第73話 十五日目(夜) スキル屋について① ※短めです。
――グランドホテルの4階にて夕食を食べ終わり、外はすっかり夜となっていた。
場所は"リゾート"の北エリア。
そこは通称"異世界エリア"と命名した場所であり、中央にある噴水広場を中心に縦横十字に伸びる大通りによって"異世界エリア"は大きく分けて4つの区画分けがされている。
今回用があるのはその4つの大きな区画の1つ、右上にある冒険者向けの区画だ。
噴水広場から右の大通りへと進み、噴水広場と右の大通りの端にある北エリアの外側を覆うように設置された石造りの見た目をした外壁との丁度中間地点、そこにある1軒の建物が"スキル屋"だ。
そこは前にチラッと通った時は扉も窓も閉まっていて、中も真っ暗な空き家状態だった。
しかし現在は木製の扉は開かれていて、中を覗いてみると眩しくない程度の明かりが照明の魔道具によって灯されている。
一応、"リゾート"内では夜でも出歩けるように等間隔で街灯が設置されてはいるので、現在は夜だが問題なく歩けていた。
「ほんと、ここの設備ってすげーよな。オルフェでも重要な建物の周りには魔道具の明かりがついていて明るいが……ここまでの明るさを持ってる訳じゃねぇし、街灯の数も桁違いだ」
「オルフェの街は安全な街を目指していますから、他の街に比べて治安に力を注いでいて女性も安心して暮らせる街として有名です。そんなオルフェの街よりも夜道が安全そうなのは……正直驚きですね」
レオニスとアリシアの言葉から分かる通り、普通は等間隔に街灯が設置されるような事は魔道具の維持が大変でありまず有り得ない事らしい。
ぶっちゃけてしまうと侵入者なんて来る事は不可能に近いので、ここまで街灯を設置する意味は無いのだが……まあ、だからと言って今更街灯の数を減らすのもなんか違う気がするし、夜道が明るいのは良い事だ。
俺はそう結論づけて、心の中で"リゾート"の設計を担っているリディに感謝を捧げる事にした。
そんな訳で、俺達は無事に"スキル屋"の前まで辿り着いた訳だが……みんなが夜の街並みに目を奪われている隙に"スキル屋"の前へと移動して、俺は1度だけ大きく手を叩いた。
「はい、ちゅーもーく! 人が居ない街なんて珍しい光景だとは思うけど、これからこの"スキル屋"について説明するのでちゃんと聞いてくださーい!」
そう言い終えてからみんなを見渡してみる。
……うん、全員ちゃんとこっちを見てるし、問題なさそうだな。
「よし、それじゃあこの"スキル屋"について説明を始めます。まず初めに、このお店に売っている商品は"スキルの書"ではあるんですけど、名前は一緒でも通常の"スキルの書"とは違う点が幾つかあるので覚えておいて下さい。ちなみにそれはこの"スキル屋"を作って貰っ時に定められた条件も関わっているので、ちゃんと聞いておいて下さいね?」
そうして俺は、通常の"スキルの書"とは何が違うのかをみんなに向けて説明していく。
まず、"スキル屋"で"スキルの書"を購入するには様々な手順を行う必要がある。
1つは魔力による所有者登録。
魔力はひとりひとりその性質が異なるものであり、完全に一致することはまず無い。その性質を利用したのが魔力による所有者登録であり、これは高い技術力を持つ魔道具技師が作った高価な魔道具やダンジョン産の激レア魔道具なんかにも利用されている。
ちなみに、この"リゾート"で支払いをする為に渡してある『リゾートメンバーカード』にもこの技術が使われていて、仮に盗まれたとしても魔力による所有者登録をした当人しかカードの効果を使えないので、他人に渡った時点でただの紙切れと化すようになっていた。
この技術が"スキル屋"に売っている全ての"スキルの書"に採用されていて、購入時に必ず所有者登録をしないとお店から出れない様になっているらしい。
まあ、要は本人しか使えないので他人に讓渡する様なことはやめてね? という事だ。あくまで使えるのは俺が信用した人物……つまりはこの"リゾート"に招いた人のみって事だ。
俺の信用を裏切る様な行為をしなければ問題ないので、ここに居る人達なら問題ない……と信じたい。
まあ、こうしてみんなの顔を見ながら説明をしているけど、真剣な様子で聞いてくれているし大丈夫だろう。
これからも、仲良くしていきたいな。
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