第61話 十五日目(昼) それは、神のみが作ることの出来る……。



 女神の威厳を魅せるミムルから、オーエンさんとリリィさんに褒美が与えられるらしい。

 オーエンさんとリリィさんは感動した様子で顔を下に向けており、その後方では他のみんなが一体何が起こるのか……その結末を期待した瞳で見守っていた。


 そして俺もみんなと同じ様に期待した眼差しでことの成り行きを見守ろうと思っていたのだが……いま、一瞬だけミムルと視線が合った様な気がしたのは俺の気のせいだろうか?


「では先ず始めに…………リリィ」

「はっ!」

「30年以上もの間、世界の為に慣れない仕事をしてくれたリリィに敬意を評し――――見習い天使からの卒業……中位天使への種族進化を認める」

「あ、有り難きしあわ「更に」……っ!?」


 種族進化という破格な褒美を貰える事となったリリィさんは恐縮した様子で感謝の意を告げようとしたのだが、どうやら褒美は一つだけではなかったらしい。

 驚くリリィさんを微笑ましそうに眺めながら、ミムルはリリィさんの言葉を遮り話し続ける。


「更に、現在リリィが行っている業務を変更……これよりリリィは上位天使であるマルティシアの補佐として働いてもらい、勤務地及び居住地は――"リゾート"となる」

「ぇ……あっ……有り難き……有り難き幸せっ!!」

「ふふふっ、今までも仕事を教えたりしてましたが、これからは部下としてよろしくお願いしますね?」


 マルティシアの言葉にリリィさんは涙を浮かべながら何度も首を縦に振っていた。ああ、だからミムルは俺にあんな事を聞いて来たのか。


 実は、オーエンさんにある物を渡しておいて欲しいとミムルに頼んだ時、ミムルから「リリィちゃんが此処で暮らして行くことを認めて欲しい」とこっそり頼まれていたのだ。そして俺は特に問題はないだろうと判断してそれ許可した。


 これにより、リリィさんはミムルはマルティシアの様に此処で生活していく事となり、それは恋人であるオーエンさんと会える機会が増える事を意味する。リリィさんのあの喜び様も頷けるな。


 そんなリリィさんの様子を優しく微笑みながら見守っていたミムルは、やがてその視線をリリィさんの隣で頭を下げ続けているオーエンさんに向ける。


「続いて――オーエン」

「はっ!」

「早速、私からの褒美を与えよう……と言いたいところだが、先ずはこれを2人に渡そうと思う」


 凛々しい声と共に顔を上げたオーエンさんに対してそう言った後、ミムルは2枚のカードを宙に浮かせてオーエンさんとリリィさんの目の前まで移動させた。


 え、あれって俺が渡して欲しいって預けた……このタイミングで渡すのかよ!? 変に感謝されるのが嫌だったからミムルに預けたのに……!!


 そんな俺の心の叫びに気づいたのかは分からないが、チラッとこちらを見たミムルと視線が合った。

 視線が合ったミムルの表情はしてやったりといった感じにニヤけており、間違いなく狙ってやったのだと確信した。


「こ、このカードは一体……?」

「ふふっ……! それは『リゾートメンバーカード』というカードで、そのカードさて持っていれば何時でも自由にこの空間へ出入りできるという物だよ」

「っ……!?」

「ちなみに、それは私からじゃなくて……「ちょっ、ミム」――再会を果たすことが出来た2人がもう寂しい思いをしない様にって大樹くんが2人の為に用意してくれたんだ」

「おぉ……なんと慈悲深い御方でしょう……!!」

「私達の為に……ありがとうございますっ!!」


 うわぁ、照れくさい!!

 何が照れくさいって、2人だけじゃくてミムルやマルティシア、オーエンさんやリリィさんを後ろから見守っていたみんなまでが微笑みを浮かべて俺を見てくるのが照れくさくて恥ずかしいっ!!

 途中でミムルの言葉を止めようとしたら隣に居たリディに口元を抑えられるし……あー、顔が暑っついなぁ!!


 結局、感謝をされる事を避ける事が出来ず気恥しい思いをする事になってしまったが、口を塞がれた状態で俺はミムルへと視線を向けて『早く話を進めて』と訴える。

 そんな俺の意図を察してくれたミムルは苦笑を浮かべつつも、オーエンさんとリリィさんの名前を呼んで此方へ向いていた全員の視線を元に戻してくれた。


「さて、大樹くんからのプレゼントを渡せた事だし……今度は私からの褒美をオーエンに与えようと思う」

「はっ!! ありがとう存じます!」

「私がオーエンに与える褒美、それは――――『選択』」


 そう告げた直後、ミムルは黄金色の光を胸の前に広げた両手に集め始めた。

 綺麗な粒子状の光が集まっていき、やがて何か入れ物の様な形へと変わっていく。そして一瞬だけ強い光を放った後に姿を現したのは、透明な瓶に入れられた黄金色の液体だった。


 内容量は恐らく100mlあるかないかくらいの液体。それがコルクで蓋をされた醤油さしの様な形状をしているガラス瓶に入れられており、宙に浮いているその瓶はゆっくりとオーエンさんの元へと移動して行った。


 その光景を呆然と眺めていたオーエンさんは、目の前で浮遊するそのガラス瓶を震える両手で受け取りながら、これまた震えた声で優しく微笑みを浮かべているミムルへと声を掛ける。


「そ、創造神様……こちらは、一体……」


 それはこの場にいるミムルやマルティシア……そして恐らく全容を知っているであろうリディ以外の全員が気になっていること。

 登場シーンから迫力があったからなぁ。みんなが固唾を飲んでその答えを求めているのは仕方のないことだと思う。俺も滅茶苦茶気になってるし……。


 そんな俺達の様子を見ていたミムルは、困った様な笑みを浮かべながら…………その液体の正体を告げた。


「その薬の名前は"不老永寿の神薬しんやく"。簡潔に言うならば……肉体を若返らせ、寿命を永遠に近しい長さに出来る神にしか作れない薬だよ」

『……………………えぇっ!?』


 俺達の様子を見て困り顔を浮かべたミムルから返って来たのは……何も知らない俺達を驚かせるのには十分な効果のある内容だった。





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