第71話 十五日目(夜) いつの間にかお金持ちになっていた件。




『ご馳走様でした!』


 満面の笑みを見せる一同からのそんな言葉に俺も笑顔を返して席を立ち、そのまま歩いて入口のそばにあるレジへと向かう。


「あはは……いっぱい食べてくれて……嬉しいなァ……」


 本当にいっぱい食べたねぇ……約1,500,000Pt分もたっぷりと……俺、こんなにPt使うの初めてで手が震えてるんだけど!?

 隣でリディがケバブを食べながら「大丈夫れふよ」とか言ってるけど、こんなに桁の多いPtを支払うのは緊張するんだよ! てか、まだ食べれるの!?


「ごくん……ご安心を、今みなさんが食べている物に関しては各々で支払いすることになっているので。先程話し合いをしました」

「あ、そうなんだ……って、他の人も食べてるのかよ……」


 しかも俺、その会議に呼ばれてないけど……俺がレジに向かってる間に決まったのね? 明日体調悪くなった人の為に胃薬でも用意しといた方が良いかな……いや、ここはポーションか魔法の方が良いのか? わ、分からん……。


「はぁ……。とりあえず、この桁の多いPtを支払うか…………足りるかな?」

「らいじょーぶっ! んぐっ、私がたまにそのカードにから!」


 支払い画面に表示されたPtに肩を落としながらそう呟く俺に、リディの後ろに付いてきていたミムルが満面の笑みを浮かべてそう返して来た。


 ……その両手に持ったクレープはデザートかな? さっき山盛りのホットケーキを食べてた気がするんだけどなぁ。


 …………ん?

 神力を変換して貰ってた…………っ!?


「な、なにこれ……」


 ミムルの話を聞いて嫌な予感がした俺が自分のカードのPt残高を確認してみると、そこには有り得ない桁のPtが入っていた。


【10,040,050Pt → 650,780,950Pt】


 おい……入れすぎだろ!?

 神力が魔力や魔石よりも変換率が高いのは知ってるけど、流石に多すぎやしないか?


「文句ならこの女神に言って下さい。私はただ注がれた神力を変換しただけですので」

「うぇっ!? いや、ほら……お金とかって多ければ多い程嬉しいんでしょう? だから、いっぱい入れたら喜んでくれるかなぁって……ダメだった?」


 あっさりと白状したミムルが申し訳なさそうにこちらを見あげてくる。

 別に怒っている訳では無いので、しょぼんと肩を落としているミムルの頭に手を置いて優しく撫でておいた。


「……ちょっと驚いただけで、別に怒ってる訳じゃないんだ。寧ろ、こんなにPtが増えるまで神力を注いで体調が悪くなったり、ミムルが何かしらの被害を被る事にはならないか? 俺はそこが1番心配だ」

「大樹くん……。ありがとう! でも大丈夫っ! 本当に気持ち程度の量しか注いでないから。私にはなーんにも問題ないよっ!」


 そうかそうか……なら良かった。

 だからさ、両手にクレープ持った状態で抱きついて来るのはやめようか。ぎゅ〜っと抱きついている所為で腰の辺りにべちゃって……会計が終わったら"浄化"を使って綺麗にしよう。


 抱き着いてきたミムルの頭を撫でながら神力をPtに変換してくれたリディにもお礼を言いつつ、俺は恐ろしい桁のPtが入っているカードをレジの手前に置かれた支払いパネルへと翳して支払いを済ませた。


【650,780,950Pt → 649,304,100Pt】


 ピッと言うシンプルな電子音がなり支払いが完了した事を教えてくれたので、翳したカードをパネルから離して残高を確認する。

 無駄遣いは今後もなるべく控えるつもりだけど、これじゃあ減らそうにも減らせないだろうな。今後は外から魔石も持ってくるつもりだし、益々増える一方だろう。これからは度々こうしてみんなで集まって、俺の奢りとして食べてもらったりしようかな?


 それと、神力を注いでくれたミムルとPtへ変換してくれたリディ、いつもお世話になってるマルティシアなんかにプレゼントを渡すのも有りだ。

 あ、その時には新しく恋人となってくれたシェリルの分も用意しないとな。不公平なのは良くないから。


 支払いが終わり、俺の背後の腰辺りにクレープの生クリームがついてしまっているのに気付いたミムルが慌てて離れてくれたので、謝るミムルに苦笑しつつも"浄化"の魔法を発動し体全体を清潔にする。


 そうして口に残っていた料理の油や服に跳ねてしまっていたソースなんかの汚れも綺麗になったのを確認してから俺はミムルとリディを連れてみんなの元へと戻る事にした。





 ………………むぅ。


 ――ピッ。


「――ますたー、それは面白いのですか?」

「――なにこれ? "砂を削ってお宝を探せ! ごく稀に本物のダイアモンドが入ってるかも!?"……ダイアモンドなら、私がおっきいの出してあげるよ?」


 レジの隅っこに置いてあった玩具の一つ『目指せ、採掘王!』を箱ごと購入してしまった。

 2人は突然レジ前に戻って行った俺が気になったのか、俺の後ろまで追いかけて来て様子を見ていたらしい。

 購入した『目指せ、採掘王!』を一つずつ持ち上げて遊び方を見た後で、不思議そうな顔をして俺に面白いのかを聞いてきた。


 うーん……俺は面白いとは思うけど、どちらかと言えば1人で黙々とやる系の玩具だからなぁ。


 後ミムル……別に俺はダイアモンドが欲しいわけじゃないから、さっきまでクレープを持ってた右手にポンっとこぶし大のダイアモンドを出現させるのはやめなさい。本当に心臓に悪いから!


 こういうのは自分で掘り当てることに意味があるの!


 そうしてミムルに輝くダイヤモンドをしまってもらってから、俺も購入した『目指せ、採掘王!』を『簡易収納』の中へと片付けて今度こそみんなの元へと向かう。


 『目指せ、採掘王!』は今度ゆっくりと遊ぶとしよう。


 とりあえずこの後は特に予定はないので明日の朝まで自由時間でいいけど、その前にみんなの明日の予定を聞いて置かないと。

 特に公爵家やオーエンさんがどう動くのか気になるしな。



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