第65.5話 SS 余すことなく……受け止めて?





 side シェリルノート





 オーエンとリリィの再会を見た時、私は羨ましいと思った。


 それは一途な想いに? 信じ抜く心に? 陰ながら支えるというその覚悟に?


 ……いや、違う。

 そんな難しい考えじゃない。


 私が羨んでいたのは単純な事……微笑み合う2人の関係性が、ただただ羨ましかった。


 私は多分、長い人生の中で初めての恋をしている。


 相手は……創造神様を恋人にしている様な凄い人。


 でも、本人はそんな立場にあるのに驕る事無く目立つのが苦手な優しい人。


『俺はただ、仲良くなった人が悲しむ姿が見たくないだけ。今までの人生で、仲の良い人なんて数える程しか居なかったから。その僅かな繋がりを大切にしたいんだ』


 本当に……優しい人。

 私達の事なんて、受け入れなくても良かったのに。


『地球に居た頃は嫌な人達から色々とやる事を詰め込まれて……疲れる事が億劫で一人でいる事が多かったんだけど、"リゾート"に来てからは考え方が変わったんだ。リディ達に料理を振舞ったり、一緒に遊んだり、買い物をしたり……疲れるには疲れるけどなんかこう、楽しい疲れなんだよ。だから、今の生活はとても楽しいよ。まあ、まだ賑やかなのには全然なれないけど』


 そう言って、私に笑顔を向けてくれた素敵な人。


 なにより……私の素顔を見ても変わらず接してくれた、大切な人。


 私は彼が好き。

 私の全てを受け入れてくれた彼が大好き。


 これが初恋。

 彼の事を考えるだけで胸がドキドキする。


 だから私は……この想いが成就するまで、彼の名前を呼ばないと決めていた。


 それはエルフ族の女性のみに伝わる願掛けの様なもの。

 好きな相手が出来たエルフ族の女性は、その瞬間から本人の前で名前を呼ばなくなる。


 次に名前を呼ぶのは…………意中の相手とそういう事を、その…………うぅ。


 あ、あくまでエルフ族の女性の間だけで広がってる風習だけど……私のお母さんはその風習を信じて願掛けをした結果――――お父さんと結ばれた。


 その話を嬉しそうに話すお母さんを見て、私もいつか願掛けをするくらい好きになれる相手が出来たらなって思ってた。


 ……そしてそんな私の思いは現実となり、今まさに願掛けを行っている最中。


 エルフ族の女性は行動が早い。

 刺激に飢えているというのもあるけど、種族的に人口が少ないから伴侶を決めるのは争奪戦になるから。

 お母さんも何十人もいる相手の中から選んで貰えるように頑張ったって言ってた。


 だから私も今日……頑張って見ることにしたの。


 自由時間になって、彼が屋上で休んでいるのは見てた。


 そのチャンスを逃したくない。

 何とかアリシア達から離れて、彼の恋人であるリディ様達に相談をしようと思っていたら…………マコ達にお洒落を教えて貰うことになった?


 このホテルの4階でたまたまマコ、キサラギ、モノノベの3人と会い、綺麗な洋服を見ていた私に話し掛けてくれたので私は自分の気持ちを伝えた。


 マコの彼に対する気持ちについては何となくわかっていたので、私の気持ちも伝えないと不公平だと思ったから。


 どんな反応が返ってくるのか分からなくて怖かったけど、マコは苦笑を浮かべた後で「応援する」と言ってくれた。でもその後直ぐに顔を赤らめながら「私もね、ちゃんと伝えるつもりだから」と言っていたから、私も「応援してる」と返して、2人で笑いあった。


 そして私がお洒落に全く詳しくないと知った3人が色々と教えてくれて、私は3人に言われるがままに着替えて髪の毛もいじってもらった。


「「「か、可愛い……!!」」」


 縦に長い鏡に映る自分を見て、私もびっくりした。

 普段は動きやすさを重視した冒険者装備が基本。黒いタイツに丈の短いズボン、厚手の汚れてもいい長袖シャツに革のベストを着てその上から身体を隠すようにローブを纏っていた。


 私は素顔を見られたくなかったから、それが基本装備。


 だから鏡の前に映る自分を見て驚いた。

 まるで、物語に登場するお姫様みたいって思えたから……。


 でも、こうしてお洒落をしても私はある事が気になっていて素直に喜べないでいた。


 そんな気持ちを悟られたくなくて、私は綺麗にしてくれた3人にお礼を言ってから……そっと彼に初めて素顔を見られたあの展望台の中へと移動した。


「…………綺麗にしてもらった。自分でもびっくりするくらいに可愛く……なれたと思う」


 でも、私は自分の身体に自信をもてなかった。


 私は先祖返りによって半精霊になっている。その所為で、他の人よりも身体的成長が遅い。

 一応、子供を作れる様にはなっているけど……胸も大きくないし背も小さい。


「…………こんな私を、彼は愛してくれるかな?」


 ガラス張りの壁の向こうに、サンベッドというものの上で横になっている彼を見ながら……私はそんな不安に襲われていた。


 でも、そんな私の背中を押してくれる人達がいた。


「――大丈夫ですよ、大樹様ならきっと受け入れてくれる筈です」

「――うんうん! シェリルノートちゃんとほぼ同じ体格の私だって恋人になれたんだから大丈夫っ!」

「――ご安心を。現在屋上には誰も来られないようにしていますので。ですので……思う存分、ますたーに想いを伝えて来てください」

「「「私達は貴女を歓迎しますよ(するよ!)」」」


 彼の恋人達に背中を押されて、私は勇気を出すことにした。

 特に……ミムルルート様の言葉は私の心を軽くしてくれた。


 ……ん、いつまでもクヨクヨするのはやめる。



「………………私の好きを全部、余すことなく受け止めて?」






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