第5話 一日目 贅沢な悩みと、一方その頃……
「…………」
風が髪を撫でる。……以下略。
うん、ちょっと受けとめきれない現実から逃げる為に、最初から全てをやり直そうとか思ってしまった。あー……地面が冷たくて気持ちいい。
さて、どうして俺がこんなにもやさぐれてしまっているか、それを説明するためにはまずステータスについて説明する必要がある。
それではまず、ステータスが表示されると以下の項目が見るようになる事を念頭に置いておいて欲しい。
【 ステータス
名前:
年齢:
性別:
レベル:
体力:
魔力:
職業:
攻撃力:
防御力:
素早さ:
幸運:
スキル:
オリジナルスキル:
称号:】
ステータスの数値はレベルが1上がるごとに幸運以外のそれぞれが1~10の間でランダムに上がる。
レベル1の平均は体力・魔力が100、幸運が20、その他が50くらいだ。
幸運に関しては最大値が100と決まっていて、上がったり上がらなかったりと個人によって大きく変わるがステータスの一番上がりにくいと言うのがこの世界の常識のようだ。
……さて、ここまでの説明において違和感を拭いされない人も居るだろう。
何故、この世界にやって来たばかりの俺がこんなに事細かくステータスについて語ることが出来たのか?
その答えは俺のステータス……と言うか、ぶっ壊れスキルが関係していたりする。
では、先程の説明を踏まえた上で俺のステータスを見てみよう。
one two three♪(ザ・ベストほにゃらら風)
【⠀ステータス
名前 大枝大樹
年齢 17
性別 男
レベル 1
体力:200
魔力:4000
職業:『叡智の魔法使い』
攻撃力:100
防御力:100
素早さ:100
幸運:100(MAX)
スキル:『言語理解』、『簡易収納』、『魔力操作』、『魔力量増加(倍率ⅹ2)』、『範囲索敵』、『属性魔法(火、水、土、風)』、『時空間魔法』、『完全鑑定』、『魔導書』、『検索』、『状態異常耐性』
オリジナルスキル:『リゾート』
称号:異世界人(『言語理解』、『簡易収納』、『簡易鑑定』付与)、巻き込まれの転移者(おぉ、なんと言うことでしょう……)、神の不可抗力(幸運値カンスト)、ミムルルートの加護(取得経験値増加)、地球神の加護(体力、魔力の回復速度上昇)、ミムルルートの監視対象(ミムルルートがあなたを見ている……)、鋼の精神(『状態異常耐性』付与)】
はい、明らかにぶっ壊れですねコンチクショウ!!
何この"ぼくのかんがえたさいきょうすてーたす!"みたいな数値と能力は!? こんなの悪目立ちし過ぎて異世界ライフを楽しめないだろうが!!
――――「まあ、オリジナルスキルなんてチートを貰える訳だから、なるべくステータスを見せる機会は少なくして上手いこと隠しながら生きていかないとな……ふぅ、全く異世界って奴は大変だぜっ」
はい、ここ、ここテストにでまーす!!
"オリジナルスキルのみがチートだと思っていた大枝大樹がステータスを確認する前に呟いた痛いセリフは?"って問題の答えとして出マース!! めっちゃ恥ずかしいよっ!! 本気でそう思ってたから!!
いやいや、本当にどうすればいいんだこれ?
職業も能力値もスキルも称号もやばいって完全に詰んでますよね!?
まず職業、『叡智の魔法使い』。
いや、こいつね? なんか職業持ってるだけでスキルが獲得出来るんですよ……スキル欄の八割がこの職業から獲得したものなんだよね。早速貰った『完全鑑定』で調べたから間違いない。そして何よりも恐ろしいのが……この職業になっているだけで魔力量が10倍になるんだよ!? 何これ!? 明らかに魔力量だけえげつない事になってるじゃん!!
そして皆様お気づきの通り、能力値が異常な事になってます。平均なんて無視して最高値になっちゃってます! 助けてください!!
その原因となるのが……下の方にある称号です。ちなみに称号の()は『完全鑑定』を発動した状態でステータス全体を見渡したら表示されました。うん、所々イラッとする箇所があって見るのが大変だった……巻き込まれの転移者、お前のことだぞ。
ちなみに、異世界人の称号特典である『簡易鑑定』は最上位互換である『完全鑑定』を持っているからか消失していました。いや、お前ぇ……特典を消し去るとか何してくれてんだ!?(錯乱中)
「はぁ……はぁ……あー、どうしようかな、これから」
散々文句を言った後で、疲れきって芝生に寝転び空を見る。
何度でも言うが、勇者や英雄なんかになりたくは無い。
両親から意思に反した強制をされ続けた影響かもしれないが、異世界に来てまで逆らえない誰かから強制されて魔物退治とかしたくない。
自分勝手だと批判されたとしても、俺には無理だ。
と言うか、助けた結果どんどん偉い立場になったり、知らない間に何処かの貴族の女性と婚約させられたりとかしたら嫌だからな! そう言う展開は漫画や小説で何回も見た!
「巻き込まれか……と言う事は当然、本来の対象である隣のクラスの奴らも来てるって事だよな……桜崎さんは大丈夫かな?」
バスの中で親切にしてくれた隣の席の桜崎さん。名前は分からないけど、天使の様な優しさを持つお下げで可愛らしい同級生。
俺みたいにオタクだったりしたら、気持ちを切り替えて目的を果たすために動けるだろうけど……いや、女の子には厳しいか?
いくら帰る為とは言え生き物を殺すのはキツイだろう。それに、ここは異世界なんだ。日本みたいに銃刀法違反なんてものは存在しない。盗賊や人殺しが当たり前のように徘徊している可能性だってある筈だ。
うーん、何だか考えれば考える程に心配になって来たぞ?
「いっそ迎えに……って思ったけど、桜崎さんだけじゃないんだよな」
多分だが、俺だけが特殊なんだと思う。何か間に合わなかった的なことも書いてあったし、桜崎さんの方が正規の転移者なら他の奴らも同じ場所に転移した可能性が高い。
そうなると、要らぬいざこざが起こりそうなんだよな……明らかにおかしなステータス画面だし。
うーん、桜崎さん達がどこに居るかも分からないし、それに友達と一緒に居ることを望むかもしれないしなぁ。
よし、決めた。
「今はこの世界の人にも同郷の奴らにも会うのは保留にしておこう。最低でもレベル上げは必須だ。ダンジョンなんてものがある以上、強くなれるのならなっておいた方が良いだろう。欲を言えばスキルや戦闘の訓練なんかもしたい。ただ、場所がなぁ…………あっ」
そういえば、色々と予想外のステータス過ぎて――――あのスキルについて調べるのを忘れてたな?
「……ま、とりあえず宝箱や手紙なんかを『簡易収納』でしまってと。オリジナルスキルかぁ。どんな感じなんだろう?」
名前的には戦闘向きではなさそうだけど……『リゾート』を発動っ!!
♢♢♢
side桜崎まこ
あっという間の出来事だった。
体が浮いたと思ったら、眩しくは無いけど白くて強い光に私の世界が飲み込まれた。
そうして、白い世界に訪れた私が出会ったのは……可愛らしい女の子と背中に白い羽を生やしたお姉さんだった。
年齢的には中学生になりたてって雰囲気の女の子と20代前半に見えるお姉さん。だけど、何故だか二人を……特に女の子を見ていると背筋が伸びる。
失礼な事をしてはいけない。
礼儀正しくしないといけない。
敬わなければいけない。
三人しか居ない白い場所で、なんの根拠もないそんな思いがどんどんと強くなっていった。
そうして流れ作業のように、事態は淡々と進んでいく。
今日、私たちのクラスはバスの事故によって死ぬ運命にあった事。地球の女神様と目の前にいる女の子……の正体である創造神ミムルルート様との契約によって死にゆく運命だった私達の命を異世界へ転移させる事で延命させた事。私達にはまだ地球へと帰れる可能性がある事。
色々と説明をされて、その衝撃的な内容に言葉が出ないまま頷くことでしか返事が出来ず……異世界についての説明や私に付与された能力の名前を告げられると、そのまま再び強い光が私の世界を包み込んだ。
私達が転移した先は大陸の中でかなり大きな国土を持つ国の様だ。
名称はエムルヘイム王国。
大陸に存在する5大国の一つで、私達はこのエムルヘイム王国の王都にある教会に転移した。
教会の中にある中庭の中央。そこで私達は座った状態で転移させられ、そんな私達の前には自分を大司教だと名乗る法衣を纏った男の人が居た。大司教様の後方にはシスターさんと西洋の甲冑の様なものを装備している騎士の様な人の姿があり……辺りをよく見渡して見ると、私達は騎士の様な人達に囲まれていた。
その状況に体が震えてしまった。もしかしたら私達はこの人達に捕まってしまうのかな? そして奴隷として売られたりして、酷い扱いを受けてしまうのでは?
そんな最悪な展開が脳裏に過り、絶望してしまいそうになる。
だけど、そんな最悪にはならずに済んだ。
大司教様はその顔に柔らかな笑みを浮かべて私達を歓迎してくれた。
どうやら事前に教会の本部から連絡があったらしい。
「ある日、エムルヘイム王国の国王陛下から直々に呼ばれましてな。我が教会の教皇猊下が神託を賜り『異なる世界から来訪者が訪れるので、良き隣人である限りは丁重にもてなして欲しい』と告げられた様なのです。そして、その来訪者の方々がエムルヘイム王国にいらっしゃる事も……ようこそ、おいでになられました」
そうして私達に笑顔を向けてくれた大司教様の案内の下、私達は大きな木のテーブルがある会議室の様な部屋へと通され、代表として担任の
その結果……ここが間違いなく異世界であり、あの白い空間で説明された事が事実である事が判明した。
話の途中で泣き崩れたり、怒り狂ったりする人も居た。泣き崩れた女子はシスターさんが優しく別室へと誘導してくれて、怒り狂った男子はエムルヘイム王国の騎士だと大司教様に教えられた、あの外で私達を囲んでいた甲冑を装備した人達に取り押さえられて同じく別室に連れて行かれてた。
私はまだ頭がフワフワとしていて、目の前で繰り広げられている事に対する整理が追いついないせいか、泣いたり喚いたりする事は無かった。
それから、私達の今後についての話が始まり……結局、私達は明日にエムルヘイム王国にある冒険者ギルドと言う場所で身分証代わりのギルドカードを作る事になった。
この世界では成人を迎えると誰もが身分証代わりになるギルドカードを作るそうだ。
ギルドは様々な種類があり基本的には自由に選べるらしいけど、私達の目的を考えると冒険者ギルドが良いだろうと言う話になった。
登録料や細かい手続きは教会とエムルヘイム王国がやってくれるらしい。
こうして明日の予定を聞き終わり、私達はエムルヘイム王国が紹介状を書いてくれた宿屋へと向かう事となった。
どうやら丁寧におもてなししてくれるのは事実らしく、とりあえず全員が暫くは泊まれる様にしてくれるらしい。
そんな訳で、私は今宿屋の一室に置かれたベッドの一つに腰掛けている。
室内には私以外に三人の姿があり、各々が四人部屋に置かれている自分のベッドへと腰掛けていた。
部屋に居るのは扉を背にして正面、右の手前に置かれたベッドを使っている美夜子ちゃん。美夜子ちゃんの奥に置いてあるベッドには愛衣ちゃん。
そして……左側手前に置かれた私のベッドの奥に座る笹川先生だ。
「すみません。本来であれば仲の良い友人だけで過ごしたいですよね……」
「もー、だからそんなに謝らなくて良いって!」
「そうですよぉ〜、私たちは気にしませんから〜」
笹川先生はこの宿屋に部屋を取ってから終始この調子で、私達に対して謝り続けている。
それは、本来であれば私達と笹川先生の部屋は別々になる予定だったからだ。
案内された宿屋は二軒あり、どちらも大きさは大差ない様子だったので男女で別れて泊まることとなった。そしていざ宿泊するってなった時に、一人部屋に空きがない事が分かったのだ。
笹川先生は一人部屋を取るつもりだったので困ってしまい、私達以外のグループはそんな笹川先生を無視して部屋へと向かってしまう。
このまま笹川先生を放置して行くのは流石に可哀想だと思い、美夜子ちゃんと愛衣ちゃんにお願いして笹川先生を私達の部屋へと招待する事となったのだ。
それにしても……やっぱり噂は本当だったのかな?
それは、高校の私の居た二年生のクラスの中で時々聞こえて来ていた噂。
笹川先生は美人で若く、そしてスタイルも良い。だからなのかもしれないけど生徒、先生、ごく稀に独身の保護者なんかからも告白されたりアプローチを受けたりする事があった様だ。私はその現場を直接見た事は無いけど、愛衣ちゃんはたまたま笹川先生が教頭先生から言い寄られている瞬間を見てしまったらしい。
……教頭先生って50歳はいってる筈だよね? 正直、私はその話を聞いて笹川先生に同情してしまった。
もしかしたら、それが先生だけなら良かったのかもしれない。いや、本人からしたら困った話だとは思うけど……生徒からも告白されるようになって、笹川先生は徐々に女子生徒からの反感を買うようになったのだとか。
それは醜い嫉妬。笹川先生は何も悪くないのに、自分が好きな相手が笹川先生に告白したからと言う身勝手な言い分。
しかし、その感情が共感を得て集団になると、途端に事態は大きくなる。
そんな理不尽な負感情のせいで、笹川先生はクラスの……ううん、学校に居る殆どの女子生徒から小さな嫌がらせをされ続けていた。
話してみれば分かる。笹川先生は優しくて、親切で、他人を思いやれる良い人だ。
さっきだって、別に笹川先生が代表として話さなくてもいいのに、その顔を青くしながらも一生懸命に大司教様と話をしてくれていた。
「……笹川先生。私達は本当に気にしてませんから。寧ろ、いつも優しく声を掛けてくれてた笹川先生が一緒で嬉しいです」
「桜崎さん……ありがとう」
嬉しいのは本当だ。
例え他の人達が笹川先生を嫌っていても、私にとってはいつも親身になって話をしてくれる優しい先生だから。
目を潤ませた笹川先生に、私は笑みを浮かべて見せる。そして泣きそうになっている笹川先生を見て美夜子ちゃんが「泣くなよーっ」と傍に駆け寄り、一緒に駆け寄っていた愛衣ちゃんが「折角の美人さんが台無しですよ〜?」と背中を摩っていた。
凄く不安で、悲しくて、どうすればいいのかも分からなかったけど……私にはこんなにも素敵な友人と先生が居る。
死の運命を覆す為の異世界転移。
その目標は……この世界に存在する未踏破の高難易度ダンジョンを攻略すること。
期日は今日を含めて三年。
私は、みんなと一緒にこの試練を乗り越えてみせる!
………………あれ、そう言えば大枝くんは?
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