第70話 十五日目(夜) だ、大丈夫……俺にはこのオーナーカードがあるから(震え声)!
異世界にやって来て半月になる今日の夜。
俺を含む"リゾート"に滞在中の男性陣は現在、ファミリーレストラン『やみつきyummy!』で軽食……とは名ばかりのガッツリ晩御飯を食べている。
最初は本当に軽く食べるだけの予定だったが、『やみつきyummy!』の料理が予想を上回る美味さで冴木が注文した商品は瞬く間に消え去った。
『ヤミィ・ヤミィ・ポテト』を一つ食べた一同が無言で食事をする光景は、いま思い返すと不気味に見えるかもしれない。本当に一言も話さずに、みんな目の前の料理に集中してたからなぁ……偶にお酒を頼む時に鳴る注文パネルの機械音がよりその空間の異様さを醸し出しいたと思う。
そこからはレオニス達の「これってどんな料理だ?」みたいな質問に答えつつも各々好きな物を注文。
流石に一度しっかりと味わった事で無言で食べ続ける事は無くなったのだった。
恐ろしや……『やみつきyummy!』。
それにしても、やはりこのスキル『リゾート』は規格外のスキルだな。
リディの話によればこの"リゾート"で生成されたモノに関しては全てリディの組み上げたシステムで管理されているらしい。
現に今も、テーブルの上に乗っていた空のグラスやお皿は注文パネルのメニュー画面にある『回収』ボタン一つで消えるし、注文した料理も頼んだら直ぐにテーブルの上へ転移してくる。
しかも『回収』ボタンに関しては"一括回収"、"選択回収"、"自動回収"等細かく設定することが可能であり、注文に関しても時間指定が出来たり特定の食材や調味料を抜く事も可能であった。
まさに至れり尽くせりである。
後、これは"商品と引き換えに精算"ではなく"後払いで精算"するシステムを採用した全店舗に言える事ではあるのだが……もしも精算時にPtが不足していて、尚且つPtに帰ることの出来る魔石等を持っていなかった場合…………支払い能力が無い者と判断され、特別収容ルームへと転移させられるらしい。
収容ルームは一辺が10mの正方形の部屋となっていて、四方の壁は鼠色をした頑丈な壁で覆われており窓は無い。部屋の中には品質の低いベッドが一つだけあり、扉は一つだけあるのだがそこにあるのは質素なトイレだけ。
そこへ転移された者は支払いPtを満額支払い終わるまで魔力を強制的にPtに変換される事となり、ベッドのみが置かれているのも魔力切れになって意識を失う事を考慮しての事だった。
収容ルームではPtへの変換以外に魔力の使用は出来ず、対象者のステータスを一時的に封印……全てのスキル・称号は使用不可となり能力値も体力・魔力以外はオール1になる。
興味本位で1回だけ体験したことがあるけど、ステータスありきの生活に慣れてしまったが為に身体は重く感じるし、何より強制的に魔力を奪われるので全く動けなくなってしまう。自業自得ではあるのだが……もう二度としたいとは思わなかったなぁ。
あ、ちなみに食事や水は最低限の物が出される。ロールパンと野菜ジュースがね?
最初はカッチカチのパンと生温い水だけだったのを、俺がお願いして変えてもらったんだ。
まあ"リゾート"に招待した時点で招待者は仲良しの人が殆どだろうし、これはもし足りなかった場合の救済措置であって地獄を見せるのが目的では無いからな。
代理人をリディに名乗り出れば即開放されるようにしてあるし、延々と収容される様な奴はいないだろう。
…………うん、調子に乗って「今日は俺の奢りだ〜!」とか言っちゃったけど大丈夫のはず。
俺のカードの中にはとんでもない桁のPtが入っているのだから。
ただ……こっちの世界の人って本当に良く食べるよなぁ。
ミムルの話ではステータスによって大幅に増幅された身体能力に比例してカロリー消費も高くなるからとの事。
ただ、身体能力の向上による食費の増加は基本的には軽微、問題は魔力消費が多い場合の方らしい。
なのでこっちの世界の人達は地球で暮らす人々よりもステータスという恩恵のお陰で強なる分、肉体を維持する為に多くご飯を食べる様だ。
現にここに居るレオニス達は本当に良く食べる。
現役冒険者であるレオニスやジールは勿論のこと、ガッシリした筋肉を持つガルロッツォ様も『やみつきyummy!』のお肉系メニューを制覇しておかわりする勢いで食べていた。
肉体が若返ったからなのか先に述べ3人の様にガツガツと食べている訳ではないが、オーエンさんも美味しそうに微笑みながら素早くナイフとフォークを動かし続けている。お供は生ビールから赤ワインへと変わってました。オーエンさんはお肉系だけに拘らず、様々な種類の料理を満遍なく食べ続けている。
……高速で動く手さえ見えなければ優雅なんだけどなぁ。
1番ペースが遅いのはガルロッツォ様の従者であるルークさんだ。
最初はガルロッツォ様が食べ終えてから食事を摂るつもりだったらしいが、それをガルロッツォ様は認めなかった。
『今日は私の補佐をしなくていい。その方がダイキくんも気を遣わなくて済むだろうし、何より食事の席は楽しい方が良いだろうからね。ジール、今この時は休暇だと思ってくれ、共に食事を楽しもうじゃないか』
『……はっ!』
そんなやり取りがなされ、ルークさんは白ワインを飲みながら味わう様に魚料理を食べている。
どうやらルークさんは魚が好きな様で、頼んでいるメニューも魚系の物が殆どだった。
それをゆっくりと、噛み締めるようにして食べている。
家名がないってことは、この世界では平民何だろうけど……その立ち振る舞いを見たら実は貴族ですと言われても納得してしまう気がする。なんていうか、所作が綺麗なんだよなぁ。
……さて、俺のPtはどれくらい減るのだろうか。
ま、まあ、リディやミムルが居なくて正直ホッとしている。あのコンビは痩せているのに信じられないくらい食べ続けるからな。料理を振舞っていた俺がソース(情報源)です。
だから、女性陣に見つかる前に早いところ食べ終わ――――「「「わーいっ! 『やみつきyummy!』だぁっ!!」」」…………くっ、遅かったか!!
右側の通路先に楽しそうにはしゃぐ転移者組の女子たちの姿が見える。
懐かしい光景に大喜びな女子達とは違い、静かに周囲を見ているのは公爵家の方々や"炎天の剣"の女性メンバーとリリィさんだ。
……そんな面々をスルーしてニコニコと嬉しそうに歩いて来るのはリディ、ミムル、マルティシアの3人。
おい、その両手に持ったナイフとフォークは何処から出した。そしていつの間にマルティシアは腹ぺこコンビの傘下に入ってたんだ!? 聞いてないぞ!?
賑やかなその雰囲気に食事をしながら談笑していた男性陣も女性陣に気づき、一旦食事を止めてから女性陣へと声を掛ける。
…………Pt、大丈夫だよね!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます