第33話 十四日目 うん、とりあえずBBQかな?




 …………えらい目に遭った。


 ミムル達の現代ファッションを見た転移者組が暴走を始め、最終的に俺とミムル達三人が恋人関係である事が引き金となり質問の嵐に見舞われる事態となった。


 ミムル達に関しては悪気は一切なかったらしい。場を和ませるつもりで白装束ではなく、桜崎さん達が慣れ親しんだ服装で登場したのだとか。

 ……まあ、喜んではいたみたいだぞ? 俺を拘束して質問攻めにするくらいには。


 そこからは投げ掛けられる質問に対して答えられる事には全て答えた。"リゾート"の件も交際の件も、別に隠し通すつもりはなくて、段階的に明かしていく予定だっただけだから話すこと自体は問題ない。


 ミムル達との関係について話す際には一瞬周囲の温度が下がった様な気もしたが……それでも俺は三人との関係を終わらせるつもりはない。

 俺はダンジョンを攻略した後もこの世界に残るつもりだ。今更ミムル達の居ない生活になんて戻れる気はしないし戻るつもりもない。

 当人達が納得していてこの世界で一夫多妻が認められているのなら、後は俺が全員に対して余すことのない愛情を捧げる覚悟があるかどうかだけの問題だ。

 俺はこの世界で幸せを見つけた。

 だから、死ぬとしたらこの世界でと決めている。


 俺がそう言い終えるとそれ以上ミムル達との関係について質問が飛んでくる事はなかった。


 …………桜崎さんだけは何処となく寂し気な表情をしていた気がしたけど。


 あれは……そういう事なんだろうか?

 いやいや、思春期特有の勝手な被害妄想は良くない。

 いくら桜崎さんがゲームで仲良くしていた"こまちちゃん"と同一人物だと分かったとはいえ、一方的な感情を押し付けるのは迷惑なだけだ。

 軽蔑されても仕方がない事をしているのは分かってはいるけど…………出来れば桜崎さんには嫌われたくないなぁ。


【……はぁ。】


 な、なんだよぅ……。





 そうしてミムル達との関係性について質問されることは無くなったのだが……それ以外の質問に関しては止まることなく、寧ろギアが上がった様にも思えた。


 いや、あのですね?

 俺は男であって、女性特有の商品に関する質問には答えられないんですが……。化粧品のブランドを言われてもちんぷんかんぷんなので勘弁して欲しい。そういうのは多分、俺よりもリディの方が勉強してるから詳しいと思うぞ?

 オマケに楽街さんが堂々と下着に関しての質問までしてくるし……いや、お前のお気に入りのランジェリーショップとか分かるかあ!

 ローテーションにも限界があると力説されても困ります。そして楽街さんも頬を赤らめるくらいなら俺に聞かないで!? そう言うのはリディに! リディに聞いてください!

 

 しかしながら女性陣にとっては死活問題? だったらしく、楽街さんの勇気ある行動が他の女性陣にも間違った勇気という灯を付ける事となり――同い年、しかも少し前までは同じ高校に通っていた女子高生や先生の下着事情を次々と暴露されていった俺は、あっという間に脳がオーバーヒートを起こしぶっ倒れた。


 うん、幾ら恋人が三人いると言っても所詮はちょっと前まで童貞で女性慣れしていなかった男子高校生。

 現役JKや美人教師の下着事情なんて俺にはちょっとハードルが高かった。あと、本人が自己申告してくるものだから自然と視線がですね……桜崎さん、意外と大きいものをお持ちなんですね…………(パタリ)。




 目を覚ますと、見た事のない場所に居た。

 どうやらここは領主館の中にある小食堂で、ぶっ倒れた俺をレオニスとジールが運んでくれたらしい。面目ない……。

 そして起きて直ぐに倒れた時の事を思い出して慌てて周囲を警戒するように見渡したのだが、何故か人数が減っていた。どうやら女性陣(恋人の居ない)とミムル・リディ・マルティシアが集まり、領主館前の庭で話し合いをしているらしい。い、一体何を話しているんだろう……気になるけど話の内容を知るのも怖いな。


 ……よし、聞かなかった事にしよう。


 そう決断した俺は小食堂に居たカップル三組とテーブルを囲んでしばしの談笑を楽しむことにする。

 話は主に公爵領であるオルフェの街と周囲の環境について。

 冒険者であるレオニスたちの話を俺と冴木、そして冴木の彼女である佐野さんの三人で聞いて気になる事があれば都度質問をする形で話は進んで行く。レオニスたちは冒険者として活躍しているので、色々と話を聞けて有意義な時間を過ごせた。


 ……特に、ダンジョン関連の話が聞けたのは僥倖だったな。


 どうやら公爵領には沢山のダンジョンがある様だ。種類も豊富らしく管理をするのは大変らしいが、幸いにして公爵領には多くの冒険者が滞在している為何とかなっているらしい。

 そして俺が求めているもの――それも森の奥地に存在していた。


『S級ダンジョン? ああ、確かダイキが最初に転移したって場所の更に奥にある筈だぞ? ただなぁ……あそこは一層一層の魔物の出現頻度も多いし、魔物が湧く頻度も高い。それに、ダンジョンってのは基本的にそのダンジョン毎の属性みたいなものが決まってんだけどよ、あそこは各階層ごとに灼熱、極寒、海、砂漠って感じで変わっちまうんだよ』


 今までS級ダンジョンに挑み辿り着けた最高階層は5階層との事。

 一つグレードが下がる攻略済みのA級ダンジョンは軒並み70階層。ダンジョンは基本的に難易度が上がる度に階層も増えていくらしいので、S級ダンジョンはA級よりも階層が増えている可能性が高い。……一年でクリア出来るのか心配になって来たな。まあやるしかないんだけど。


 そうしてレオニスたちと談笑を続けていると、いきなり扉が『バンッ』という音を立てて開き、開け放たれた扉の先から二人の人物――シェリルとニナがこちらへ向かって全力疾走して来た。

 え、嘘だよな? あんな勢いで突進でもされたら……吹っ飛ぶ!!


『待て待て待てっ!? ニナがその勢いで飛びついてきたら支えきれなくて椅子から落ち――――ぐはあっ!!』


 慌てて椅子から立ち上がろうとしたが、時すでに遅し。

 最初にニナが全力でタックルをして椅子を倒しながら俺を地面へと倒し、そんなニナに続く様にしてシェリルも飛び込んで来た。

 くっ……腹部にクリーンヒットしたァ!!


 ぎゃーぎゃーと騒がしい二人の話を要約すると、庭先での話し合いが終わったのでさっさとグランドホテルへ連れて行けと言う事だった。

 いや、わかったからとりあえずどいてくれないかな?

 顔が近い! なんかいい匂いもする!

 そしてニナに関しては柔らかい感触が当たってるんだよ……無防備すぎるぞ。てか、これノーブ『ますたー?』……げふんげふん!!


 俺がニナ達の猛攻にしどろもどろしていると、扉の向こうから続々と女性陣が帰って来て――ニナ達が俺の上に乗っているのを確認すると、恋人であるリディ達を筆頭に全員が怖い笑顔で俺を見て来たので俺は冷や汗が止まらなかった。わぁ……最初は心配そうに見ていた桜崎さんの笑顔が一番怖いなぁ……はい、直ぐに正座させて頂きます!!


 幸いにして後の予定が詰まっている……らしい? ので俺のお説教はお小言程度で済んで助かった……そんなキツキツに予定なんて決めてたっけ?


 そんな俺の疑問はリディの一言により解消されることとなる。


「ますたー、グランドホテルへ急ぎましょう。みなさんもう待ちきれないようですので」

「あー……そういう事ね」


 どうやら庭先での話し合いはグランドホテルについてだった様だ。確かに女性特有の悩みとかは俺ではなくリディ達の方が解決してくれるだろう。……なんならリディは『検索』で調べられるしな。俺もできるけど……流石に恥ずかしいし教えるなんて気まず過ぎるからリディに任せる事にする。


 こうして俺達は領主館(仮)を早々に出る事となり、お昼もグランドホテルで食べる事となった。


 そうしてグランドホテルへと訪れた一同は転移直後に数分ほどフリーズしてしまい、全員の意識が戻ってからは各々がリディから渡されたグランドホテル内の4階までを自由に行き来できるカードを片手に行動を開始した。

 尚、支払いもそのカードで出来るらしく、今日はとりあえず各カードに【2,000,000Pt】ずつ入れた様だ。ちょっと大盤振る舞い過ぎる気もしなくないけど、まあこれだけ入れておけば使い切る事はないだろう。……ないよね?


 そして俺もプラプラと各階を見て回りつつ、ロビーで寛いだりもして時間を潰して……潰して……寝た。










『ここに住まわせてください……!!』

「まあ、そうなるよなぁー」


 随分寝ていた様で、既に日も暮れて夜になってしまっている"リゾート"。

 寝起きの俺を待っていたのは、ロビーの受付前で綺麗な土下座をする転移者組と異世界組の一同。そのはいごではリディがウンウンと頷いており、ミムルとマルティシアは苦笑を浮かべていた。

 リディに関しては"リゾート"を褒められたように感じて嬉しいんだろう。うん、よく見ればドヤ顔をしているし。


「えっと……別にいいんだけど、外での厄介事を持ち込むのとかはやめてね?」

『はい! ありがとうございます!!』


 ……うん、誠意は伝わったのでまずは土下座をやめようか?






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