第4話 一日目 ステータスを見たい。



 あれから十分くらいその場に座り目を閉じて見たけど、何も反応はなかった。

 ぼーっとしてれば目が覚めてバスの中に居るんじゃないかなと期待したんだが、やっぱり夢じゃないのか。


 ……うん。可能性として有り得るのは、此処が北海道の何処か山奥の森であること。理由は分からないが、バスから降ろされた俺はここで寝かされ、皆はそのまま修学旅行へ行った。

 そしてもう一つが……此処が俺の知る地球とは違う場所で、俺はファンタジー漫画やファンタジー小説の登場人物達と同じく異世界へと飛ばされた可能性。


 どちらが有り得るのかと言われれば……いや、どっちも有り得ないだろと答えたい。だが、うーん……可能性としては異世界の方が納得は出来るんだよなぁ。

 これでバスに乗っていた他の奴らも一緒だったらまだ他にも可能性を見いだせていたんだろうけど、残念な事に一人ぼっちだし。


「さて、となると早いとこ森から出た方が良いんだろうけど……そもそも此処が何処で、どの方向に進めば良いのかも分からないんだよな」


 ここがもし異世界だとしたら、俺の知らない凶暴な生物がいるかもしれない。


 移動することにした俺は立ち上がり自分の服装を見てみるが、夏用の紺色ブレザーに鼠色のズボン、青のネクタイと白いワイシャツに、黒いソックスと焦げ茶のローファーとバスに乗っていた時と同じ服装だった。学生セットは問題なし。


 問題があるとするならば……。


「あー、無いなぁ……スマホ」


 正確には身に付けていたり、制服セットのポケットたちに入れていた物が全部無い。スマホ、腕時計、ボールペン、メモ帳、生徒手帳、ハンカチ、小銭用がま口財布、桜崎さんから貰った酔い止め薬のゴミ。結構入れてた筈なのに全部なくなっていた。


「そして当然の様にリュックとキャリーケースも無いと……高かったのに!!」


 リュックは適当に安いの買ったけど、キャリーケースはコロコロが付いてて鍵も掛けられて収納スペースが広い万札が飛んでいくような銀色のやつを買った。もう中身はこの際いいからキャリーケースだけ返して欲しいな。誰が盗ったの知らんけど。頑丈そうだったから盾にも使えそうだし。


「うーん、手荷物も全部ないって……早速詰んでないか!?」


 やばい、流石に手ぶらで何も分からず森の中はやばいぞ!?

 幸いにして動物の鳴き声とかは聞こえないけど、それがいつまでなのかは分からない。このまま日が暮れて夜になっ時、テンプレ的に狼の遠吠えとか聞こえてきたりしたら最悪だ。

 と言うか、この際お腹壊しても良いから飲み水くらいは確保したい。


「くっそー、手ぶらでスタートとか聞いてないぞ!? 何でもいいから荷物を出せー!!」


 あんまり騒ぐのは良くないんだろうけど、もう絶望的な状況に陥ってる今の状態では今更だろう。いっその事、何か動物にでも出会えないかなとかヤケクソ気味思っていたりしている。


 そうして両腕を上へと挙げながら叫ぶと……急に頭の中で知らない声が聞こえ始めた。


【アイテムを取り出しますか?】


 ……アイテム、あるんですか?


「っ!? 取り出す! 取り出します!! 持ってるもの全部出してください!!」


【スキル『簡易収納』内にあるアイテムを全て取り出します。再び収納する場合はスキル名を唱えて下さい】


 丁寧なカツアゲ屋さんみたいになってしまったが、誰も聞いてないだろうし良いだろう。

 そして再び声が聞こえたと思った直後、俺の目の前にリュックサック、キャリーケースが出現しその後も身に付けていた腕時計や、制服のポケットにしまってあった物が落ちてきたりと……いや、多いな!? 思わず飛び退いちゃったよ!


「ふぅ……でも良かった。物語なんかだと全部没収とか有り得たからな。荷物の中には使えない物もあるけど、衣類が取り上げられなかったのは助かる」


 そして何よりスマホとソーラパネル付きのモバイルバッテリー!!

 流石に回線は通ってないけど、ダウンロード済みのアプリや音楽は使える。特にネット環境が要らないアプリ(本)は暇つぶしに持ってこいだ!


「あれ、でも無いのもあるな?」


 リュックサックに入れてたお菓子とペットボトルが無い。キャリーケースを開けてみると、念の為に持ってきていた使い切りシャンプーとか歯磨き粉、絆創膏とかの医療キットなんかが無くなってる。


「………法則がいまいち分からないな。歯ブラシとかボディタオルなんかは残ってるし、ティッシュは残ってるのに除菌シートは無くなってる。異世界に影響を与えそうな物がダメなのか、それとも不法投棄されると困るものが対象なのか……うーん」


 よく分からないけど、とりあえず体は水場を見つければ拭けるだろうし、歯ブラシも歯磨き粉が無くても磨けばするし大丈夫か?


 ふぅ……とりあえず着の身着のままにならずに済んだから良し!


「さて、とりあえずリュックサックの中身にタオルとハンカチ、スマホにボールペンとメモ帳を入れて……後はキャリーケースに突っ込む! そして……キャリーケースに向けて『簡易収納』!」


【対象に接触してください】


 ……あ、勝手に収納される訳じゃないのね。

 何となく気恥しい気分になりながらキャリーケースに手を触れて『簡易収納』と呟く。


【対象のアイテムを収納しました】


 よし、無事に収納できたみたいだ。


 ちなみに、地面に生えてる雑草に触れて『簡易収納』と呟くいてみると……。


【対象のアイテムは収納出来ません】


 収納は出来ないらしい。

 そして少しだけ考えた後で雑草を引っこ抜いてから手で掴み『簡易収納』と唱えてみると……。


【対象のアイテムを収納しました】


 収納出来た! つまり、『簡易収納』における収納対象となるアイテムはそれ単体が動かせる状態である事が条件なのかな?


 ……これって『簡易収納』じゃなくて、『収納』とかもあったりするのか? そしてそれならば触れただけで対象を収納出来るとか?


「……まあ、今は身軽に移動出来るだけでも満足だし、深く考えるのはよそう。さて、となると次は……この身に覚えのない荷物たちについてだな」


 キャリーケースは収納し、リュックサックは背負っている。俺の荷物はもう残っている筈がないわけで、今地面に置かれている荷物は一体何なのか……もしかして、転移特典みたいな物なのか?


「木製の宝箱が一つと、あとは……手紙? なんか結構な厚みが――――はぁっ!?」


 木製の宝箱はアンティークとして使えそうな鍵のついてないやつだ。両手で抱えられるくらいの大きさで、バスケットボール二つ分くらい。

 その見た目だけでファンタジー感があってテンションが上がるが、今はそれよりも驚いていることがある。


 それが、今俺が右手に持っている封筒。

 簡素でありながら上質な厚みのある白い封筒なのだが、その裏側を何の気なしに見てみたら……送り主の名前が書いてあった。


"創造神 ミムルルートより"


 えっと、これ読まないとダメなの?

 普通の手紙に見えるのに、後ろの送り主の名前が有るだけで謎の圧を感じる。

 さっきまでの異世界ファンタジーライフにワクワクとしていた俺のテンションがバンジージャンプの如く降下していった。


 ぶっちゃけすっごく不安だ。

 だって、俺は神様に会ったことも無ければ話したことすらないのにいきなり手紙が届くって……それに、この神様は間違いなく俺を異世界へと転移させた張本人……ではなく張本神? なのだから。


 目的も不明だったからなぁ……これで魔王を倒せとかだったらちょっと嫌だぞ?

 俺は勇者とか、英雄とかにはなりたくない。

 勝手に期待されて、勝手に生き方を決められて、望まないままに使命やら大義やらを背負わされる何て御免だ。


「でもなぁ……読まないと進まない気がする。それに、結局詳しい事は何も分からずじまいだし……はぁ。覚悟を決めるかぁー」


 気合を入れる為に深呼吸。

 そして裏返した封筒の接着部分を剥がし、中の便箋を取り出す。


「うわ、結構枚数あるなぁ……」


 十枚以上はある手紙。

 その多さに思わず辟易としてしまうが、その気持ちをグッと抑えて折り畳まれたその紙の束を広げてみる。


『拝啓、ごめんなさい』


 唐突な謝罪に脳がショートしそうになった。


『ごめんなさい。申し訳ないです。いや、本当にごめんなさい。まさかこんな事になるなんて思っても見ませんでした。"最凶の女神"とか"禁忌の創造神"とか呼ばれて調子に乗っていたんだなって思います』


 さりげなく恐ろしい二つ名を混ぜてくるのをやめろォォォ!!

 いや、怖いわ! 何が怖いってそんな恐ろしい二つ名のある女神様に全力で謝罪されているこの状況が怖いわ!!


『今は突然の出来事に混乱されていると思います。ですので、こうなった経緯についての説明からさせて下さい』


 そうして綴られていく文章を眺めていくと、事のあらましについて知ることが出来た。


「なるほど……つまり俺は"巻き込まれた"って感じなのか」


 原因は俺の血筋。大枝家の中に異世界へと召喚されていた人が居たこと。それがどの様な要因になるのかは想像出来ないが、俺はその召喚された人の子孫であるが故に異世界関連限定の"巻き込まれ体質"となっているらしい。うん、自分でそう結論づけては見たがなんだその体質……条件が厳しすぎる。


 だけど、実際に俺は異世界へと転移されてしまっている訳で……これは、神様も想定していなかった事態らしいのだ。


『本来であれば、転移する前に私の領域である神界で諸々の説明をするのですが……大枝様に関しては転移の直前に睡眠によって意識を手放した状態であった為、転移の際にその状態のまま魂が保護されてしまいました。

 その結果神界で説明することが叶わず、更には大枝様の存在に気づくのが遅れてしまった事で転移場所にズレが生じてしまい……本来の場所から離れた場所に転移させてしまいました。

 巻き込まれた方でありながら、正しく転移させる事が出来ず、本当に申し訳ありません』


 丁寧な言葉遣いで書かれた謝罪文。

 その相手が神様だからか、なんだか俺の方が申し訳なく感じてしまう。


 そもそもが俺の血筋が問題であった訳で、巻き込まれてしまう運命だったのだから仕方がない事だ。

 正直に言えば、地球と同じ様に生活する事は難しくなるのがちょっと面倒だなぁとは思うけど……家族に未練がある訳では無い。


 寧ろこれで地獄の習い事パレードから脱却出来たのだから、頭を地面に擦り付けるくらいには感謝をしている。まあ、スマホのネット回線が無くなってゲームが出来ないのが残念ではあるけど……それくらいは我慢しよう。習い事の無い異世界バンザイ!


 さてさて、他にも本来の転移者の目的とか達成された時の報酬とか色々書いてあったけど、それよりも先ず注目したのは職業とオリジナルスキルについての項目だ。


「何か、手違いで職業は女神様がランダムで選んでくれて、オリジナルスキルについても俺の願望を基に付与されるって書いてあったけど……女神様にもどんな職業とオリジナルスキルが付与されるか分からないって、どうやって確認すれば良いんだろ?」


 正直、転移させた目的とかは後ででいい。今すぐどうこう出来る事でもないだろうし、まずは現段階で俺が何を出来るのかを知る事の方が大切だ。


 そういう事にするから、与えられた職業とオリジナルスキルを確認する方法をプリーズ!!

 正直、オタクとしては目的や報酬よりもそっちの方が重要だ! 剣士として剣術を学ぶでもよし、魔法使いとして数多の魔法を極めるでもよし、はたまたサモナーとして魔物を使役する主になるとか……夢が広がるなぁ!!


「……っ、あった!! しかもテンプレだ!!」


 なんか、読み流してたら『心配なので、なるべく早く近くの都市へ向かって欲しい』とか『危険なスキルだった場合に備えて監視する』とか色々書いてあったけど、とにかく見つけた!!


 …………ん? なんかさらっととんでもない事が書いてあった様な……ま、いっか!


 それよりも……"ステータス"!!


「おぉ……!! 本当に念じるだけでプロフィールみたいなのが出た!!」


 そう、自分のステータスを確認するには"ステータス"と強く念じるか声にする事で見れるようになるらしい。重要なのはステータスを"見たい"と思いながらどちらかの方法を行う事なのだとか。

 ちなみにこれは殆どのスキルにおいても応用が効くらしく、試しに"アイテムを出したいので収納物を確認したい"と思いながら『簡易収納』と念じてみると……。


【『簡易収納』の内容物を表示します 。


・キャリーケース×1

▶︎内容物(非表示中)

・良くある雑草×1


取り出すアイテムを選択してください】


 と、頭の中にイメージが浮かんで来た。

 ただ、やはり収納自体は手で触れているかつ、対象が自由に動かせる事が条件の様だ。そこら辺は多分、スキルの性能によって異なるんだと思う。まあ、一々スキル名を口にしなくて済んだだけでも良しとしよう。


 うむうむ、スキルの確認はここまで!

 それじゃあ早速……ステータスの確認といこうじゃないか!


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