第77話 十五日目(夜) チャットアプリなんて、俺のスマホに入ってませんが?




 ――感謝を伝える為に。


 それが、桜崎さん達がメインベッドルームに居る理由だった。


「本当は寝る前だけじゃなくて、時間がある時にでも順番を決めてお礼を言いに行こうって、みんなで話し合ってたんだけど……」

「ここに招待された次の日から休む間もなく忙しくなっちゃったからね〜。これからもダンジョン攻略で忙しくなりそうだしどうしようかなぁ〜って」

「それで、リディさんやミムルルート様、マルティシア様に相談したら寝る前なら時間を作れると思うって言われてね? 私達としてもなるべく早くお礼をしたかったから、その提案に乗らせてもらったって訳。私達3人がトップバッターね?」


 最初から桜崎さん、物部さん、如月さんと仲良さげな様子で順番に説明してくれた。

 トップバッターという事は全員もれなく来るんだろうか?


 ……どうなんです? 関係者のリディさん?



【はい。順番はまだ決まっていませんが、転移者である皆様は確実に。それに加えて、この世界の住人であるアリシアやノアといった未婚かつ、ますたーに興味を抱いている女性陣からも参加要請が来ていますね。】


 な、何故アリシア達まで……?


【具体的な事に関しては直接ご本人に伺うべきかと? 私から言えるのは、全員がもれなく強い好意を抱いている訳ではありませんが……ますたーの人となりを見て少なからず淡い感情が芽生え始めているのは確かな様ですね。おめでとうございます。】


 ありがとう? で、良いのかなぁ?


【おや? ハーレムですよ? 嬉しくないのですか?】


 …………嬉しい、と思う。

 ただ、最近になって漸く温もりや恋心を知った俺からしてみれば困惑の方が大きい。

 一人一人と向き合う時間が少ないというか、知らない内に好意を抱かれていて驚くというか……心が追いついてない状態なんだ。


【なるほど……】


 あ、だからといって好意を受け入れないという訳じゃないぞ?

 纏めて一気に好意を向けられると困惑するけど、後でちゃんと1体1で向き合う時間を貰えれば大丈夫だと思うから。


【ふむふむ……では、ですね。】


 …………さ、作戦変更?

 それは一体――『ピロン、ピロン』……ん?


 その真意を問おうとした矢先に、前方から聞きた事のある電子音が聞こえて来た。

 音の方へと視線を向けると、3人がそれぞれのショートパンツのポッケからスマホを取り出して画面を見ている最中であった。


 あれ……なんでスマホ使えてんの!?


【この疑似神域の中ではネット接続が可能の状態になっていますので、バッテリー切れにさえなっていなければスマホの使用は可能ですよ? というか、ますたーも普通に使ってましたよね?】


 …………そうだった!!

 思い返せばリビングルームでダラダラしてる時とか、普通にゲームして遊んでたわ!


 ただ、まさか通信が出来るとは思ってもいなかったし、ぶっちゃけると俺のスマホにはチャットアプリを入れてないから使えるかどうか試そうとも考えなかった……同い年の人に連絡先を聞かれたことがない人生だったからな!!


【ますたー……これからは、私やミムルルート、マルティシアが連絡してあげますね……】


 うん、気遣ってくれてありがとう。

 そしてお前達はいつの間にスマホをゲットしていたんだ!?


【昨日ですね。如月美夜子にスマホの使用有無を聞かれた際に使えるとお答えしたところ、それならばスマホを持つべきと勧められたので。チャットアプリとは面白いものですね? 今は女性のみのグループが盛り上がっています。】


 なんだろう……スマホ歴なら圧倒的に勝っている筈なのに感じるこの敗北感……。


【ふっふっふっ……今度、ますたーにチャットアプリの使い方を教えてあげますね?】


 くっ……よろしくお願いしますっ。




 そうして俺が脳内でリディと会話をしている間、スマホを見ていた3人は小さな声で話し合いをしている様子。時々こちらに視線を向けているのは分かっているので、多分だけど俺が関係している内容だとは思う。

 うーん、さっきリディが言っていた"作戦変更"という言葉の事もあるしちょっと不安。


 大丈夫かなぁっと思っていると、3人がほぼ同時に頷いてこちらへと顔を向けた。

 どうやら相談事は終わったらしい。


 さて、これから一体何が起こ……る?


「それじゃあ、私達はリビングルームで待機してるから」

「もしも大樹にえっちな事されそうになったら叫ぶかリディさんを呼ぶんだよ?」

「なんでそんな話になってるんだ!? というか、桜崎さんと如月さんはなんで出て行こうとして…………行っちゃった」


 最初に笑顔で手を振りながら桜崎さんが、次にニヤニヤとした笑みを浮かべながら如月さんが、メインベッドルームの出入口であるドアを開けて室内に残った物部さんに対して一言残しながら出ていってしまった。


 如月さんは一体俺を何だと思っているのだろうか……。流石にお付き合いもしていない人に対してえっちな事なんてしないぞ?


「あはは……ごめんね〜? 美夜子ちゃんのあれは本気で言ってる訳じゃないから、許してあげて欲しいな〜?」


 思っている事が顔に出てしまっていたのか、困った様な笑みを浮かべた物部さんに謝られてしまった。


 いやまあ、冗談だろうなとは思っていたから別にいいんだけど……わざわざ前屈みになって首を傾げる必要はありましたかね!?

 物部さんのご立派なお胸様がたゆんとですね……見ないように必死です!!


「だ、大丈夫大丈夫! 冗談だろうなぁとは思ってたから!」

「そう〜? なら、良かったぁ〜」


 俺の返事に納得したのか、安堵の笑みを浮かべて腰を上げた物部さん。

 ……ふぅ、漸く落ち着いて話が出来そうだ。


 とりあえず、物部さんが1人だけ残った理由を教えて欲しい。

 普段絡みの少ない人と2人きりって、結構緊張するんですよ!!




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異世界リゾート暮らし〜俺だけが使える【リゾート】スキルでのんびり過ごしてダンジョン攻略!〜 炬燵猫(k-neko) @sorano05

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