第3話 一日目 グッバイ、牧場。
「お願い……」
なんだ?
眠いから、出来れば声をかけないで欲しい。
「起きてぇ――起きてよぅ――時間が無いんだってぇ――!!」
聞いた事のない声だ。
幼さがあり、甘く響く声音。でも、何か泣いているようにも聞こえる……眠い。
「ちょっ、なんで起きないの!? 嘘でしょ!?」
「ミム――様。どうやら、直前の――がそのまま引き継がれているのでは?」
「えぇっ!?」
なんか、騒がしい?
一人か思ったらもう一人居るのか?
「ちょっ、本当に時間がぁ――仕方ない、こうなったら全部おまかせだァ!!」
「えっ!? ミ、ミム――」
「しょうがないじゃん!! 詳しい説明は後でにして、今はこの子を転――」
なんか、ヤケクソ気味に叫ぶ声と凄い慌ててる様な声が……嗚呼、それにしても眠い。
やっぱり、俺って疲れてたのかな?
親が勝手に入れまくった習い事。それは、俺の意思に関係なく詰め込まれ、少しでも文句を言えば怒鳴られた。
唯一の逃げ道はスマホに入れてたゲームとアニメや漫画だけ。習い事で時間が取れず睡眠を削って娯楽を楽しんでた。それくらいしかストレスを発散させる事も出来なくて、娯楽を取り上げられてたら……俺は多分、壊れていたと思う。
出来ることなら、習い事とか両親の事とか全部忘れて『この壊れかけた心が癒されるくらい、ゆっくり休みたい』。
――――該当するスキルが存在しません。
――――創造神 ミムルルートの命令を受諾。
――――大枝大樹の願いをスキルとして具現化させます。
♢♢♢
side???
いつの間にか居た少年をミムルルート様が調べ始めました。そして分かったのは……少年が、不運な巻き込まれであると言う事実。
「……非常に珍しい事だけど、この子の何代か前の縁者が他の世界に召喚された事があるみたいだね。記憶処理を施された当人は何も覚えておらず、そのまま普通に結婚して家庭を持ち、またその子供が結婚して子を持ち……その繰り返しの先で、隔世遺伝的に世界を飛び越えられる資質をこの子が持ち合わせてしまったのか」
……凄く真面目な口調でお話されていますが、ミムルルート様の表情はそれはもう歪んでいて、その瞳には涙が浮かんでいます。
そうですね……折角終わったと思っていた仕事が、トラブルという形で残っていたなんて泣きたくもなります。
「……地球の女神様へご連絡なされますか?」
「そうしたいんだけど……世界転移の術式は時間制限があるから、この子を一先ず起こして色々と説明してから私の世界に送るのが先かな。正直、今地球に返したら生還する筈だった運命が死へと覆る可能性もあるし」
そうして、ミムルルート様は限られた時間の中で少しでも巻き込まれた少年への説明をと思い肩を揺すり出したのですが……全く起きませんね、この子。
最初は優しく触れて驚かないように柔らかい声音で起こそうとしていましたが、少年は全く起きません。
そしてとうとうミムルルート様が泣いちゃいました。
「起きてぇ……起きてよぅ…時間が無いんだってぇ……!!」
それはもう子供の様に両手でめいいっぱいに少年の体を揺すりますが、全く起きる気配はありません。
ふむ……もしかすると……。
「ミムルルート様、どうやら直前の状態……つまり、眠ったままこちらに来た場合は睡眠状態がそのまま引き継がれているのでは?」
「えぇっ!?」
私の推察にはなりますが、恐らくはそうではないかと判断しました。
そして困惑したまま少年の事をじっと観察し始めたミムルルート様は、しばらくすると盛大な溜め息と共に「マジだった……」と呟いたのです。
そして何とか眠りから目を覚まさせる方法はないかと模索しますが……刻々と迫るタイムリミットとトラブルによるパニックに陥っている状態では解決策を見出すことが出来ず、更に焦り出してしまうミムルルート様。
「ちょっ、本当に時間がぁ……うぅ……もう、仕方ない、こうなったら全部おまかせだァ!!」
「えっ!? ミ、ミムルルート様、正気ですか!?」
パニックからのヤケを起こし、ミムルルート様が出した結論はとんでもないものでした。
「しょうがないじゃん!! 詳しい説明は後でにして、今はこの子を転移させる事だけに専念!! 職業ランダム付与! オリジナルスキルは願望を基にお任せ付与! それと他の子達と同じく共通のスキルを付与して……ってやば、間に合わないかも!?」
しかし、私が制止するよりも早くミムルルート様が職業とオリジナルスキルの付与を終えてしまいます。
そして座標の指定をしないままに転移を……っ!?
「ミムルルート様! 座標、座標!!」
「ああああああああぁぁぁ!! 急げ急げ急げ急げ急げ急げ急げ急げぇぇぇぇ!!」
そうして慌ただしく少年を送り出し、騒がしかった空間は一気に静けさを取り戻しました。
それにしても……。
「……無事に送り届けられたのでしょうか?」
「……ちょっとズレちゃったかも」
「……それと、職業とオリジナルスキルの事なのですが」
私がそう口にすると、ミムルルート様は一瞬だけ肩をビクリと跳ねさせました。
どうやら、ご自身がやらかしてしまっている事を理解してはいるようですね。
「いや、でも、あれは急いでたしぃ……ほ、ほら! 職業だってちゃんとランダムにしておいたでしょ!?」
「……えぇ、確かにランダムでしたね?」
「ねっ? 私だって、ちゃんと考えて――「ランダムでしたけど、あれは付与される対象の資質は当然ながら決定権を行使した人物の運命値も結果に影響を与えるんですよ?」…………あっ」
「あっ」て言いましたね。恐らく細かい事は忘れていたんでしょう。お仕事をする際にミムルルート様によく見られる傾向です。
と、言うことは……オリジナルスキルに関しても忘れていらっしゃるのでしょうか?
「ミムルルート様。オリジナルスキルに関してですが……」
「いや、それに関しては申し訳ないと思ってる……ます。で、でもね? 願望を基にって言ったけど悪事に使えそうな既存のスキルには全部プロテクトを掛けてるから大丈夫だよっ!」
自信満々なんでしょうね。
それはミムルルート様が特に気にしていた事ですから。現にこれまで転移させた26人に関しては、徹底的に調べていました。
まあ、どれだけ未然に防いでもその力を悪事に使われること自体は防げませんが……それでも、強力なスキルを悪事に使われるのだけは避けたいと言うのがミムルルート様の願いです。
オリジナルスキルはそのどれもが優れた力を持ってはいますが、だからこそ厳しい審査と強固な規制が掛けられているスキルでもあります。
ミムルルート様が直接与える以外の取得条件は非常に厳しく、当人すら理解していない本性を見定め与えるに相応しい人物かどうかを決めています。
それくらい、オリジナルスキルに関する制限は厳しいものなのです。ですからミムルルート様も自信満々に腰に両手を当てたりなんかしちゃってるんでしょうけど……あなた、やらかしてますからね?
「……ミムルルート様」
「ん〜?」
「ご自身が、少年にオリジナルスキルを与える時に仰った事を覚えておられますか?」
「んん? えっと、確か……オリジナルスキルは願望を基にお任せ付……与……が、願望を基に…………お、お任せ……おま、おまおまおまおまかせぇぇぇぇ!?」
……そう、そうなんです。
きっと焦っておられたのでしょう。その所為で"既存の物の中から"と言うワードが抜けていたのです。
『オリジナルスキルは願望を基にお任せ付与』
『オリジナルスキルは願望を基に既存の物の中からお任せ付与』
この二つは似ているようで、その実……全く異なる結果を生み出します。
「ど、どどどどどどうすれば……!? 新しいスキルがぁ……うわあぁぁぁぁ!?!?」
その事実に気づいたミムルルート様が壊れていらっしゃいますが……果てさて、かの少年はどのようなオリジナルスキルを手にしたのでしょうか?
存在する中で強力なスキルか。
それとも――世界が任されるがままに新たなオリジナルスキルを生み出すのか。
「か、監視するしかないか……最悪、その存在ごと……いやいやダメだ、地球の女神との約束で地球から譲り受けた子達を無下に扱わないって言っちゃったから……」
ミムルルート様が正気に戻るまで、まだまだ時間が掛かりそうですね?
とりあえず、かの少年のトラブルに関しては私の方から地球の女神様へお伝えしておきましょう。
連絡が遅れた事で、何か問題があってはまずいですからね。
♢♢♢
風が髪を撫でる。
そして暖かくはあるが汗ばむ程ではない気温を感じて……右頬が冷たい?
「――――牧場?」
目を擦る。
そして周囲を観察してみる。
陽の光は射していたが、それは太陽が真上にあるから。
太陽に異常は……なんか、若干おっきい?
普段の太陽が百円玉サイズだとすると、今真上に昇る太陽は十円玉サイズって感じだ。だから俺の気の所為だって言う可能性もある。それくらいに微妙な違和感。
そして周囲は……見渡す限りの森。
樹海みたいに密集している訳ではなさそう? だから陽の光が射すし周囲も明るい。
下は芝生。手入れされてる訳じゃないか疎らだけど、見渡す限りの地面は殆どが緑色だ。
……え、バスから捨てられた?
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