事はしない!
そう自分に言い聞かせてから俺は照明を常夜灯のみにして眠る準備を終えた。
「……ん」
「は? え、ちょっ? シェリル?」
なんとか無事に横になれて、あとは眠るだけと安堵したのも束の間。
何故かシェリルは右隣に寝ている俺の方へと体を密着させて、そのまま右腕と上半身の隙間に潜り込むように入ってきた。
そしてその後もモゾモゾと位置を決めるように体を動かし続け、最終的には顔を俺の右肩へと乗せてコアラのようにしがみつく形で動きを止めた。
ち、近い……。そして、出来れば密着した状態でモゾモゾと動くのはやめて欲しかった。
俺はさっきまで知らなかったが、シェリルは外套の内側に簡素な白い肩紐ワンピースしか着ていなかったのだ。
うん、なんかほのかに柔らかいし、いい匂いもするし、動く度に艶かしい声が小さく聞こえるし……俺の眠気は完全に遠のいてしまう。
……耐えろ、耐えろ俺!!
そこら辺の童貞男子とは違うということを証明して見せろ!!
願わくば、ここがシェリルにとって心安らぐ楽園になります様に。
そんな事を心で思いながら、俺はなるべくシェリルの事を意識しない様に心掛けて眠る努力をした。
明日の予定とかは決まってないけど、寝不足にだけはならない様にしよう。
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