第72話 十五日目(夜) RPGゲームで見かける、あのお店。





 こんばんは。

 桁のおかしいPtにものを言わせて収容ルーム行きを難なく免れる事が出来た俺です。


 見たかこらぁ! これが女神様Ptの力じゃー!!


 魔力量には自信があるけど、流石に100万を超えるPtを払いきるには何日軟禁されるか分かったもんじゃないからな。本当に助かった。


 そうして難を逃れた俺はいま、3つのグループに別れて席に座る全員を前にしてこれからの事について話をしている所である。


 男性陣が座るグループ、異世界組の女性陣が座るグループ、そして転移者組の女性陣が座るグループの3つ。

 俺の左右にはリディとミムルが並び立ち、ミムルの隣にはマルティシアが控えていた。


 別に立つ必要はないとは思うんだが、どうせこの後は自由時間になる訳だし移動すると思ったから立ったまま話をする事にしたのである。


「――さて、この後は自由時間。別に就寝時間を決めている訳では無いけど、明日に響く様な事態は避けるようにして下さい。そこら辺は自己責任です! 特にお酒を沢山飲んだ大人組!」


 そう言って現在進行形でワインを飲む冴木以外の男性陣に目を向ける。

 まあ、女性陣の中にも飲んでいる人は居たし、サッと視線を逸らした公爵夫人や公爵令嬢も居たしな。フレイは俺たちと同じくらいに見えるけど……お酒を飲んでいいのか?

 あ、でもこの世界での成人は15歳なんだっけ?


「……エムルヘイム王国では酒精を含む飲料を飲むのに年齢の制限はありません。この世界の一般常識として赤子に飲ませる様な事はありませんが、10歳を過ぎた子供がお祭りで飲む事もあるくらいですから。ちなみに、フレイシアの年齢は17歳ですよ」

「……同い年だったんだ」


 やっぱり年齢制限はないんだな。

 それでも、俺はなるべくお酒は飲まない様に心掛けているけど……悪酔いした恋人たちを見てるからなぁ。介抱する人も必要だと判断した。それにもしも誤って飲んだとしても『状態異常耐性』スキルを意図的に切らなければ酔わないらしいからな。

 もしも外の世界で飲まなきゃいけない事態になったとしても問題ないだろう。


 スキルか……丁度いいし、みんなが集まっているこの場でミムルとリディが用意してくれたっていうについての説明をしておこうか。


 そう思った俺は気まずそうにしながらも、ちびちびとワインを飲み続けている男性陣から視線を外して話を始めた。


「えーっと、これは今日でも明日でも……まあ何時でもいいんだけど、ここに居るみんなには知っていて欲しいし出来ることならよって行って欲しい場所があるんだ」 「よって欲しい場所……?」

「ああ。ミムルとリディの協力の元に作られたお店――――その名も"スキル屋"だ」

『……っ!?』


 首を傾げるフレイに俺がそう答えると、3グループの席に座る全員が驚愕していた。男性陣もお酒を飲む手を止めてこちらへと顔を向けている。特に冒険者であるレオニス達は大きな音を立てながら椅子から腰を浮かせていた。


 レオニス達がこんな反応をするのには理由がある。

 実は、この世界には"スキル屋"が存在しないのだ。


 スキルを覚える方法は大きくわけて2つ。


 一つ目は、世界のシステムによってスキル獲得の条件を満たしたとされた場合に自動的に付与されるパターン。

 これは気づかないうちに付与されている事が多く、ステータスを確認したら増えていたという事が殆ど。狙って手に入れられるものでは無い。


 そして2つ目が……消費アイテムである"スキルの書"を使う事によって手に入れる方法。

 本当にごく稀にではあるが、ダンジョンで魔物を倒したり隠し部屋を見つけたりした際にドロップや宝箱の中に"スキルの書"が含まれている場合があるのだ。


 "スキルの書"は中に保管されているスキルを取得条件を無視して使用者に付与するという、1回限りの消費アイテムである。俺もミムルに貰って使った事があるけど、失敗する事はまず無いらしい。

 それに、もしも使用者が"スキルの書"の中に保管されているスキルを既に所持していた場合は"スキルの書"が使用出来ないという無意味な消費を防ぐプログラムも施されている様だ。


ちなみに"スキルの書"自体を作る事は出来ないけど、何もスキルが保管されていない"スキルの書"が出る事もあり、それに特殊な工程を加える事でオリジナルの"スキルの書"を生み出す事も出来る。

 ……実は、俺は既にミムルから空っぽの"スキルの書"を貰っていてあるスキルを作ろうとしている。

 暇な時にでもーとか言ってたら全然時間が作れてなくてまだ出来てないけど、近日中には作りたい……!


 完成したら1度ミムルに見せる約束をしているので、そこから世界に影響を与え過ぎないかどうかの調整が入り、実際にミムルがテストしてからとなるので……本当に使えるのはさらに先になる予定だけどね。


 閑話休題。


 話を戻すが、"スキルの書"は上記の説明通りその入手難易度や中に保管されているスキルを無条件に入手出来るという破格の効果を持つ貴重なアイテムだ。

 その為市場に出回ること自体が殆どなくて、基本はオークションや国の宝物庫などにある。

 というのも、基本的には発見者が黙って使ってしまう事がほとんどで売りに出されること自体がレアケースなのだ。

 お店として利益を出そうにもそもそも入手ルートが確立していないので不可能。


 なので"スキル屋"なんてお店を出せるのは……この"リゾート"くらいなのだ。


「……俺は仲良くなった人たちには幸せになってもらいたい。でも、この世界では魔物や悪人なんかに襲われる機会が多く、命の危険を感じることも多くなるだろう。だから、何時いかなる時にも対応出来るようにして欲しいとミムルやリディに頭を下げて条件付きでスキル屋を作って貰えるようになった。場所に関してはレオニス達が初めて来た時に転移した北エリアの冒険者区画にあるので、暇な時にでも見に行っ…………今すぐに行く?」

『行きます!!』

「あー、うん。今日初めて"リゾート"に来たガルロッツォ様達は北エリアが分からないと思うから、とりあえず俺が全員纏めて移動させるよ」


 思ってたよりも反響があったみたいで、今この状況で明日の話をしても無駄だなと判断した俺は、みんなを連れて1度"スキル屋"へと向かう事にした。


 お店を使う為の条件は簡単で……『大枝大樹の信用を裏切るような行為をしない事』らしい。

 これを破ったと判断された場合は、"スキル屋"で手に入れた"スキルの書"で覚えたスキルは全て消滅する様になっているらしい。


 そんな条件じゃ納得出来ない人も居るんじゃないかなって思ったけど……ミムルもリディも大丈夫だと言い切るので、とりあえず俺も納得する事にしたんだ。


 さて……みんなはどんなスキルを覚えようとするのかな?




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