第19.5話 SS アーンは口いっぱいに突っ込むのがルールじゃありません。
この世界に来て七日目の夜。
現在、俺はある程度料理を作り終えてようやく晩御飯にありつけた所だ。
肉串、野菜とお肉のミックス串、ちゃんちゃん焼きもどきにアヒージョ! 炭火焼きグリルが織り成す最高なご馳走の数々!! なのに…………何故か俺はいま、三人の美女達に囲まれている。
右の席にはリディが、左の席にはマルティシアが、そして後方にはミムルが立って顔を真っ赤にしながら俺を見つめていた。
あ、あの……何か御用ですか?
「えへへっ、だーいきくんっ」
「うわっ!? ミムル!?」
「スリスリ〜、冷たくて気持ち〜っ」
酒くさっ!?
背後から抱き着いてきたミムルが左頬に頬擦りをして来る……その肌触りは柔らかく程よいモチモチ感でちょっと嬉しくは思うけど、完全に酔っ払ってるよね?
「うぅっ……私だって、私だってお仕事を頑張ってるんですよぉ……っ。だから、これはお仕事を頑張った私へのご褒美なんですぅ! ちょっと、聞いてるんですかぁ!?」
マルティシアはマルティシアで相当酔ってるなぁ……泣き上戸にプラスして絡み癖もあるっぽい。そして、仕事の事で相当ストレスが溜まっているようだ……おい、部下が泣きながら愚痴ってぞ上司さん?
「えへへっ……にゃぁん♪」
あ、ダメそうだ……どうしよう?
とりあえす、さっきから猫みたいな声を上げてるミムルを膝上に乗せてマルティシアの方へ向けてみる。
「うぅ〜! ミムルルートさまぁ……どうして、どうして貴女は仕事をせずに大枝様ばかり見ているですかぁ!!」
「えへへっ……だってぇ、大樹くんの事が心配だからにゃあ〜」
「むぅ〜!! 私だって……私だって……大枝様を……すぅ……」
あ、倒れた。
なんか最後に気になる言葉を残して寝ちゃったから起こして聞きたい衝動に駆られる。
だがダメだ。せっかく酔っ払いの数が減ったのに、自分から数を増やしに行く必要性は感じない。よし、ここは大人しく我慢する事にしよう。
……だからミムル、寝てるマルティシアにちょっかい出そうとしないでね? よーしよしよし、なんならミムルも寝てていいんだぞー?
ダンッ!
「うわっ!?」
右隣から聞こえて来た衝撃音に、思わず驚いて声をあげてしまう。
音の正体を探るべく、右へと視線を向けてみると……そこにはほんのりと顔を赤らめたリディが至近距離から俺を見ていた。
その右手に音の原因であろうワインボトルを掴みながら……。
「――ひっく……ますたー、私は思いつきま
「うん、分かったから。一旦、そのワインのボトルはテーブルに戻しなさい」
「むっ……なん
酔ってるよね?
顔が赤いのも呂律が回ってないのもその手に持ったワインが原因だよね!? ちょっ、ブドウジュースじゃないんだからラッパ飲みはダメだって!!
良い大人は真似してはいけません!
とりあえず、これ以上飲まない様にテーブルに置いてあるワインボトルと、リディが手に持っていたワインボトルは『簡易収納』の中にポイしておいた。
リディとミムルからのブーイングが凄いが気にしません。飲み過ぎは良くないぞー?
そうして二つのコップに水を入れて、二人に一杯ずつ飲ませる。全っ然飲もうとしないけど、頑張って飲ませる。
お酒じゃないと分かった途端にあからさまに拒否するのやめてくれないかな!? 酔っ払いの介抱って本当に大変なんだな……初めて知ったよ……。
「それで? リディは何を思いついたんだ?」
何とか無事に水を飲ませてから、そういえばリディが何かを思いついたって言ってた気がすると思い出し、改めて聞いてみることにした。
まあ、酔ってる状態で思ついた事だから真面な事じゃないだろうけど、一応念の為にね?
「…………何の
おおっと、ちょっとだけ面倒に思えてきたぞぉ?
このままもうマスタースイートルームに帰ろうかな?
「っ!! ダメ
「んえ?
「ちょっ!? 帰らない! 帰らないから!! 二人して抱き着くのはやめてくれ!」
酔う!! 二人のお酒の匂いで俺が酔っちゃうから!
てか、力強っ!? ひ、引きはがせない……!!
「そう
「あ~!
え、冗談だよね?
さっきよりも呂律が回ってない状態の二人からアーンされるとか……嫌な予感しかしない!!
「ほら、ま
「
ほらー!! もう持ってるのが串焼きじゃん!! 刺さる! 絶対に刺さるから!
「ふ、二人とも落ち着いて――もがっ!? んぐっ!? んーー!!」
熱い! 苦しい! げほっ……肉汁が変なところに入った……っ!!
「ふふふ、おい
「足り
「んん!? んんーー!!」
要らない!! もう要らないから!
頼むから、普通に食べさせてくれぇーーーー!!
人生で初めてのアーンは……美少女がしてくれたにも関わらず、幸せどころかもう少しで天国へ旅立つ所だった。今後はお酒禁止にしようかな……。
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