第60話 十五日目(昼) 女神様からのご褒美?
レオニス達が泣きながらミムルへの感謝を叫び出してから数分が経ち、教会内は更に騒がしくなっていた。
と言うのも、教会の外に居た面々が次々に中へと入ってきてレオニス達を慰め始めたからだ。
オーエンさんとリリィさんの傍には公爵家の面々が集まり、レオニス達の所へはそれ以外の全員が駆け寄っていた。
そうしてレオニス達を慰めた後、今度はミムルのほうへと顔を向けてそれぞれが感謝の言葉を伝えていく。
転移者組は死ぬ運命であった自分たちをこの世界へと迎え入れてくれたこと。生きるチャンスをくれたこと。余所者である自分達に優しくしてくれたこと。
それらの言葉を口にしながら、ミムルは素敵な女神様だと褒め讃えていた。
異世界組はこの世界を創造してくれたこと、この世界を見守っていてくれたこと、オーエンさんとりりィさんのことを中心に各々が跪いて感謝の言葉を告げる。
ミムルは感謝の言葉を貰うたびにその顔を困り顔に変えて跪くのを止める様に声を掛けている。
その顔にはもう憂いを帯びた様子はなく、優し気な視線をみんなに向けて接していた。
そんなミムルの様子に安堵の溜め息をこぼしてしまう。
何とか無事に纏まって良かった。
みんなから少し離れた位置で見ていた俺の背後には、リディといつの間にか此方へ来ていたマルティシアの姿があり、2人は目の前に広がる光景を微笑ましそうに眺めている。
「嬉しそうですね」
「ええ、皆様と……この場を提供して下さった大樹様のおかげです」
「感謝されるような事はしてないよ。思った事を告げて、その後で気づいたのはミムルだし。そんなミムルに対して一生懸命に声をかけ続けたのはみんなだから」
そう、俺はただキッカケ……とも言えないくらいの些細な事をしただけ。
きっと俺がこの場に来ていなかったとしても、心からミムルの事を敬愛しているオーエンさんが居ればミムルは救われていた筈だ。
そんな思いから俺はリディとマルティシアに対してそう言葉を返したんだけど……何故か2人はやれやれと言った風に頭を左右に振りため息をこぼしていた。な、なんだよぅ。
「……本気でそう思っているから厄介なんですよねぇ」
「……きっとミムルルート様が直接告げたとしても、大樹様は同じ様に返されるのでしょうけど……はぁ」
マルティシアは困った様に笑い俺を見た後、「ミムルルート様の所にいってきます」と告げて俺のそばを離れた。
んーなんだろう……居た堪れない雰囲気は。リディは呆れた様に笑っているだけでそれ以上何も言ってくる気配は無い。俺の返事におかしな所があったのだろうか?
「ミムルルート様、そろそろ……」
「……うん、そうだねっ」
リディからは何も言われないので一人でうんうん言いながら悩んでいると、マルティシアとミムルの会話が耳に入る。そしてミムルはマルティシアの声に一度頷くと、オーエンさんとリリィさんに一歩前へ出る様に声を掛けた。
ミムルから声を掛けられたオーエンさんとリリィさんの2人は直ぐ様ミムルの前へと移動し跪く。ミムルはそんな2人の行動の速さに苦笑を浮かべつつも、咳払いを一度してから優しく……慈悲深い微笑みを浮かべて2人を見下ろした。
「まずは、みんなに心からの感謝を。みんなのお陰で、私は創造神として世界を見守って来て良かったって……そう思う事が出来た。それが何よりも嬉しいっ。だから……みんなに認めてもらえたから、少しは女神らしく振る舞わないとね?」
そう告げたミムルは一度ゆっくりと瞳を閉じて深呼吸をし……再びその瞳を開いた。
それだけで教会内の空気が変わった事に驚く。それはこの場にいる全員が体感している様で、異世界組の全員はその場に跪きミムルに対して祈りを捧げ始めた。
転移者組はただただ見蕩れるように目の前にいるミムルを眺めている。
魔法か権能か、どちらかは不明だがミムルはその身体をゆっくりと宙に浮かせて……その光景は正しく、教会の奥に飾られている神像と瓜二つであった。
その後方ではマルティシアが純白の羽を広げており、ミムルに追従する様に微かに身体を浮かせ始めている。
普段のホンワカしたい雰囲気は何処へやら……今目の前にいるのは紛れもなく――創造の女神様と女神様に付き従う天使様だ。
「――我が敬虔なる信者……オーエン、そして強き魂を持ち天使へと昇華したリリィよ」
「「……はっ!!」」
「――我が愛しき子供であり多くの功績を残したオーエンと、我が愛しき子供でありながら天使へ昇華し世界の為にその身を捧げてくれたリリィに対して、我……ミムルルートの名の下に褒美を授けよう。受け取ってくれるかな?」
「「有り難き幸せ!!」」
威厳のある口調で、目の前でひれ伏すオーエンさんとリリィさんに対して優しげに微笑みながらそう告げたミムル。
さて、俺はオーエンさんがリリィさんと再会出来ることしか知らされてなかったけど……褒美とな?
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