第19話 七日目 結局は、自分がどうしたいかだと思うから。
日は完全に暮れて、月が輝く夜。
ホテルの屋上へやって来た俺たちはBBQ広場で夕食の最中だ。
ジュゥッ……ジュゥッ……。
あぁ、肉が焼ける音って何でこうも食欲をかきたたせて来るんだろう?
……うん、国産どころか地球産であるかも怪しいリディ曰く牛肉な肉串でも良いんだ。実際今まで不味かった事はなかったし。まあ、こうして焼いている今もいい匂いがするし問題なしだな!
……さて、お気づきの方もいることだろう。
ええ、そうです。結局リディの焼いた肉串は食べられませんでした。リディとミムルによる上目遣い攻撃は狡いだろ!! 何なら食材を切るところからのスタートだよ! チクショウッ! 美味いもん食わせてやるからな!!
肉串の片面に焼き目が着いた事を確認してひっくり返し、また暫く放置。その間に空いている網の上に食材を入れたアルミプレートを乗せて置く。
アルミプレートの中身はサーモン、しめじ、人参、キャベツ、砂糖、みりん、酒、バター、味噌、塩コショウ。ちょっと料理をする人なら知っているとは思うが、ちゃんちゃん焼きをアウトドア用に簡単にしたものだ。
本当は玉ねぎも入れる予定だったけど、用意してもらった奴はもれなく串焼きで使い切ったんだよなぁ……輪切りを四切れくらい入れとこ。
そして、今日はゲストも居るのでもう一つグリルを使って新しい肉と野菜のミックス串を焼いていく。ミックス串は牛肉?、輪切り玉ねぎ、ズッキーニ、トウモロコシ、椎茸なんかを適当な順番で刺してある。ピーマンはなんか焦げそうだからやめた。俺が嫌いな訳じゃないよ? ホントダヨ?
さて、ミックス串を置いて余った端のスペースには……小さめの鍋を置く。
そこにオリーブオイル、鷹の爪、ニンニクを入れて少し放置しニンニクの香りが出てきたらマッシュルーム、エビ、ブロッコリー等を入れて放置。このまま良い感じに火が通れば面倒くさがりによるアヒージョの完成です。良い子のみんなはちゃんとレシピとか見て調理するんだぞ!
おっと、そうこうしている間に最初に焼いた肉串が良い感じだ。焼きあがった肉串を大皿の上へと移し、軽く牛脂?で網を擦ってから再び生の肉串を乗せていく。
そうして焼いた肉串が重ねて乗せてある大皿を持って向かうのは……空っぽの大皿が二枚重ねてあるテーブルだ。
「はい、お肉焼けたよー」
【ありがとうございます。ますたー】
「大樹くーん! お肉って美味しいねぇ〜! えへへっ、大樹くんが焼いてくれたからかなぁ?」
両手にあと一切れずつしか刺さっていない肉串を持つリディが、リスみたいに頬を膨らませながら頭の中に直接お礼を伝えて来る。器用だねぇ……また口周り汚してるし。
そしてミムルはミムルで初めてだと言うBBQをそれはもう幸せそうに食して食して……食べ過ぎじゃないかと心配してしまうくらいには食べ続けている。あの体の何処に肉串が10本以上も入るのだろうか?
そしてその口元にはお肉の欠片がチラホラと……ミムル、お前もか……。
心からの信仰と共に捧げられた物にしか味がしないって聞いてたから、てっきり肉串を焼く度にミムルに祈りを捧げないとダメなんだと思ってたけど……本当に大丈夫そうだな?
一応確認はしたんだけど、やれ「神像の支配領域が広がって〜」とか「権限自体は剥奪されてるけど、領域は残ったままだから〜」とか、小難しい説明ばかりでちんぷんかんぷんだった。ま、味がするならそれでいいんだけどさ。
「……ミムルルート様、口元が汚れていますよ」
「むぐっ……あはは。まともなご飯なんて初めてだったからついね? ありがとう――マルティシア」
そんなミムルの口元を拭うのは、この"リゾート"へ訪れていたもう一人のお客様……マルティシアだ。
身長はリディと同じくらいで、ミムルと同じ金色をした髪は胸の辺りくらいまでの長さで、瞳は青色。ホールターネックの白装束を身に纏い、その背中には白くて大きな翼が畳まれた状態であるのが肩越しにも見える。どうやら、上位天使という種族らしい。目元がキリッとしてて敏腕秘書っぽい雰囲気がある。
最初は敬語を使い様付けで呼んでたんだけど、なんか物凄い低姿勢な態度で「敬語も敬称もやめて欲しい」と懇願されてしまい、ミムルからも「マルティシアのお願いを聞いてあげて」と言われたのでミムルと同様の対応をしている。
うん、第一印象が速攻で塗り替えられた珍しいタイプのひとだ。
「あ、あの、本当に私までご馳走して頂いてよろしいのですか? お手伝いとか……」
「あー大丈夫大丈夫。マルティシアもお客様なんだから、気にせず沢山食べてくれ」
心配そうにこちらを見ながら手伝いを申し出てくれたマルティシアに、俺は気にする必要は無いと返して空になった取り皿に肉串を2本置いた。
「じぃーっ」
「じぃ〜っ」
……空っぽの取り皿を手に持ちながらジト目で見てくる腹ぺこガールズにもそっと2本……いや、3本程取り皿に乗せてみる。
「「っ!!」」
うん、どうやら正解だったみたいだ。リディもミムルも嬉しそうに肉串を頬張り始めている。そんな二人の様子を見てマルティシアは苦笑気味だけど、マルティシアももっと食べていいんだぞ? じゃないと腹ぺこガールズに食べられるから。
あ、そういえばマルティシアってお酒好きだったよな?
確か纏めて買ってあった分がまだあったはず……よし、これでいいか。
「はい、マルティシア」
「へ? こ、これって……ワ、ワインですか!?」
大皿をテーブルへと置いた後。『簡易収納』から取り出したワインをマルティシアへと渡すと、受け取ったマルティシアは興奮した様子で椅子から立ち上がりすぐそばに居た俺へと詰め寄ってきた。
うわっ、まつげ長い! 肌も綺麗だし、何より胸が……っ。むにゅんって、つ、潰れ…………はっ!?
「「…………(もぐもぐ)」」
ちょぉっ!? 見世物じゃないから! しかも楽しんでる訳でもなくジト目で見ながらお肉齧るのやめてくれませんかね!?
心做しか食べ方がさっきよりもワイルドになってるのが怖いんですけど!?
「あー、マルティシア? そのワインは飲んでも良いし、何なら他にもお酒を出すから……とりあえず落ち着こうか?」
「ほ、本当ですか!? う、嬉しいです……っ!!」
「ちょっ、何で!? 落ち着いてって言ったのに!?」
追加のお酒も出すと言ったのがダメだったのか、俺の言葉を聞いてマルティシアは嬉しそうな顔をしながら思いっきり抱き着いてきた。
いや、あなたあんなに真面目そうな雰囲気でしたよね!? 酒か? お酒が関わるとダメな子になっちゃうパターンの上位天使だったのか??
ちょっ、さっきはソフトだった感触がエマージェンシー!!
マルティシア……お願いだから背後に回ってニッコリと笑みを浮かべてる二人に気づいてくれー!!
その後は我に返ったマルティシアが顔を真っ赤にしながら、やけくそ気味にワインボトルを空にし続けて酔い潰れてしまったり。
あれは事故なのでお咎めなしとなった筈なのに、調理中の俺の左右に回り込み「大きいのがいいのですか? やっぱりボンキュッボンなのですか?」とか「わ、私はちっちゃいけど、でもね! 肌触りはすっごく良いと思うんだよね!?」とか謎の言葉責めを受け続ける羽目になった……いや、あの。見た目がどうこうじゃなくて、自分が選んだ相手である事が恋愛においては大事だと思うんですよ……はい。
だから、個人的は大きさに拘りは無いので二人して胸を寄せて上げようとするのはやめようか? なんかちょっとだけ顔も赤いし、絶対に酔っ払ってるだろう!?
♢♢♢
「はぁ……つっかれだぁー……」
あの後、結局マルティシアが残したお酒(残してたと言ってもボトル2本半)を全部飲んでいた事が判明した二人は、あまりお酒に慣れていなかったのか早々にフラフラになりマルティシアと同じ様にテーブルの上に突っ伏してしまった。
ふと思ったけど、女神様もお酒に酔うんだな? 上位天使のマルティシアも「このふわふわがしゅきなんれしゅう〜」ってベロベロになりながら言ってたし……もしかしたら敢えてそうしてるのかな? 確かリディが『状態異常耐性』もアルコールに対して切る事が出来るって言ってたし。俺も今後お酒を飲む機会が来たら『状態異常耐性』の切り方を教えてもらおうかな?
リディが酔ってるのも初めて見たけど、なんか……何時もよりも大人しくなってた? 気がする。
殆ど喋らないけど、その分ずっと隣に引っ付いて来て離れようとしなかった。ちょっと料理や片付けをするのは大変だったけど、わざわざ「離れて」と言う程でもなかったので酔い潰れて眠るまでそっとしておいた。
ミムルは……ミムルはなぁ……あれは何て説明すれば良いのだろうか? 自分に素直になるというか、隠していた事も話しちゃうというか……後、若干のキス魔だったりする。若干とつけたのには訳があって、キスの対象が俺にだけだったからだ。手の甲や首筋、頬や鼻の先とかに何度もチュッチュと軽いキスを繰り返していた。首筋をキスされた時はたまにあむあむと甘噛みもされたのでされた所がちょっとだけ赤くなっている。
最初は酔ったら異性にキスするタイプなのかなって思い、機会があるのかは分からないが「男が居る前で酔わない方がいいぞ?」と軽く注意しておいた。
まあ、その後に頬を膨らませて「そんなに軽い女じゃないれすぅ〜大樹くんらかれすぅ〜」と言い、頬に何度もキスを落とされた。うん、流石に恋愛経験の少ない俺でもその好意には気づく……ちょっと照れくさい。
そのまま酔い潰れてしまったから大事には至らなかったが、問題はミムルに記憶があるかないかだな。
記憶が無ければそのままで良いだろう。覚えていないことを蒸し返すのも野暮だし、飲み過ぎに注意して終わり。記憶があった場合は……とりあえず話し合いかな?
きちんと話をして、シラフの状態でお互いの気持ちを確かめないと始まらない。
……まあ、どっちにしろ確認出来るのは明日だろうけど。
今日は三人とも酔い潰れてしまったので、転移機能を使ってマスタースイートルームに移動させてある。
とりあえずツインベッドが置いてある部屋のベッドをくっつけて、三人を川の字で寝かせておいた。
…………リディも二人と一緒なのは女の子同士で仲良く出来たらなぁって思っただけであって、決して運んでる最中に呻き声を上げていたからではない。そう……決して酔いによるリバース対策ではないのだ。
そうして三人を寝室へと運んだ後で、俺はマスタースイートの中にあるバスルームでゆっくり湯船に浸かっている。……この部屋、何故か風呂が別々に一つずつあるんだよな。まあベッドとか持ち込めば何人でも住めそうではあるし、そういうのを想定した設計なのかな?
わ、わからん。地球でも高級ホテルなんて泊まったことないからホテル事情に全く詳しくないから……。
「ただ……設備が凄いのは確かだな」
グレーを基調とした壁や床は何処かアダルティな雰囲気がある。埋め込み式の丸い浴槽は当然のようにジャグジーが付いてるし、最初見た時はなんか花が浮いていた……ちょっと邪魔だなって思って取っちゃったけど。香り付けの為だったのかな?
シャワーは出てくる水がきめ細かく、手持ちタイプだけじゃなくて天井から降り注ぐタイプのシャワーも付いていた。雨かな? 傘持ってきて遊びたい……。
シャンプーとかリンスとかも高級そうな容器に入ってるし、何処となく肌も髪もツヤツヤしてる気がする。
……これ、やばい成分とか入ってないよな? 異世界産の薬草とか混ぜてないよね? 不安になるくらい劇的な変化が起こってるんだけど!?
若干――いや、かなり不安ではあるが、目に見える害は無さそうなのでとりあえず考えるのは保留にして、湯船にドボンッ。
「はぁ……ここ数日は訓練してシャワー浴びて寝る生活だったからなぁ。湯船に浸かるのがこんなに気持ちいいなんて思いもしなかった……。そう言えば、一人で暮らしてた時もシャワーだけだったかも」
そう考えると、久しぶりの湯船がこんなゴージャスな浴槽なんてかなりの贅沢だな。極楽極楽。
……明日はどうしようかな?
まずは三人の様子を見に行って、大丈夫そうならそのまま朝御飯? BBQはもういいだろう。みんなが良ければ1階にあるレストランで食べてみたい。
その後はまあ、お客様であるミムルやマルティシアさん次第だな。行きたい場所があるなら付き合うし、欲しいものがあれば買い物とか? なんか二人とも嬉しそうに金ピカのカード持ってたし……あれって俺のカードと同じシステムなら、神力をポイントに変換出来るんだよね? お、お金持ちだーー!! 富豪様だーー!! まあ、女神様と上位天使様だしそういう次元の話じゃないんだろうけど。
「あれ? そう言えば二人は何しに来たんだろう?」
単純に遊びに来てくれたのかな?
だとしたら明日はやっぱり観光かな。ミムルは洋服が欲しいって言ってたし、マルティシアさんもお酒は自分で選びたいだろうしな。
「ふぅ……。となれば、さっさと寝て明日に備えるか」
という訳で、のぼせない内に湯船から上がり浴室を出る。柔らかなバスタオルで体を拭い、黒い半袖半ズボンな寝巻きを装着っ! ……ダメだな。なんか今日の俺は変なテンションになっている気がする。初めてのお客様が来て浮かれてるのかもしれない。
自分の異常なテンションに苦笑しつつも新しく取りだしたタオルで髪を拭きながらメインベッドルームへと足を進める。……メインベッドルームの場所は覚えてるから、迷子にはならなくて済みそうだ。地図とか欲しいなぁ。リディにお願いしてみようかな?
途中でキッチンに立ち寄り、コップ一杯分の水を飲み。辿り着いたメインベッドルームのドアを開ける。
「……………………ミムル?」
扉を開けた先に――――こちらに背を向けた状態でベッドの上に座るミムルの姿があった。
女の子座りをしているミムルは俺の声にピクリと肩を跳ねさせると、恐る恐るといった様子でこちらへ顔を向け始める。
「や、やっほ〜?」
薄暗い常夜灯の明かりしかついていない部屋の中でも、震えた声で話しかけて来るミムルの赤面した表情がよく分かる。そして、何故か視線を右往左往させてこっちを見ようとしない。
これはひょっとして……。
「えっと、もしかして酔っ払ってからの事とか全部……?」
「〜〜っ!? うぅ……覚えてるぅ……」
あー、やっぱり覚えてるんだ……。
両手で顔を隠し何度も首を縦に振り続けるミムルに思わず苦笑してしまう。
よく見れば、どうやらミムルもお風呂に入っていた様だ。服装はブカブカのバスローブだし、一応拭いてはいるみたいだけど……やはり長過ぎる髪は拭ききれないのか、水気を帯びたままである。
俺は未だ顔を隠して羞恥にみ悶えているミムル近づくと、ベッドの上へと乗りその綺麗な髪の上にタオルを被せ優しく拭き始めた。
「ふにゃっ……大樹くん?」
「髪が濡れてるみたいだったからさ。拭いてあげようかなって……嫌だったか?」
「う、ううん!! 嬉しい……えへへっ。いつもは魔法で綺麗にして終わりだったから、お風呂とか慣れてなくて……」
「あーそうか、魔法で綺麗に出来るなんて本当に便利な世界だなぁ」
タオルの下に見えるミムルの顔は嬉しそうにしていたので、そのまま髪を拭き続ける。魔法ってつくつぐ便利だなぁと思い俺が感心していると、ミムルは「良いことばかりじゃないよ」と苦笑を浮かべた。
「魔法は確かに役に立つし、人の為にもなる力だけど……悪用はされちゃうし、暴発する恐れだってある危険なものだから。それに、便利な魔法が普及していくことによって、こうした小さな幸せも消えちゃうと私は思うんだー」
髪を拭いていた俺の両手にミムルは自分の手を重ねる。
温かいミムルの体温が小さな手を通して俺へと伝わって来る。確かに、今お風呂上がりのミムルの髪を乾かそうとしなければ、こうして温もりを感じて幸せに思う事もなかったのかもしれない。
「もちろん、魔法は私の世界には必要なものだから否定はしないよ? でも、私はこういう温もりも、幸せも……みんなに知って欲しいなぁって思う」
「……そうだな。こういう瞬間は確かに大事だと思う。俺もこうしてミムルの髪に触れられるしな?」
「あははっ! 大樹くんにならいつ触られても気にしたりしないよ〜? 普段は宙に浮かせてて清潔にしてるしねっ」
あー、そう言えばBBQ広場で食事してる時もミムルの傍でふわふわと浮いてた様な気がする……それどころじゃなくて良く見てなかったな。
そうしてある程度乾かした所でタオルを『簡易収納』の中にしまい、ミムルに「終わったよ」と告げた。
「ありがとー! えへへっ! だいすきっ」
にへらと嬉しそうに笑いながらお礼を言うと、ミムルはそのまま飛びつく様に俺に抱き着いてきた。
大好きか……。これまで文章の中でも、ミムルは俺に対して何度もその言葉を投げかけてくれていた。最初のうちはミムルの性格からして、フレンドリーな感じに仲の良い人には言うのだろうと思っていた。
だけど、称号に出ていた"好意"という言葉に勘違いを正され、次第にその言葉に込められた想いに気付かされて……その甘く可愛らしい声で伝えられる『大好き』の意味を知った。
そして多分だけど……リディもそれを容認している。さっさとくっつけと言わんばかりの態度とっていたし、ミムルの所に行っていた時にでも話し合ったのかなって予想してる。
だから、真剣に考えて……立場とか、種族とか、価値観とか、そんなの全部ゴミ箱に放り投げてから自分自身に向き合う。
問いかけ、投げかけ、そして……ぶん殴るっ!!
ごちゃごちゃ考えてないで、お前がどうしたいのか、目の前の女の子をどう思っているのか、それが大事なんじゃないのかと、逃げようとする自分自身に馬乗りになって怒鳴り散らした。
最低だと言われようと、変態だと罵られようと、クズだと嫌悪されようと、俺はもう迷わない。
こんな俺を好いてくれるミムルの想いを知らん振りするなんて……俺には出来ない。
この世界で許されると言うのなら、俺は元の世界の倫理観なんて捨ててやる!
そう決めたから。
俺は今も幸せそうに抱き着くミムルを抱き締め返す。
「ふぇっ!? だ、だいきくん!? どうしたの!?」
自分からは抱き着くクセに、抱き締められると動揺する可愛い女神様。
俺を見捨てず受け入れてくれた優しい女神様。
「ありがとう、ミムル」
「へっ? な、何が!?」
「俺を救ってくれて……この世界に受け入れてくれて、ありがとう」
ピクリと体を跳ねさせるミムルから体を離し、真っ直ぐにミムルを見る。
顔を赤くして、動揺しているのか視線を右往左往させるミムルに微笑みかけ……俺は自分の気持ちを告げた。
「俺もミムルの事が、大好きだ」
「〜〜っ!?」
驚き、固まり、震えだし、そして……その瞳に涙を溢れさせるミムル。
「……嘘じゃない、よね?」
俺の言葉が信じられないのか、確認するように……縋るような目を向けて聞いてくるミムルに、俺は笑みを浮かべながら頷いた。
「嘘じゃない。ミムルと一緒に居たい。恋人になりたいって……そう思ったんだ」
「ほんとうに……? わたしで、わたしで……いいの?」
ポロポロと涙を零しながら聞いてくるミムル。そんなミムルの瞳へ手を伸ばし……その涙を優しく拭っていく。
「不安なら何度だって言葉にする。この想いを伝え続ける。大好きだよ――ミムルルート。可愛くて、優しくて、愛らしいミムルが大好きだ」
「…………うん、うんっ。わたしもぉ……っ。わたしもっ、おおえだだいきくんの事が……だいすきですっ」
拭っても拭っても溢れ出る涙。
それでもその表情には喜びが溢れていて、その笑みは紛れもない本物だ。
涙を拭うために動かしていた手を頬へと移し、ミムルの顔へ自分の顔を近づける。
「ミムル……キスしていい?」
「……うん、キスして欲しい」
確認は1度だけ。何度もするのはかっこ悪いと思うし、何より……俺の我慢が限界だった。
…………チュッ。
数秒だけ触れるような軽いキス。
小さくて、柔らかい感触が伝わってくるのと同時に幸福感が身体中を巡り出す。
好きな子とのキスは、やっぱり特別で心地良い。
それはミムルも同じだった様で……。
顔を離してからミムルの様子を眺めてみると、さっきまでキスしていた自分の唇に指を這わせてその瞳を潤ませていた。
「キスしちゃった……ほっぺや首筋にじゃなくて唇に……えへへっ……幸せだなぁっ」
嬉しそうに涙を浮かべるミムルを正面から優しく抱きしめる。抱き締められたミムルも俺の背中へと手を回して抱き締め返してくれた。
「ねぇ……大樹くん」
「どうした?」
「私ね、もっと、もっと幸せを感じたいの……だから、ね? その……わ、わたしと――んっ!?」
そこから先は、言わせちゃいけないなと思った。
だからミムルが言い終える前に、その口を俺の口で塞ぎ続きを言えないようにする。
そうしてキスをしながら優しく小さな体を後方へと倒し、俺はミムルを覆い被さる様な形で見下ろした。
「ぷはぁっ……もう、後戻り出来ないぞ?」
「〜〜っ!! ひゃ、ひゃいっ!! よ、よろしくおねがいしまひゅ!!」
カミカミなミムルのセリフにさっきまでの雰囲気が崩れそうになる。ミムルから誘っては来たが……やっぱりいざ本番となると緊張してしまうみたいだ。
けど、そんなミムルのおかげで自分自身を落ち着ける事が出来た。
どうせなら、ミムルにとって最高の思い出にしてあげたい。
なるべく傷付けないように、ミムルを幸せにする。
そんな誓いを自分自身へとしてから――俺はミムルへと顔を近づけて行った。
……尚、無事ミムルとの関係を深める事が出来た矢先に、バッチリ監視していたリディが「次は私の番です」と乱入してきたのは言うまでもない。
そこからの記憶はちゃんとあるが……厳しい戦いだったとだけ言っておこう。
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