異世界リゾート暮らし〜俺だけが使える【リゾート】スキルでのんびり過ごしてダンジョン攻略!〜

炬燵猫(k-neko)

第1話 プロローグ①(2025.09.29.改稿)




 ――暑さが強まってきた盛夏の候。



「……はぁ」

 

 今年で高校二年生へと進級した俺――大枝おおえだ大樹だいきは前ボタンを外したブレザータイプの制服に身を包み、現在進行形で走行を続けている観光バスの座席に座り小さくため息をついていた。


 何故、制服姿で観光バスに乗車しているのか?

 その答えは単純で、俺の学年である二年生がこの梅雨明けの蒸し暑い時期に修学旅行へ来ているからだ。


 何故よりにもよってこんな蒸し暑い時期にと思わなくもないが……涼しくなる秋頃には、来年度に向けた就職活動や大学受験なんかの説明等で忙しくなるからだろう。スケジュール的にこの時期しか空いてなかったんじゃないかな? 多分だけど。


 幸いだったのは、旅先が北海道だったこと。有難い事に北海道の気温は比較的涼しい方で、それこそブレザーを羽織っていても平気なくらいには低かった。流石に軽く走ったりとかしたら暑くはなってしまうだろうけど、これなら問題なく修学旅行を楽しめそうだなと一安心ではある。


 今は北海道の空港へ迎えに来てくれていた観光用バスに乗り込んで、終着地点であるホテルを目指しつつ観光名所を巡っているところだ。

 窓の外には広大な牧草地が広がっており、バスに乗っている殆どの生徒がわかり易く騒いでおり前の方に座る先生に注意されていた。

 ははは、楽しそうだな。


 一方で俺はと言うと……複数の理由から騒いでいる奴らの様に笑みを浮かべる事ができず、通路側の席で下を向いている。

 原因は主に二つ、寝不足の状態で観光バスに揺られた事で乗り物酔いを発症しているのと、観光バスに乗る際に起こったトラブルの所為だ。

 寝不足については俺が遅くまでスマホではゲームをしていたのが原因だが……トラブルの方は学校側に問題がある気がする。もうちょっとやりようはあったんじゃないかな?


 だって、集合場所にギリギリ間に合い俺のクラスが乗る予定の観光バスに辿りつたのはいいが――なんと俺の席が無かったんだ。


『すまん、大枝。どうやら学校側が手配してくれてたバスが想定よりも小さかったみたいでな……その、なんだ。お前が座る筈だった最後尾の席は見ての通り空きがない状態なんだ』


 ――本当にすまん。


 観光バスの入口付近でポカンとしていた俺にそう言ったのは、俺のクラス担任である若い男性教師だった。

 そして、男性教師の言葉を確認する様に俺が座る予定だった最後尾を見ると……そこには俺と同じグループである男子が気まずそうに左の窓際に座っており、その直ぐ右隣には二人の巨漢が狭そうにしながら並んで座っていた。

 よく見れば反対側に位置する窓際の男子も狭そうにしている……うん、これは無理だな。


『横田(よこた)と手綱(たづな)の相撲部コンビが座ったらああなってだなぁ。もう時間もないし、大枝には悪いが他のクラスの空いている席に座らせてもらってくれ。一応隣のクラスの先生方には説明とお願いをしてあるから。あ、念の為に手荷物とキャリーケースも一緒に移しておけよ?』

『……わかりました』


 そうして担任に促されるままに、俺は隣のクラスのバスに乗ることになった。もしも友達が居れば少しは受け入れられたかもしれないが、残念ながら乗せてもらった観光バスの仲には友達と呼べる程の仲の人はいない。

 クラス替えはあったから去年同じクラスだった奴はチラホラ居るけど、一年生の頃は俺が積極的に関わろうとしていなかった為に顔と名前をなんとなく覚えている程度だ。この時ほど去年の自分を憎んだ事はないと思う。


 いや、流石に喋る人くらいは居たんだ。「これ、先生が渡してって言ってた」とか「これ落としたぞ」とか「こ、これ、日誌です」とか「あ、わりぃ。席借りてるわ」とか。


 …………はい、見栄を張りました。ごめんなさい。


 言い訳をさせてもらえるのなら、一年生の頃はあれだ……疲れてたんだ。

 主に家庭の事情で精神的に参っており、正直学校では気力が湧かず積極的に交友関係を築こうとは思えなかった。

 その結果が友達0人で、こんな風にアクシデントが起きた際に困る事になるんだから笑えない。


 このままではいけないと思い『家で休むことが出来ないならせめて学校にだけは気の休まる楽しい空間を作ろう!』……そう意気込んでようやく"修学旅行"という名の友達作りを始めるきっかけを得られたと思ったのに、結局この様です。

 くっ、班が決まった時も頑張って自己紹介したのにっ!! あまりにも話す事がなくて結構恥ずかしかったのにっ!!



 そんな訳で現在、俺は隣のクラスが乗っている観光バスの余っていた席に座らせて貰っている。


 分かってはいたけど、場違い感がすごくて落ち着かない。

 バスの中に入った瞬間に感じた『誰だよこいつ』っていう視線がもう辛くて辛くて……真面目に修学旅行に参加した事を後悔している。


「……はぁ」


 お隣に気をつかってなるべく小さめにはしてるが、どうしてもため息が止まらない。

 観光バスが発車してから割と頻繁に出てしまうくらいには、気分が落ち込んでいた。


 あぁ~バスが揺れる揺れる。そして俺の三半規管も揺れている……気持ち悪いっ。

 いっその事バスの窓から身を乗り出して飛び降りて……。


「――あ、あの……大丈夫?」

「へ?」


 良くない方向へと思考が逸れていく中、ボリュームは小さいながらもこちらを気遣う様な声が聞こえてくる。

 その声の聞こえた窓際の席へと視線を向ければ、そこには声の主である1人の可愛らしい女子生徒が座っていた。


 確か名前は……桜崎(さくらざき)まこさん。

 去年は同じクラスだった元クラスメイトだ。……あんまり話した事はなかったけど。


 一年前の彼女はどちらかと言うと控えめで、人前に立つのが苦手そうな印象。

 長い黒髪を左右で結んでお下げにしていて、前髪は目元が隠れるくらいまで伸ばしている。制服も規律通りに正しく着ていて、言い方は悪いがクラスの中心からは外れているタイプに思える。

 ただ、教室では数人の同じ女子生徒と話しているを見た事があったので友達は居るみたいだった。ちょっと羨ましい。


 そんな桜崎さんが、俺の方を向いて心配そうに首を傾げていた。

 相変わらず前髪で表情は分かりづらいけど、膨らみのある胸の前で両手を組んで居る桜崎さんがちょっと可愛いくて和む……て、そうじゃない。返事をしないと。


「あー、大丈夫大丈夫。ちょっと乗り物酔いと寝不足が重なっただけだから……桜崎さん、だよね? こっちこそごめん。折角の一人席を邪魔しちゃって」


 そう、知らない奴が混ざろうとしているあのアウェーな空気感の中で、生贄と言われても仕方がない仕打ちを受けてしまった桜崎さんには頭が上がらない。

 恐る恐るといった風に手を挙げて「わ、私の隣が空いてます……」と言ってくれた桜崎さんは、正しく俺の救世主だ。


 だからこそ、今俺は桜崎さんに対して罪悪感でいっぱいである。


 だって、周囲が楽しげに会話している車内で俺と桜崎さんの席だけが無言なのだ。

 ここで俺が何か気の利いた事でも言えれば良かったんだろうけど、俺にそんなコミュニケーション能力は無い。それどころが体調すらもままならない状態で、目を瞑る事でしかこの現実を耐え忍ぶ事が出来ないでいたのだ。


 そんな不甲斐無さと申し訳なさから、俺は声を掛けてくれた桜崎さんに対して謝罪の言葉を口にした。


「あ、謝らなくて大丈夫だよ? ……大枝くんが悪い訳じゃないんだから、ね?」


 そんな俺の謝罪を受けて、心配そうにしていた桜崎さんが今度は慌てた様子でオロオロと両手を左右に振り……よく見れば頭も小さく振っていた。


 というか、名前を覚えていてくれた事に感動している自分がいてですね? もうそれだけで涙が出てしまいそうです。


「そ、それよりもっ、大枝くんの体調の方が大事で……えっと……これ、市販の酔い止めですっ。よ、良かったら……」


 ……天使か?


 微かに口元に浮かべる笑みと、オドオドとはしているが優しさが滲み出ている様な声音に、思わずそんな感想を抱いてしまう。

 知り合いでもないのに気遣い、自分の持っている酔い止めまでくれるなんて……あんまり話さなかったけど、桜崎さんってこんなにも優しい人だったんだな。


「……ありがとう、桜崎さん。酔い止めは有難く使わせてもらいます」

「そ、そんなに畏まらなくても……こ、困った時はお互い様、だから」


 ……天使が大天使に昇格なされた。


 隠されていた目元がふとした動作で微かに見える。

覗かせた顔には慈愛に満ちた微笑みが浮かんでいて、その顔を見ただけで俺の気が安らいでいくのが分かった。


 あれ? もしかしなくても桜崎さんって可愛いのでは?

 まあそれに今更気づいた所でもうクラスも違うし、そもそも一年の頃に仲良くも無かったやつが急にグイグイと迫ってきたら迷惑以外の何ものでも無い。……ここから何か進展する事はないだろうけど、このやり取りは旅行の思い出という事で俺の心にそっと刻んでおこう。


 足元にあるリュックサックの横側に付いている伸縮性のあるポッケ。そこに突っ込んでおいた水入りのペットボトルを取り、桜崎さんから貰った酔い止めを口に含んでから水を飲み一息つく。


 改めて桜崎さんにお礼を言った後、俺は先程よりも晴れやかな気持ちに浸りつつ、襲い来る眠気を受け入れ意識を手放した。





 ――この時は思いもしなかった。



 ――まさか次に目が覚めた時、見知らぬ場所に一人で放り出されてしまうなんて。




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