第59話 十五日目(昼) 弟子の想い、世界に溢れる優しき心。




「……本当にごめんなさいっ!」

「も、もう良いのですよ……? 儂はただ、創造神様に自分を責め続けて頂きたくはなかっただけですので……の、のぅ? リリィ?」

「ふぇっ!? こ、ここで私に振るの!?」


 頭を撫でながら何度も何度も「大丈夫だ」と慰め続けたおかげで、ミムルは泣き止んでくれはしたのだが……今度はオーエンさんに対して必死に謝る様になってしまった。

 そして創造神であるミムルを敬愛し崇めているオーエンさんからしたらそれはもう居心地の悪いことだろう……現にリリィさんに全てを押し付けようとしてるし。再会した直後だというのに仲良しだなぁ。


 それにしても、弱ったなぁ……。

 ミムルの考えを改めさせる事は出来たけど、予想以上に落ち込んでしまっている。

 一応泣きやんではくれたが、いつまた泣き始めてしもおかしくはない状態だ。今はオーエンさんやリリィさんに謝る事に必死で大丈夫そうだけど、どうしたものか……。


「創造神様……私達に謝罪は本当に不要ですよ? 先程オーエンが言っていたように、私達は創造神様に自分の所為で……だなんて思って欲しくなかっただけなのです」

「うん……。はぁ……ほんと、自分が嫌になるよ……。私が抱いていた気持ちがどういう意味を持つのか、大樹くんに言われるまで気づかないなんてさ。ほんと……創造神として失格だね」

「いや、それは「そんなことありませんっ!」……オーエンさん」


 自分を下げる様な発言をして苦笑を浮かべるミムルに声を掛けようとした直後、被せる様にオーエンさんが叫び出して驚いてしまう。

 それはミムルも同じだった様で、体をビクッと跳ねさせていた。


「儂らがどれだけ……どれだけあなた様の言葉に救われた事か……っ。こうしてリリィと共に居られるのだって、あなた様がリリィの魂をお救い下さったからです!」

「そうです。私がここに居て、オーエンが隣に居てくれる……そんな幸せを迎えられるのも、あなた様が私をお救い下さったからなんですよ?」

「オーエンくん……リリィちゃん……」


 ミムルはそう思ってなかったみたいだけど、された側であるオーエンさんとリリィさんはしっかり覚えているんだ。そのされた事の大きさと、された事の有り難さを。

 俺がそんな様子を眺めていると、教会の入口から何人かがミムル達の傍へと駆けていくのに気がついた。


 先頭に居るのは……レオニスか?

 そしてそんなレオニスに続くようにしてアルムニア、ジール、レイミーの3人の姿を確認する。

 4人はそのままオーエンさん達の後方まで辿り着くと、息を整える事もなくその場に両膝を着いて……そのまま頭を下げて土下座し始めた。


「ミムルルート様っ!!」

「な、なに!? みんな、どうしたの!?」

「爺さん……オーエン師匠の願いを叶えてくれて、ありがとうございましたっ!!」

「「「ありがとうございました!!」」」


 レオニスの声に続いて、レオニスの後方で同じ様に土下座をしている3人もミムルへと感謝の言葉を告げる。

 印象的なのは……その全員がポタポタと地面にシミを作るくらい泣いている事だ。


「オーエン師匠は、いつも俺に言ってました……『創造神様から賜った力を正しく使え』、『守るべきものの順番を誤るな』って……。最初は特に何も思わずただただオーエン師匠の言葉だからって従ってました。でも、村の言い伝えを思い出し、オーエン師匠が時折俺達に向ける寂しそうな顔を見て…………オーエン師匠が、過去の出来事を悔やんでいるのが痛いほど分かったんです」

「レオニス……」

「何かしてあげたかった……! いつもいつも、仕方がないって顔して俺達の面倒を見てくれたオーエン師匠に……感謝を伝えても伝えきれねぇくらいの恩があるオーエン師匠にっ! でも……俺達は何も出来やしないっ。それどころか……俺達の存在がオーエン師匠の寂しさや悲しみをより強めてるんじゃないかって……それが何よりも悔しくて、申し訳なかった……っ!!」


 確かレオニス達は、オーエンさんが生まれ育った村の出身だったはず。そして若くして冒険者となり王都へとやって来て……オーエンさんと再会した。

 そこからオーエンさんの弟子になり沢山の事を教わったのだろう。沢山の経験を積ませてもらい、沢山助けてもらったんだろうな……じゃないと、あんなに悔しそうに涙を流したりはしないだろう。

 爺さん爺さんとオーエンさんの周囲に居る時のレオニス達は……本当の家族の様な雰囲気があったから。


 そんなレオニス達の心境を聞いていたオーエンさんは、先程まで上げていた筈の顔を地面へと伏せて体を震わせている。そして耳を澄ましてみれば「馬鹿者め」と呟いていて、その地面にはレオニス達と同じ様にポタポタと小さな丸いシミを作っていた。

 そんなオーエンさんの傍にはレオニス達の姿を見て、レオニスの言葉を聞いて嬉しそうな顔をしながら優しくオーエンさんの背中を摩るリリィさんの姿があった。

 本当に……俺が知り合いは良い人ばかりで困ってしまう。こっちまでもらい泣きしてしまいそうだ。


「嬉しかった……。ミムルルート様やダイキの計らいでオーエン師匠が想い人と再会できて、嬉しそうに笑いながら泣いているオーエン師匠の姿を見て、涙が止まらなかったぁ……っ……本当に、うれじぐで……ありがとぅ……ございましたぁ!!」

「僕らの師匠に最高のプレゼントを与えて下さり……ありがとうございます……っ!!」

「ミムルルート様ぁ……本当にありがとうございます……私、ずっと師匠に申し訳なくてぇ……っ……」

「うぅっ……ずっと……ずっと……私達の事を見守って下さり……ありがとう、ございます……!!」


 精一杯の感謝を、レオニス達が伝えてくれている。

 涙を流し、嗚咽を漏らし、頭を下げながら……必死に、必死に言葉を紡ぐレオニス達。


 なあ、ミムル……世界を創造して良かっただろう?


 必死に感謝を告げるレオニス達を……その瞳に涙を溢れさせながら幸せそうに、嬉しそうに見つめるミムルを見て、俺も自然と笑みを浮かべていた。





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