第56話 十五日目(昼) ごめんなさい、こっそり見てました……。
side オーエン大司教
もう二度と会えないと思っていたリリィとの再会。
抱き合い涙を流し合う儂とリリィに、創造神様は優しい眼差しを向けながら事の経緯を説明してくださった。
あの時、フォレストウルフによってリリィが亡くなってからの事を。
まさかリリィが見習い天使になっているなんて思いもしなかったが……こうして再び出会えた事が何よりも驚きだった。
リリィを見習い天使として保護して下さった創造神様には感謝の言葉しか出てこない……神よ、我が片翼を、愛しき人をお守り頂き誠にありがとう御座います。
「――本当はね、オーエンくんが『神託』のスキルを使える様になった時点でリリィちゃんが見習い天使になったって教えることも出来たんだ。でも、私には伝える事は出来ても……会わせてあげる事は出来なかった。だからリリィちゃんとも話し合って、オーエンくんの死後に会う機会を設ける事で少しの時間にはなるけど再会を叶えてあげられる様にするつもりだったんだ。黙っていて……隠していて、ごめんなさい」
「「そ、創造神様!?」」
先程までとはうってかわり、悲しげに頭を下げられる創造神様に儂とリリィは驚き慌ててしまう。
大天使様はその様子をただただ悲しげに眺めているのみで、その場から動くことはなかった。もしかすると、事前に創造神様から何かを言われていたのかもしれない……神がそう易々と人間に頭を下げるなんて、普通であれば有り得ぬ事だ。
「そ、創造神様!! 頭をお上げください! 神が人に頭を下げるなんて……その様な事をしては威厳が……!」
……そう、リリィの反応が普通なのだ。
創造神様が謝られるような事など無い。
あの頃、儂は本当に荒れていた。なるべく表には見せないように必死に堪えてはいたが……愛する者を失った悲しみは消えることなく、心を蝕み続けていた。
そんな心境でリリィが創造神様の下で過ごしていると知ったら……もう二度と会えないと分かっていても、儂は自らの人生を終える様な――大きな過ちを犯していたかもしれない。
「……リリィの言う通りです。儂はあなた様に感謝をする事はあれど、謝られる様な事をされた覚えはありませぬ。どうか、頭をお上げ下さい」
「でも、私はオーエンくんの気持ちを知りながら…………」
「創造神様……」
儂はどうすればいいのだろうか?
こんなにも我々の事を思って下さっている創造神様に対して、なんて声を掛けて差し上げればよろしいのだろうか……。
嗚呼……どうかその様な顔をなさらないでください。あなた様は何も悪くないのです。
どうか、どうかその様な顔を――
「――なんて顔をしてるんだよ、ミムル」
「……え?」
突如背後から聞こえてきたその声に、創造神様は驚き声を上げられた。
そして創造神様の後ろに控えておいでになられていた大天使様もまた驚いたような表情をして……直ぐに安心した様な柔らかな笑みを浮かべ始める。
聞き間違える事はない。
儂が創造神様の次に感謝している御方の声だ。
その姿を見る為に背後へ振り返り儂は……大天使様の御心が、あの表情の意味が、分かったような気がした。
儂と同じ人族である筈のかの御方が、こんなにも頼もしく見えるのだから。
♢♢♢
side 大枝大樹
「――な、何でここに大樹くんが……それにリディちゃんまで……」
…………まあ、そうなりますよねぇ。
どうして同行しないと言った筈の俺がここに居るのか。
その答えは単純で……すっごく気になったから! ごめんなさい!!
ミムル達が転移した後、俺はリディと一緒にBBQ広場に残った皆を席につかせて公爵家の方々の歓迎会を開いていた。
公爵家の御三方は緊張は解けた様子だったので、1階から取り寄せたというオードブルやアラカルト(リディチョイス)を御三方が座るテーブルへと並べていき、傍付きのルークさん達3人には取り皿や食器を並べた別のテーブルを案内して使い方が分からない物に関して説明していった。
その間、転移者組である桜崎さん達やレオニス達には炭火焼きグリルに火をつけてもらい肉串を焼いてもらっていた。
そうして各々の準備が終わったところで、公爵家の代表であるガルロッツォ様から一言頂戴して歓迎会がスタートした…………のだが、俺は正直それどころじゃなかったんだ。
【――――詳細はこんな感じです。オーエンとリリィは非常に一途だと思いませんか? 願わくば私もますたーといつまでも愛し合っていたいものです。】
【――――あ、今オーエンが教会の前に辿り着きました。そしてその中には…………リリィが居ます】
【――――さぁ、2人はどの様な再会を果たすのか……私、とても気になります。】
人が気になるけど我慢しているって言うのに、事細かに過去のエピソードも付けながら実況中継するのやめてくれません!? お陰様で涙が出そうになるのを堪えるのが大変だったんだが!?
そうかぁ……俺は"オーエンさんと恋人関係にあった女性がフォレストウルフに殺されてしまい、現在はその魂を預かったミムルが見習い天使として第二の人生を与えていた。"って事くらいしか知らなかったからなぁ。
まさかあんな悲しい過去だったなんて思いもしなかった……そしてだからこそ悲しみを乗り越えた先のハッピーエンドが気になるっ!!
そんな軽い気持ちで、皆に軽く事情を話してから来ちゃったんだよなぁ…………おまけ付きで。
「私たちだけではありません。オーエンには悪いとは思いましたが、教会の外には屋上に残っていた全員が来ています…………まあ、その殆どの方達が泣いている状態ですので中に入ってくる気配はありませんが」
「ごめん、オーエンさん」
「い、いえいえ、儂は構いませんが……」
俺はオーエンさんに頭を下げて誠心誠意謝罪をする。幸いな事にオーエンさんは許してくれたので、俺もホッとした。
リディの言う通り他の皆も付き添って来ているんだが……転移組は冴木も含めて全員号泣。異世界組もシェリル、ガルロッツォ様、ルークさん以外は全員泣いていた。
ガルロッツォ様は妻のオリエラ様と娘のフレイの面倒を見ていて、ルークさんはマリーさんとネルさんの面倒を見るのに忙しそうでこちらへはまだ来れなさそうである。
シェリルはシェリルで泣いている女性陣から抱き着かれて身動きが取れないで居た。
中でも"炎天の剣"の面々は関わりが深いだけあって嗚咽が漏れ聞こえる程に泣いていた。
俺も泣きたかったんだけど、レオニスが隣でえぐえぐ言っているのを見て泣いている場合じゃないなと思い、そっとハンカチとティッシュを配る係に徹していたのだ。フワフワな高級ティッシュが大人気でした。あれ気持ちいいんだよね。
本当は気づかれるまでは出てくるつもりは無かった。
一応こっそりと来ている訳だし、あまり首を突っ込むのも違うかなと思っていたからだ。
だけど事情が変わった。
感動的な再会を果たし、幸せの絶頂である2人を前にしたミムルの……悲しげな顔を見てしまったから。
まだまだミムルとの関係は短いけど、そんな俺でも分かる事はある。
きっとミムルは……自分の事を不甲斐ない神様だと勘違いしているんだなと、そう思った。
ミムルは優しすぎなんだ。
部下にも、人間にも、そして世界にも。
ミムルは気負いすぎなんだ。
全てを見守る立場にあるからこその弊害。その全てを見通せてしまうからこそ生まれてしまった罪悪感。
ミムルが直接何かをした訳ではない。
それなのに、ミムルは何も出来ない自分を責めてしまう。
世界を創造せし女神。
なのに自分は安易に世界へ干渉する事が許されていない。
そんな矛盾とも思える規則によって縛られたミムルの精神は常に罪悪感で押し潰されていた。
私が世界を創ったりしたから。
きっとそんな想いを胸に、ミムルはいつも世界を見ていたんだろう。罪の意識に苛まれながら。
だからこそ、俺はミムルに伝えたい。
オーエンさんやリリィさん、公爵家の人々やレオニス達と出会えたのは一体誰が居たからなのかと言うことを。
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