第74話 十五日目(夜) スキル屋について②
さて、1つ目の説明が終わったので続けて2つ目についても説明することにする。
2つ目は"スキルの書"を購入する最終確認として同意書への署名が求められる事。
同意書の内容は簡潔に纏めると……
・"リゾート"及び"スキル屋"の存在を大枝大樹の許可なく"リゾート"の外で漏らす事を禁ずる。
・大枝大樹を裏切る行為を禁ずる。
・大枝大樹の許可を得ることなく口外しようとすると、警告として激しい頭痛が襲い来る。(話そうとした対象が変わる度に最初の1回のみ発動する)
・大枝大樹の許可を得て秘密を話した相手が他者へと漏らした場合も上記の禁止事項に抵触するものとなる。
・これらの約束を守れなかった場合、"スキル屋"で獲得したスキルは全て没収し二度と"スキル屋"へ入る事が出来なくなる。
・尚、この同意書の約束が破られた場合、製作者であるリディ・ミムルルート・マルティシアにその事実が伝わる様になっている。
……こんな感じだ。
上記の内容を確認して同意するのなら下にある記入欄に自分のフルネームを書いてもらって契約完了となる。
俺も詳しくは知らないのだが記入する際に用いられるペンが特殊な物の様で、そのペンで文字を書くと自動的に極小量の魔力を吸い取られてその魔力がインクの代わりになるらしい。
インクの色は虹色で、そのインク自体が個人を識別する事が出来る仕様になっているので契約の際に影武者を用意する事は出来ない様になっている。
このペン自体は特に珍しい物ではなく羽根ペンや筆、万年筆など様々な形状で魔道具士が作成して販売していたりする……みたいだ。
というのも、俺は知らなかったんだけど万年筆タイプの特殊なペンを見せたら異世界組の殆どの人が「あぁ、それか」みたいな反応を見せていたのだ。
「その筆の事は知っていたよ。その性質から契約の際に使われる事が多く、王族や貴族はもちろんの事、大きな商会なんかでは必ず2本は用意している必需品だからね。後は貴族なんかと関わりのある冒険者も所持していると聞いた事があるかな?」
というのはガルロッツォ様の話。
その話を聞いていた異世界組のみんなの反応を見る限り間違いはなさそうだし、やはり一般的に知られている物のようだ。
レオニス達持っているのかな?
「ん? あぁ、俺達も持ってるぞ? 高いから俺とアリシアが1本ずつだけだけどな」
「ですね。ただ、基本的には依頼者である相手側が用意して下さることが多いので……契約書を交わす際に私達がペンを取り出すことは滅多にありません。冒険者が金貨数枚もするペンを所持しているとは思わないのでしょう。私達がペンを使用するのは個人的な事に対してが多いですからね」
気になったので聞いてみると、そんな答えが返ってきた。
……あのペン1本で金貨数枚もするんだ。
この世界の貨幣価値は、以下のようになっている。
半鉄貨……50円。
鉄貨1枚……100円。
銅貨1枚……1,000円。
大銅貨1枚……10,000円。
銀貨1枚……100,000円。
大銀貨1枚……1,000,000円。
金貨1枚……10,000,000円。
大金貨1枚……100,000,000円。
白金貨1枚……1,000,000,000円。
平民が贅沢をせず一月過ごすのに必要な貨幣はおよそ銀貨5枚前後。商人として成功するか、冒険者の様な命懸けの仕事をする以外で平民が金貨を目にする機会は無いとされているのを考えれば、平民が魔道具であるペンを持つのが如何に難しいか分かると思う。
俺も恋人たちからこの世界の貨幣価値について聞いていたから分かるけど……俺の場合は日本円に換算されたり、元の世界の貨幣価値も頭に入ってるから余計に高く思えてしまう。
だって、金貨1枚で10,000,000円だぞ?
ちょっと考えさせられるよなぁ……。
まあ、俺の場合は外に出ないし"リゾート"でもPtしか使ってないから、これから外に出て市場価格を把握していけば自然と納得出来る様になるのかもしれないけど……どうしても日本での価値観が残ってしまっていて、貨幣1枚の価値が高く思えてしまう。金とか銀とか、日常的に触れて来ない人生だったからな。
金投資とかよく聞くけど、まだ高校生の俺には分からない世界だったし。
そしてそんな高い魔道具のペンを2本も持っているレオニス達は、相当儲けているのだろうか?
確かもうすぐAランクになるんだっけ? 冒険者って儲かるんだなぁ……。
「……ますたー。貨幣価値について考えるのは構いませんが、皆様がお待ちですよ?」
「あっ、ごめん!」
うん、ちょっとお金の話に夢中になり過ぎてしまった。反省反省。
えーっと、確か魔道具のペンを使って同意書にサインしてもらう事までは説明したから……。
「あ、そうだ。スキルは一応多く取り扱ってるみたいだけど"オリジナルスキル"は無いので、そこはご了承ください。流石にあれはね……?」
みんなに対してそう告げると、多少残念そうにしてはいるがある程度予想はしていたのか特に不満が出る事は無さそうだ。
「店内には販売してるスキルが全て見れる様になってる操作パネルが幾つも設置してあるので、使い方が分からなかったりしたら遠慮なく俺とかミムル、リディやマルティシアに聞いてください。そして最後に……俺からみんなにプレゼントがあります!」
『わー!!』
『おー!!』
「お、おぉ……そんなに盛り上がられるとちょっと緊張するけど……まあ、そんな大した物じゃないからさっさと渡しちゃおうか」
そんな訳で、俺は一人一人の前に行ってプレゼントを渡して行く。
「えっ!?」
「こ、これは……」
渡して行く度にそんな声が聞こえて来て、サプライズにはなった様なので一安心した。
そうして最後の一人にまでプレゼントが行き届いたの確認してから俺は再びミムル達が居るみんなの前へと戻る。
「えー、受け取った時点でプレゼントの内容は分かると思いますが……それは"スキルの書"です。保管されているスキル名は『状態異常耐性』。きっとみんなの役に立つと思うから、今日買う"スキルの書"と併せて使って下さい。あ、ちなみにそれは俺が頼んで作ってもらったやつなので今直ぐに使え……ぉぉ、みんな迷いなく使ったねぇ……」
俺が今すぐに使えるといい切る前に、次々と"スキルの書"を使っていく面々。
やがて使い終わり各々が自分のステータス画面を確認する仕草を見せると、次第にその表情に笑みを浮かべ始めた。
うん……嬉しそうで何よりだけど、わざわざお礼を言いに来る必要はないと思うんだ!?
特に桜崎さんを筆頭とした一部の女性陣!!
女の子がそう簡単に抱き着いたりしたら色々と問題が……ちょっ、多い!! 多いから!! 押し潰されるから一斉に抱き着くのはやめ…………て待て待て待て!! リディとミムルとマルティシアは関係ないだろうが!!
あ、ヤバい……い、息が出来…………。
俺、鼻血とか出てないよな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます