第48話 十五日目 フレイシア様の会心の一撃っ!



 オーク・キング討伐における報奨。

 その流れは今回の魔法のお披露目によっておおきく変更する事となった。


 まず、討伐者が俺だと分かったことで公に授与式を執り行う訳には行かず……と言うか、俺がそれを望まなかった。

 なので表向きは今オルフェの街で流れている噂を利用することなる。元々俺が目立たない様にする為の工作だったのでそのまま採用された形だ。

 それに付随して公爵家側からもまた、『"炎天の剣"への報奨は討伐者からの要請を受け非公式の場で行った』と言う噂を流す事になった。


 噂で流布する報奨の中身は、レオニスからの願いを受けて金銭となった事になるらしい。名目は『活動拠点を購入する際の資金の足しに』とする様だ。

 まあ、活動拠点を手に入れるのについては間違ってはいないし、そのうち"炎天の剣"が出入りする建物が見つかれば噂は本当だったんだと……街に住む人達が勝手に広めてくれるだろう。

 ここまでが表向きの報奨に関する作り話。


 俺にとっての本題は裏側の方だ。


 討伐者としてガルロッツォ様から報奨を問われた際に、俺が望んだのは一つ。


 貴族としての権限である『ガルロッツォ・ルイン・ディオルフォーレの名のもとに、ダイキ・オオエダの公爵領におけるダンジョン探索に関する制限の解除を認める。』という許可をもらう事だ。

 一応、冒険者登録はするつもりではあるけど……冒険者の先輩であるレオニスたちの話を聞いて色々と規制が多いし、ルール通りに進めていくとかなりの遠回りになりそうで正直面倒そうだった。

 なので、ダンジョン攻略を円滑に進める為にも公爵家からのダンジョン探索の制限解除はして欲しいなぁと思っている。ちょうどオーク・キング討伐という功績もある事だしな。

 もしもダメだった場合は、噂の通りにお金を貰うかオルフェの街で買い手のいない建物を一件貰えないか交渉するつもりだ。


 だが、ダンジョン探索における制限解除はあっさりと許可して貰える事になった。

 寧ろそれでは報奨にならないから他に欲しいものはないのかと聞き返されてしまったくらいだ。


「――実は、昨日レオニス達から渡された兄上である国王陛下とそこに居るオーエン大司教からの手紙に、ダンジョン探索に関する制限緩和の許可証を王都からオルフェの街へ移り住む来訪者の方々へ渡す様にと頼まれていたんだ。流石に最初はE級からの開始で、難易度を上げていく毎に許可は取りに来てもらうがね? そこは若い命を不用意に散らせない措置として受け入れて欲しい。まあ、ダイキ君に関してのみ特別にC級からの探索を許可しよう。但し、C級ダンジョンに潜る場合はAランク以上の冒険者か”炎天の剣”のメンバーを一人以上伴っているのが条件だが」

「そうねぇ。単体での討伐難易度がB+……手下を引き連れた状態ではA+になるオーク・キングを倒せる実力があるのならC級ダンジョンの魔物相手に手こずる事はないわね。でも、ダンジョンには凶悪な罠も張り巡らされているから、最初は罠を見つけたり解除できる様になるまでダンジョン探索に慣れた者を連れて行くといいわよ?」


 オーク・キングってそんなにやばい奴だったのか……初めての魔物でビジュアルの嫌悪感とか性別上は同じ筈の相手から送られる初めての視線とかでパニックを起こしてて冷静じゃなかったからなぁ。いや、逆に冷静じゃなかったから倒せたのか?


【冷静ではなかった自分自身を肯定する様な発言は控えてください。ですが、時空間魔法の暴走が無ければ長期戦にはなっていたと思います。圧倒的な職業補正と豊富なスキルがあれば絶対に勝てはしましたが……。】


 あー、やっぱり”叡智の魔法使い”がチートなんだよな。ミムルやリディからのサポートもあるし、正直言うとダンジョン攻略よりもそれに付随して起こる雑務の方が大変な気がする……。ガルロッツォ様からダンジョン探索における制限の緩和がなされなかったら、もう面倒になって夜中とかにこっそりダンジョンに潜ってたかもしれない。

 冒険者を死なせない為の措置だから撤廃しろなんて口が裂けても言わないけどさ。期限付きの試練を課せられている身からするとその柵が鬱陶しく思えてしまう。


 オーエンさんが色々と手を回してくれていたのはミムル経由で頼まれたから何だろうなぁと予想できる。まさか国王様までもが協力してくれているとは思わなかったけど……ガルロッツォ様の言い方的に王都に残った連中の事とかも色々知っていそうだよなぁ。自分の膝下に居る訳だし、隠密での監視者とか普通に居そうだ。

 桜崎さん達と合流する前にミムルから聞いた話によれば、王都に残った奴らはロクな事をしていなかったから、てっきり国王様は俺たちに対してあまり良い印象は抱いていないと思っていた。オーエンさんが何か言ってくれたのかな? だとしたら本当にお世話になりっぱなしだ。桜崎さん達もオーエンさんには頭が上がらない様子だし、なにかお礼が出来れば良いんだが。



 そんな訳でダンジョン探索における懸念事項はとりあえず問題なく解決しそうだ。

 

 ただ、どうしよう?

 他に何か望むものはないのかと問われても一番の望みは叶ってしまったからなぁ。

 とりあえず、ダンジョンに関するお願いを断られた場合に用意してた金銭か空き家のどちらかをお願いしてみるか。


「……それじゃあ、オルフェの街にある大所帯が住める用の物件の紹介かオーク・キング討伐に価する金銭を下さい」

「ほぅ……空き家を求めているのは、そこを活動拠点にする為かい?」

「はい。この街にやって来た転……来訪者と、あとは"炎天の剣"のメンバーも一緒に暮らす予定です。なので、もしも受け取る事ができなくても、いまお伝えした人数が住める物件があるのなら代金をお支払いできるまで取り置きして貰いたいのです」


 ……流石に大人数が住む物件をタダで下さいとは言えないので、建物を探して貰うのと購入代金を稼ぐまでの取り置きをお願いする事にした。

 いっその事、余っている広い土地を貰って家を建てるのもありか? 暫くは俺が土属性魔法でハリボテを作ればいいし……いや、それは流石に目立つか。

 まあ、基本的には"リゾート"で暮らす事になるだろうから、とりあえず悪い噂があったり住めないくらいにオンボロでなければ問題はない。


 そうして俺が要望を伝えると、ガルロッツォ様は顎に右手を添えて考える素振りを見せる。


「ううむ……流石に現在の空き家状況を調べてみないとなんとも言えないが、"炎天の剣"がこの街に滞在してくれるのは心強い。ダイキくんの願いがそれでいいのなら、急ぎ街にある空き家を調べてみるとしよう。取り置きではなく、贈呈する建物をね?」

「え、良いんですか?」

「宿屋での滞在は何かと不便だろうからね。君たち来訪者が高難易度のダンジョンを探索してそのドロップ品を市場へ回してくれれば、それだけで大きな利益に繋がる。元々空いている物件であれば問題は無いし、未来への投資と思えば安いものだ」


 正直、物件の取り置きも難しいかなぁって思ったけど、なんか家を貰えそうな予感……!!

 思わぬ吉報に俺は何度もガルロッツォ様へ頭を下げて感謝を告げた。よっしゃー! カモフラージュ用のお家(まだ確定ではないけど)ゲットだぜ!!


 そんな風に俺が浮かれ気分でいると――まるで口が軽くなる瞬間を見透かしたかのように鋭い一言を投げ掛けてくる人物が居た。


「――そう言えば、マコとダイキ以外の来訪者はどうしたの?」

「あー、あいつらなら今頃"リゾート"で寛いで…………っ!!」

「りぞーと? 何それ?」


 うっ……油断してた。

 いや、まあ教えるつもりではいたからギリギリセーフではあるんだけどさ…………人が油断しきっている瞬間を狙い撃ちするのやめてくれませんかね――フレイシア様っ!!






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