第14.5話 SS リディが味覚に拘る理由。



 朝、昼、夜。

 "リゾート"に来てからというもの、殆どの食事はリディが用意してくれていた。


 カレー、サンドイッチ、おにぎり等など。後は間食として訓練の合間の休憩中とかにホットドッグや菓子パンなんかも。


 地球に居た頃は自炊していたので自分で作る事が減った事に多少の寂しさを覚えつつも、食べ物が直ぐに出てくるこのシステムは有難いなと思った。


 何より、ここで出される食事はどれも美味い!

 カレーはなんかスパイスの香りが際立っているように思えたし、サンドイッチなんて中に挟む具材によってパンの種類が違ったりしていた。当然ながら挟まれた具材も美味い。今日出されたおにぎりはお米が甘く感じるし、海苔の香りも良くて磯の風味が食欲を増加させる。


 地球にいた頃はわざわざお店に出向いて高い料理を食べる理由が全く分からなかったけど……料亭とかに通う人は、こう言う家庭では出せない様な味を求めて行っているのかもしれない。


 ここ数日の食事で、俺の味覚が一つ大人になった気がする。


 ただ、こうして食事をしている中で一つだけ気になると言うか……気まずい事があった。


「……リディ?」

【…………なんでしょうか?】


 それは、この万能スキル"リゾート"の自称監督であるリディの食事中の様子についてだ。


 ……初日に食べたBBQの時から何となくそんな気はしていたが、どうやらリディは食事に興味がある様だ。


 ここ数日、リディは俺が食べ物を口にする度にその詳細な味の感想を求めてきた。多分、経験が出来ない分を知識で補おうとしているんだろう。

 一人で黙々と食べるのはつまらないので、邪険にすることなく毎回答えてはいたけど……俺は食レポなんてした事が無いので、似た様な感想になりがちだった。

 

 いま思い返すと俺が焼いただけの肉串について度々【美味しいですか?】って聞いてきてたもんなぁ……やっぱり御飯を食べたいのかな?


【はい。BBQ、食べてみたいです。】

「え、BBQなの!?」


 サンドイッチとかおにぎりとかじゃないんだ?

 BBQはただ焼くだけの食べ物だし、そこまで拘ってる訳ではないと思うけど?


【私が食べたいのは、ますたーの焼いた肉串です。そして、それをますたーの前で食べるのです。】


 あ、俺が焼くんだ……。

 自分で焼いた方が良いと思うぞ? ああいうのって自分の好みの焼き加減で焼けるのが良いんだろうし。


【……自分で焼いても意味はありません。】


 と、言うと?

 

【私の初めての食事はますたーの焼いた肉串が良いのです。私が初めて食べたいと思ったのは、ますたーの焼いた肉串でしたから。そして、その肉串をますたーの傍で食べて"美味しいです"と口いっぱいに頬張りたいです。私が初めて傍に居たいと思った人の近くで。】


 リディ……。


「…………分かった分かった。いつか、もしもリディが体を手に入れたら……その時は、俺がお腹いっぱいになるまで肉串を焼いてやるよっ」


 ――――無理だとか、諦めろとか、そんなマイナスな言葉は口に出さない。


 ここは地球ではなく異世界だ。

 きっと、俺がまだ知らないとんでも技術や魔法があって、それを使えばリディも体を手に入れる事が出来るかもしれない。

 普通に歩いて、普通に声を出して、普通に食事をして……手を伸ばせば、触れ合う事だって出来るかもしれない。

 

 だから俺は明るい未来について語る。

 あの屋上のBBQ広場で、肉串を頬張るリディを優しく見守る自分の姿を想像しながら。


【……約束ですよ?】

「ああ、勿論!」

【お腹いっぱいですよ? 例えますたーの腕がプルプルして限界を越えようとも、私が満足するまで手を止めちゃ駄目ですよ?】

「お、おぅ……え、そんなに食うつもりなの?」





 この時、俺は知らなかった。


 面白おかしくもしもの未来を語る裏側で……リディがある計画を進めていた事を。

 そして、その計画は無事に遂行され――――リディが肉体を得て俺の前に現れる事を。


 そんな近い未来の事など露知らず。

 朝食を食べ終えた俺は、リディとの雑談に興じるのだった。



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