第23話 十三日目 乱戦の先、オークを屠る者。




 side シェリルノート



「そんな……どうして、いや……いやぁぁぁぁ!!」

「物部さん、落ち着いて下さい!!」


 ……油断した。

 この辺りは知っている土地だから。つい普段通りの警戒しかしていなかった。

 どうせオークが来ても、いつもみたいに狩り尽くせば終わりだって……油断した。


「くそっ……!!」

「落ち着いてください、レオニス」

「そうだよ、レオニスがイラついたって仕方がないでしょ? 今はとりあえず……転移者の子達のフォローが先だよ」

「……すまん、だがこれだけは許してくれ」


 オーク達の奇襲。

 それも百は越える数。

 中にはオーク・メイジやオーク・ナイト、オーク・ジェネラルも居た。間違いなくオーク・キングが誕生してる。


 オーク・キング。

 ダンジョンでなら見る機会は多い。でも、外では見ない。……見つけたら直ぐに討伐されるから。


 あれは危険。

 強いし、賢い。そして統率能力も高い。

 瞬く間に集団を作り、人型の雌を攫い、数を増やす。


 B級が5人以上でやっと倒せる様な相手、それがオーク・キング。手下がいるなら難易度は更に上がる。非常に厄介な相手。


 でも、私達にとっては問題ない相手。

 いつもならこのまま全員で森の奥へ行き、道すがらオークを倒しつつオーク・キングを狩る流れだろう。

 でも……今回はそうはいかない。


 慣れない護衛依頼。

 まだレベルが10程度の子供を守りながらの乱戦は難しい。

 そして何よりも――。


「ぐはっ……!!」

「テメェ……ふざけてんじゃねぇぞ!! 護衛である騎士が、ビビって護衛対象を突き飛ばしてんじゃねぇ!!」


 ……そう、騎士なんて名前だけの屑が一人。

 新人だとか、訓練では好成績とか、そんなのはどうでもいい。

 殴られた騎士を助ける者は居ない。もし居ようものなら……私が魔法をぶつけていた。


「……殺していい?」

「ヒィッ……」

「駄目ですわ。この騎士失格の愚か者は拘束し、オーエン大司教に委ねましょう。まあ、あの御方が許す事はまず無いでしょうが……恨むのでしたら己の愚かな行いを恨む事です」


 レオニスが殴り飛ばし、残りの"炎天の剣"や同僚である騎士達に侮蔑の目を向けられる屑。殺すのは駄目らしい。こんな屑、生きる価値すらないと思うけど。

 ……大司教に会ったら私も言わないと気が済まない。

 貴方が用意したのは、騎士の名を騙る屑だったって。


 さて、屑の対応は他の騎士に任せればいい。幸いだったのは、他の騎士はまともだった事。あんな屑は一人で十分……私が対応すると殺しちゃうから任せよう。


 問題なのは、護衛対象である転移者の子供達について。


「ひっく……美夜子ちゃん……まこちゃん……」

「大丈夫。大丈夫ですよ……きっと……っ」


 泣き叫ぶウイ・モノノベをシオリ・ササガワが慰める。慰めているシオリも泣いていて、他の転移者達も似たような表情をしていた。


 そう。

 あの時、乱戦で視界が悪く目の前の豚に集中していた時に……屑がオークにビビって、後ろに居たマコ・サクラザキとミヤコ・キサラギを押し退けて逃げた。らしい。その一部始終をレオニスはオーク・ジェネラルを抑えながら見ていたらしく、急いで二人の救援に向かったけど……間に合わなかった。


「状況から見て、あれは分断されたのでしょう。大勢の中から少数を分断し数を減らす……やはり統率されたオークは厄介です」

「そうですわね……そこしか逃げられる場所がなかったとは言え、逃げた先が森とは――シェリルノートさん」

「……なに?」


 ノアと話していたアリシアが私に声を掛ける。まあ、何を言われるかは大体予想できるし、私もそれが最善だと思った。


「時間がありません。私達はこの先の開けた場所で襲撃に備えながら待機しています。ですので、シェリルノートさんは森の中の探索をお願いできますか?」

「……了解。連れて帰る」

「どうか、よろしくお願い致します」


 淑女の礼をするアリシアに、私は頷いて答えた。

 それが最適だろう。私ひとりで動けるならならオーク・キングくらい屠れる。まだ分断されて間もないし、二人が居るのは森の浅い場所のはずだ。


 さっさとマコとミヤコを確保して、その後でオーク・キングを――――ッ!?



 ズンッ……………ズドンッ!!


 突然に感知した膨大な魔力。

 それが消えたと思った次の瞬間には、何か大きなものが倒れる轟音が周囲に響き渡った。


「な、なんですの!?」

「この音は……森の中からか!?」


 アリシアとレオニスが驚愕しているのを無視して、私はスキルである『範囲探査』を使う。

 私を中心に薄い魔力の波を作り出し、それを広げて伸ばす。


 ‎…………捉えた!!

 反応は……三つ。

 二つは知っている魔力反応……マコとミヤコだ。良かった。ちゃんと生きてた。


 そしてもう一つ。

 知らないけど、知っている魔力。知らないのは今まで出会った事のない魔力だったから、知っているのは……それがさっき感知した膨大な魔力の持ち主だったから。


 何者なんだろう? 私よりは少ないけど……それでもあの魔力量は凄い。並大抵の者ではないはず。でも、知らない……今日、初めて感知した魔力。


 こんなに多い魔力を持つ者を私が知らない?


 ……考えるのは後でにしよう。

 それに――――会えば、分かる。


「……見つけたから、行く」

「へっ? あっ、シェリルノートさんっ!?」

「おい! 流石に危険だから全員で……って聞けよ、おい!!」


 アリシアとレオニスがなんか言ってたけど、無視する。


「"風の精霊よ、私は速さを求める"」


 スキル『精霊魔法』を使い、脚に風を纏い駆ける。

 飛翔の魔法は駄目。もしも戦う事になったら……その時を考慮に入れて魔力消費は抑えておきたいから。


 そうして風に乗り駆け足で森を進む。

 やがて目的地の近くまで来た事で……私はその光景に驚き足を止めてしまった。


「……オーク。でも、死んでる」


 何十体ものオークの死体が、そこには広がっていた。


 ……これは、氷?

 そして焦げた匂いもする。という事は火……いや、ならもっと燃え跡が残っている筈……まさか、雷?

 それによく見れば地面に不自然な出っ張りがある箇所が幾つか……面白い土魔法の使い方をしてる。


 氷、雷、土の三属性。

 希少属性を二つも所持している人なんて珍しい。それだけで興味の対象になる。

 でも、気になるのは更に奥……斜めに切断された木々が幾つもある場所。


 そしてそこが――『範囲探査』で三つの反応があった場所でもある。


「風の大魔法? いや、少なくとも私には出来ない……それに、切断面が綺麗すぎる」


 知らない魔法。

 知らない技術。

 知らない存在。


 …………退屈を変えてくれるかもしれない、未知の相手。


「……早く、会いに行こう」


 隠しきれない興奮と、治まらない胸の高鳴り。

 私は本来の目的を頭の隅に押し退け、私の欲求を満たしてくれるであろう存在へと会う為に歩みを進めた。







 ♢♢♢







 side 桜崎まこ



 




 あの雄叫びが聞こえた後、外に出た私達が目にしたのは沢山のオークが森から出て私達の馬車へ向かっている光景だった。

 言葉を失う転移者の私達に対して、レオニスさんからなるべく固まって動くようにと指示が入った。

 私と美夜子ちゃんは騎士の人達の後ろへと回り、私たちの後方に愛衣ちゃんと笹川先生が待機している。

 他のみんなも含めて、まだレベルの低い私たちは内側から無理のない援護をするのが役目だった。


 今までにない数の襲撃に場は乱戦状態に陥ってしまう。それでも全員が必死になって戦い続けていた。

 だからこそ、目の前のオークに集中していて反応が遅れてしまう。


『まこ、危ない!!』


 そんな美夜子ちゃんの声と共に、私の体が右から誰かに突き飛ばされてバランスを崩してしまう。何とか受身を取ろうとしたけど、目の前にはオークの持つ木の棍棒が迫って来ていて……私は咄嗟にそれを左手に持つ盾で受け流した。


『きゃっ!』


 しかし、直撃は免れてもその衝撃は私へと向かってくる。

 崩れた体勢では踏ん張ることも出来なくて……私はそのまま森のある方角へと吹き飛んだ。

 少しだけ痛かったけど、そんな事を言っている場合ではないと自分に喝を入れて私は立ち上がる。


 しかしながら……そんな私を嘲笑うかのように、既にオーク達は私とみんなの間を阻む様に立ち塞がっていた。


 ……それでも、私は絶対に生き残る。

 敵の多さに震える右手で必死に剣を握りながら、私はオークへと剣先を向けて戦えると意思表示をする。


 私はお前達なんか、怖くないぞって。


 本当は怖いけど、それでも負けたくないから……っ。

 そうしてオーク達が私の方へと足を進めて来たのを見ていたら……誰かが、私の隣に立っていた。


『"忍法――影潜みの術"ってね』


 "上級くノ一"。

 特殊職の一つであるその職業に就いているのは、私達の中では一人だけ。


『あー、やっぱりちゃんと印を結ばないと魔力消費が激しいねー。魔力ポーション何本あったかな?』

『……なんで? なんで私の影に入っちゃってるの――美夜子ちゃんっ!!』


 忍の装束を身に纏う美夜子ちゃんが、あっけらかんとした態度で魔力ポーションを飲んでいた。


『まあまあ、細かい事は気にしないのっ。うぐっ……うへぇ……苦っ!? からの連続でぇ……"忍法――霧隠れ"! "超忍法――疾風迅雷"……っ!!』


 その声と同時に、私達の前に濃い霧が発生しオークの姿が見えなくなる。

 その光景に驚いていた私は、稲妻の様なバチバチとした光を纏う美夜子ちゃんに手を引かれるままオークの姿が見えない森の中へと逃げ込んだ。


 そして現在――私達は森の中で隠れるようにして地面へ座り込んでいる。


「はぁ……はぁ……どう? リキャストタイム? って奴は……ふぅ、終わった感じ?」


 汗だくの状態で乱れた呼吸を繰り返す美夜子ちゃんが、私にそう聞いてくる。どうやら"超忍法"と言うのは魔力以外にも欠点があるらしく、連続では使えないみたいだ。


 そして、美夜子ちゃんの言う"リキャストタイム"が何の事かというと……私のオリジナルスキルの事だ。


「あっ、いま使えるようになったよ。――『万能結界』」


 私がオリジナルスキルの名前を呟くと、私の周囲を包み込むように透明な壁が展開された。


 これが私のオリジナルスキル――『万能結界』

 一度範囲を決めて展開すれば、私が解除しない限り壊れない……かもしれない強固な結界。入れる対象も私が決める事ができるので、外での就寝時には大活躍だった。

 一応レオニスさんやアリシアさんの全力攻撃にも耐えた実績はあるので、かなりの強度を誇る結界の筈だ。


 ただ、何処まで耐えられるのか実際のところは分からない。それに一度使うと再発動まで24時間待たなければいけないと言う欠点もある。

 成長型のスキルらしいので、使っていけばそう言った欠点も改善されるとは思うんだけど……今はこれで精一杯だ。


 結界を張ったことで、ひとまず安全地帯を作ることが出来た。先程までは警戒気味だった美夜子ちゃんもほっと一息ついて肩の力を抜いている。


「今で24時間って事は、あと数時間もしないうちに日が暮れるのかぁ……いやー、昨日はちょっと早めに休んでて良かったね?」

「……美夜子ちゃん」

「それにしても、やっぱ超忍法は辛いわ! 強力ではあるけど魔力の消費が凄いし、使い続ければ続ける程に解いた時の反動が凄く「美夜子ちゃん!!」――あー、まこ。何も泣く事はないでしょ?」

「だって、美夜子ちゃん、私の所為でっ」


 そうだ。

 美夜子ちゃんは私の所為でこんな事に巻き込まれてしまった。自分は安全圏内に居た筈なのに、忍術を使って私の影に入り込んで……自ら死地へと飛び込んで来てしまった。


 だから私は怒る。

 だから私は泣いてしまう。


 私なんかの為に……美夜子ちゃんまで危険な目に遭う必要はないんだから。


「もー、ほら泣かないの。よしよーし」

「うぅっ……ごめん、ごめんなさい……」

「だーかーらー! まこは何も謝る必要はないの! これは私が自分で決めた事なんだからっ!」


 強い力で美夜子ちゃんが私の頭を撫でてくれる。その度に私は涙が溢れてきて……美夜子ちゃんの優しさが嬉しくて、申し訳なくて、心の中がぐちゃぐちゃになってしまう。


 そうしてしばらく泣き続けていた私の頭を、美夜子ちゃんは話をしながら撫でてくれた。


「……私さ、中学一年の頃に両親を亡くしてパパの方のおじいちゃんおばあちゃんに引き取られたんだ。おじいちゃんおばあちゃんはすっごく私を可愛がってくれたけど、叔父さん……あ、パパの弟さんね? 叔父さんは私の事を嫌ってた。元々、叔父さんとパパは仲が悪くて、叔父さんはパパの血をひいてる私が憎かったんだろうね……沢山の酷い言葉を投げかけられた」


 それは、美夜子ちゃんが話そうとしなかった過去の話。それをまるで子供をあやす母親のように、美夜子ちゃんは私に話し続ける。


「叔父さんは一緒に住んでる訳じゃないから、たまに来ては私に対して悪口を言って来るだけの存在。おじいちゃんおばあちゃんはそんな叔父さんを追い出して、私を守ってくれてた。でもね? 中学三年生の頃にさ、叔父さんがお嫁さんを連れておじいちゃんの家に来たんだ。『そんな家族の居ない孤児を置いておくより、俺たち夫婦が住んだ方が役に立つだろう』って、それを聞いた瞬間、なんか涙が止まらなくなって……夜遅い時間なのにおじいちゃんの家から出ていったの」


 ……知らなかった。いつも明るくて、私達に笑いかけてくれる美夜子ちゃんに、そんな過去があるなんて。


「家を出てからはもうただただ走って、近所の公園のベンチに座り込んでずっと泣いてた。どうしてパパとママは死んじゃったんだろうって、私はもう幸せにはなれないのかな?って、ひとりぼっちは嫌だなぁ……って泣いてたんだ。そしたらね? 後ろから急に声を掛けられたの。『こんな夜中に何やってんだ、不良娘か?』って」


 美夜子ちゃんは不審者だと思って警戒したそうだ。そして後ろを振り返ってみると、そこには一人の人物がベンチの後ろにある木の傍に立っているのが見えたらしい。


「暗くて顔も服装も分からなくてさ、不思議な奴だったよ。でも、話し掛けられた第一声が不良娘だよ? ただでさえ落ち込んでる最中なのに、そんな事言われて腹立っちゃってさ。自分の気持ちとか、環境とか……なんか胸の中にあるもの全部ぶちまけちゃったの。私はひとりぼっちだから、もう幸せにはなれないだから、ほっといて!って……いま思うと、本当に恥ずかしいよ。聞いてたあいつも意味わかんなかっただろうし」


 そうして言いたいことを言い終わった美夜子ちゃんは、ベンチの上で体育座りをして顔を伏せてしまったらしい。

 これでもう、話しかけて来ることはないだろうって思って、そのまま朝までじっとしているつもりだったそうだ。


「……でも、その人さ。私に言ってくれたんだ。『辛かったな』って。私がまこにしてる様に頭を撫でてくれて、何度も何度も……『頑張ったな』、『我慢して偉かったな』って。私に言ってくれた」


 美夜子ちゃんは、顔を上げる事が出来なかったらしい。それが知らない人だとしても、自分の境遇をしっかりと聞いてくれて、馬鹿にするでもなく揶揄うでもなく、真っ直ぐに慰めてくれて……溢れ出る涙を止められなくて、嗚咽を漏らしながら泣き続けたらしい。


「泣いて泣いて、顔を上げられなくて……そんな私にその人が言ってくれた言葉が、今でも私を支えてくれてるんだ。『俺も家族と呼びたい人は居ないけど、それでも何とか必死に今日まで生きて来た。お前の寂しさとか、苦しさを全て理解してやることは出来ないだろうけど……それでも俺は、お前に幸せになってもらいたいよ。もしも寂しくて苦しいなら、いっその事勇気をだして一人暮らしとかしてみたらどうだ? 最初はひとりぼっちかもしれないけどさ、自分から探して行けばいいんだよ。友達、恋人、ペット……なんでもいいんだ。いつか、自分にとって亡くなった両親と同じくらい愛情を注ぎ注いでくれる。そんな存在が居る場所を――自分の手で作ってみたらいいんじゃないか?』ってね」


 その言葉を聞いて、美夜子ちゃんは目標ができたらしい。


「いつか、パパとママと……名前も顔も知らないその人に対してさ、しゃんと胸を張って『いま、私は幸せだよ』って……そう言える自分になろうっ思ったの」


 夢見る乙女の様に語る美夜子ちゃんは、とても眩しくて、かっこよくて……私は彼女の友達になれて本当に良かったと改めて思った。


「まこはさ、自覚がないだろうけど……もう私の大切の中に入ってるんだよ?」

「えっ?」

「可愛くて、優しくて、話してみたら結構面白くてさ……いつの間にか、愛衣を含めた三人でいつも一緒。もう私にとってまこも愛衣も、パパとママと同じくらい大事な存在になってんの!! だから、絶対に一人になんかしてやんないから!!」

「美夜子ちゃん……っ」

「あー恥っず…………それとごめん、多分やっちゃった」


 感動してまた泣きそうになる私に対して、美夜子ちゃんがそう言って謝り出す。

 一瞬何に対して謝ってるのか分からなかったけど……遠くから聞こえるオークの雄叫びで理解した。どうやら、オークは私達の存在に気づいたようだ。


「どうすっかねぇー? こうなったら、私が囮になって――」

「絶対だめ! この結界ならオークの攻撃も防げるだろうし、最悪結界が破られたとしても美夜子ちゃんは私の後ろから遊撃をする事に専念して!」

「いや、でもそれじゃあまこが……」

「大丈夫! 絶対に守り抜いて見せるから。それに……私だって、美夜子ちゃんの事が大事だもん! 聖騎士として、美夜子ちゃんを絶対に守ってみせる。だから、二人で戦おう?」

「まこ……っ」


 盾を足音の響く方向へと構えて、美夜子ちゃんを守るように立つ。……顔が赤くなって、ちょっと美夜子ちゃんの方を向けないから前を見続ける。

 そうして前を向いていると、微かに後ろから鼻をすする音が聞こえてきて、私は自然と笑みを浮かべていた。


「わかった。きっとレオニスさん達が救援を送ってくれるだろうから、それまで持ちこたえ――ッ!?」

「…………嘘、なにあれ?」


 前方からオークが姿を現したと思った直後、そのオークの後方から一回り大きなオークが重い足音を響かせこちらへと近づいてきていた。

 私は無意識のうちにそのオークに対して『簡易鑑定』を使ってしまう。


「そんな…………なんでオーク・キングがっ!?」


【オーク・キング Lv45】


 私の脳内に簡素な鑑定結果が表示される。

 何故ここに? どうすればいい? 結界は耐えられるのか?

 私の脳内ではそんな疑問が繰り返し湧き上がってくる。


 でも、私はここから下がる訳には行かない。


「大丈夫だよ、美夜子ちゃん……私は、絶対にここを退かないから……」

「まこ……私も、絶対に諦めないから! まこと一緒に、みんなの元へ帰るんだから!!」


 そうして、二人で声を上げて自分自身を奮い立たせる。


 負けない、負けない、負けない負けない負けない負けない!! 絶対に負けてなんかやらない!!


 だから、大樹くん……私にどうか勇気をください……っ。


 厭らしいオークの視線を感じる。

 ゆっくりと、まるで私達が怖がる様を楽しむ様に進んで来るオークとオーク・キング。


 その歩みが――突如止まった。

 オーク・キング以外のオーク達が、上空から降り注ぐ鋭利な氷によって頭から貫かれたのだ。


「ブ、ブモォ……ブモォォォォッ!!」


 突如として仲間を失ったオーク・キングは、自らに降り注ぐ氷を薙ぎ払いながら雄叫びを上げる。

 そこには先程まで感じられた厭らしい視線も、強者の余裕すらも無くなっていた。


「――見つけたぞ」


 そして、私達の前にその人は姿を見せる。

 年老いた老人、幼い子供、若い青年。幾重にも重ねられた不可思議な声音を響かせながら、その人はオーク・キングへと歩みを進める。


 艶消し処理をされた全身を隠す黒い外套は、上質な物だろうと推測出来る。何より、汚れがひとつも無くて清潔感があった。


 この人は一体誰なのだろうか?

 レオニスさん達が呼んでくれた救援者なのかな?

 あと…………。


「てめぇかぁ……あの豚共の親玉はぁぁぁぁ!!」

「ブ、ブモォッ!?」


 ……なんで、オーク・キングが引いちゃうくらい怒ってるの?






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