第30話 十四日目 俺に説明は無理なので、まずは自己紹介を。
草原地帯から転移して、俺達は"リゾート"の北エリア――通称"異世界エリア"へとやって来た。
現在居るのは異世界エリアの中央。
ここは噴水広場になっており、ポイントを支払えば自動で商品が出てくる屋台が道を邪魔しない程度に設置され東西南北には真っ直ぐ続く大通りが一本伸びている。
メインである噴水は結構大きく、一時間に一度水圧を利用した噴水ショーが見れるようになってるらしい。まるでテーマパークだな。
地面は基本石造り。
建物は木造だったり石造りだったりレンガ造りだったり様々だが、マンションや高層ビルといった建物は一つもない。あくまでもコンセプトは地球ではなく異世界という事なんだろう。
さて、そろそろいいかな?
「はーい、ちゅうもーく!」
『っ!?』
放心状態だった全員に対して聞こえるように声を張り呼びかけると、全員が無事我に返りこちらを向いてくれた。
「まず、ここは俺のスキルである『リゾート』の中です。分かりやすく説明すると、この空間は時間軸はレオニスさん達の世界と同じで俺が許可した人しか入れない異世界って感じです。驚くのは無理ないけど、安全は保証しますのでまずは自己紹介をしましょう」
はい、そこ! 全員でジト目しない!
俺だってもっと説明したいけど、そう言うのはリディに任せてたから分からないんだよ!
北エリアだって今日初めて来たんだから。俺に説明を求められても困るんだ。
その後もジト目を向けてくる面々をスルーして俺から自己紹介を始める。あ、ちゃんとフードはとったよ?
そうして俺の自己紹介が終わる頃には全員が諦めた様な溜息をつきつつ、自己紹介をしてくれる。
「俺はレオニスだ」
「私はアルムニア、レオニスの恋人よ」
「僕はジール」
「そして私がジールの恋人のレイミーと言います」
この四人は幼馴染みらしい。全員が22歳で成人を迎えて直ぐに四人で冒険者になった様だ。そして冒険者パーティ"炎天の剣"は元々この四人から始まったのだとか。
……何その名前、超かっこいい!!
名前の由来はレオニスさんが持っている大剣が元となっているらしい。見せてくれたけど、見た目は赤みをおびた普通の大剣。だが、魔力を通して構えると炎が揺らめく真紅の大剣へと姿を変えた!
良いなぁ……俺も大剣とか装備しようかな?
「いや、お前さん魔法職なんだろ?」
「近接戦闘も大好きです!!」
寧ろ異世界に来る前はそればっかりやって来たから、やっぱり武器は欲しいと思った。
まあ、流石に大剣は俺もないとは思うけど片手剣位は頼もうかな?
そうしてレオニスさん達と話した後は、後から仲間になっという"炎天の剣"のメンバーの紹介となる。
「初めましてですわ。私はアリシア・リーブリース。一応伯爵家の三女ではありますが、既に家を出た身ですので気軽にアリシアとお呼びください」
「ノア・レミルトンと申します。男爵家の四女ですが、アリシアお嬢様と同様に既に家を出ていますのでノアとお呼びください」
この二人は17歳で学年で言えば俺達と同じである。貴族令嬢だと知ってからは敬語で話していたのだが……なんか、こっちが困るくらいにやめてくれと言ってきた。
「創造神様の寵愛を受けておられる御方に敬われるのはちょっと……。歳も同じなんですから、敬語も敬称も不要ですわ」
「アリシアお嬢様の言う通りです。それに、私はアリシアお嬢様のメイドですのでっ」
「いえ、それに関してはお断りしているのですが……」
という事らしい。
あー、ノアは貴族令嬢なのに何でメイド服を着てるんだろうと思ってたけど……押し掛けメイドだったのか。アリシアが凄く困った顔をしている。
創造神様の寵愛って……ミムルの事だよな?なんでバレたんだろ?
とりあえず曖昧な笑みを浮かべておいた。後で紹介する事にはなるんだろうけど……今はまだいいだろう。絶対大騒ぎになる。
そして、アリシア達の話を聞いていたレオニスさん達に関しても敬称も敬語も不要だと言われてしまった。年上だし敬語が普通だと思うんだけどなあ……。
"炎天の剣"の自己紹介で残っている二人のうち一人は既に知っている。小さな魔法使いにして、古代エルフの末裔のお姫様――シェリルノート・メルジュ・オグマリオスだ。
「……ん、シェリルノート。聞きたいことがいっぱいあるけど、とりあえずよろしく」
どうやら名前しか名乗るつもりは無いようだ。やっぱり仲間達にも自分の出自は秘密にしているのだろうか?
相変わらず目深にフードをかぶっているので素顔は見えないが……古代エルフをモデルにしたホムンクルスがウチには居るからなぁ。可愛いのは目に見えている。
そんなシェリルと代わるように前へ出てきたのは……可愛らしいシロトラさんだった。
「がうーっ! ニナだよー! 虎人族の族長の娘だけど、嫌いな人と結婚させられそうになったから逃げて来たの〜! そしたらねー、アリシアが拾ってくれてね〜……」
嬉しそうに身振り手振りをしながら話すニナはどうやらまだ15歳の女の子らしい。獣人の中でも速度を活かした戦闘が得意な種族で、ニナは虎人族の中でも稀に産まれる希少種なのだとか。今は耳や尻尾くらいしか獣人らしい特徴はないが、『獣化』というスキルを使うと半獣と獣の姿のどちらかを選択し変身できるようだ。
白に黒が混じった虎模様の尻尾がぴょこぴょこ動いて可愛い。そして柔らかそうな白に黒のメッシュが入った髪……の上についてる耳も良い!! もふもふしたい。
という感じで、"炎天の剣"のメンバーの自己紹介は終わりとなる。中々に個性的ではあるけど、Bランクの冒険者として活躍する有名人らしい。ダンジョンについて実際に潜った事のある人の意見は大事だし、親睦を深めていってその辺りを聞いてみるのもいいかもしれないな。
さて、お次は転移者組なんだけど……見た事ある奴らがチラホラ居るな。
「私と美夜子ちゃんに関しては大丈夫だよね? という訳で、私と美夜子ちゃんのパーティーメンバーから紹介するね?」
そう言う桜崎さんの後ろから二人の人物が前へと進む。
一人は制服を着ていて、もう一人はビジネススーツを着ている。二人とも女性の様だ。
「えっと、こうして話すのは初めてだね〜? まこちゃんと美夜子ちゃんの友達の物部愛衣だよ〜」
「2年3組の副担任をしていた笹川栞です。大枝くんが元気そうで安心しました……」
物部さんは物腰柔らかそうなほんわかした感じの女の子。にへらと笑みを浮かべながらこっちに小さく手を振っていた。
そして隣のクラスの副担任らしい笹川先生は、優しげに微笑みながら俺を見つめる。こんな美人な先生がウチの高校に居たのか……全く気づかなかった。
そして――デカい!!
なるべく視線がそちらにいかないようにしたのでバレていないとは思うけど、二人とも立派なものをお持ちのようだ。特に物部さんは小柄だからその大きな胸が目立つ。マルティシアより大きな胸が手を振る度にプルンプルンと…………いや、見ちゃダメだ!! 我慢、我慢だぞぉ……っ。
そうして二人の紹介が終わったところで、桜崎さん達と代わるように6人が前に出てくる。
「私は楽街千夜です。覚えていらっしゃるかは分かりませんが、一年の頃は助かりました」
「真壁紗帆だ。千夜から襲われそうになった所を助けて貰ったと聞いた……友人を助けてくれた事、心より感謝する」
まさに大和撫子と言った容姿をした少女が楽街さん。そんな楽街さんを助けた事に関して頭を下げて来た律儀な人が真壁さん。……うん、もうラクマチとか言って間違えないようにちゃんと覚えておかないと。
「お、沖田涼です……わ、私も襲われそうな所を助けて貰って……その……」
「あー、ごめんね? この子、極度の人見知りで特に男の子に免疫がないんだ。私は涼の友達で三山陽菜って言います。よろしくね?」
バスの中で話した時の桜崎さんよりもおどおどとしている猫背気味な子が沖田さん。そして落ち着きのない沖田さんのフォローをしているのが三山さん。
あー、沖田さんは覚えてるな。
変質者を捕まえて男の警察官がパトカーで来た時に、なんか背中にずっと引っ付いて離れなかった子だ。あれって男が怖かったからなのか……俺も男なんだが? 大人よりも同い年の子供の方がマシと思ったのかな。
そんな感じに淡々と自己紹介が済み、とうとう最後の二人の番が来た。
……男女で腕を組んでるって事は、カップルか。
「どもー、私は佐野雨月。こっちに居るのは冴木迅くんって言って……私の彼氏でーす!!」
「いや、雨月ちゃん……その自己紹介はあんまりなんじゃ……」
彼女の自己紹介を聞いて困った顔をする冴木くん……いや、冴木。男にくんは要らないな。特に惚気話を自然にしてくるような貴様には要らん!!
冴木の困っていながらもどことなく嬉しそうな表情を見て、俺は過去に冴木から聞かされた惚気話を思い出し……ちょっとだけイラッときていた。
「あー、佐野さんの事は彼氏くんから嫌という程自慢されたからよ〜〜く知ってますよ〜?」
「ちょっ!? お、大枝くん!?」
「へぇ〜? 迅くんが私の自慢をしてたんだ〜? 私を直接褒めてくる事なんて滅多にない迅くんがねぇ〜?」
ほほぅ? もしや冴木は彼女には恥ずかしがって何も言わないタイプの人間なのか?
いかんなー、好きな相手にはちゃんと思いを伝えないとー(棒読み)。
「あ、いや、僕は別に自慢なんてしてな――」
「いやいや、何をおっしゃいますか〜。俺の前で散々『僕の恋人って……すっごく可愛いんだ』だの、『歌う姿はかっこよくて、あんな姿を見せられたら……惚れ直しちゃうよ』だの、『本人の前では言えないけど、僕は彼女なしでは生きていけないと思う』だの……散々惚気けてくれやがりましたよね〜?」
「根に持ってたんだ!? 大枝くんって結構根に持つタイプなんだね!? あの当時も『爆発しろ』とか言って来てたし!?」
はんっ! あんな長時間に渡る惚気話を天然でしてくるお前に爆発しろと言って何が悪い!?
まあ、当時は恋人どころか友達すら居なくて寂しい青春を送ってたので、ちょっと当たりが強くなっているのは認める……今は順風満帆なので、単なる嫌がらせだけどな!!
そして、そんな彼氏の心境を初めて聞いたであろう彼女である佐野さんはと言うと……。
「…………迅く〜ん♡」
「うわっ!? ちょ、雨月ちゃん!? ここ、人がいっぱい居るから! 一旦落ち着いて……」
「も〜! 私の事をそんなに想ってくれてたなんて知らなかったよ〜。もちろん、私も同じ気持ちだよ? なんなら、今すぐにホテル……はこの世界には無いから駆け込み宿に行ってこの気持ちを確かめ合うことだって吝かじゃ――んぐっ」
「ちょーーっと待とうか!? いま、恥ずかしいなんてものじゃないレベルの発言をしようとしたでしょ!? ほら、周りの目とか気にしよう? ちょっとだけみんなが離れて行ってる事に気づいてね!?」
……どうやら開けてはいけないパンドラの箱を開いてしまった様だ。
佐野さんは顔を上気させて冴木へと抱きつき今は頬擦りをしている。そして、色々と危ない発言をその瞳にハートを作らんばかりの勢いで話す佐野さんは……今まさに愛に生きているって感じだ。同じ転移者組はおろか、レオニスさんら異世界組までもが二人から遠ざかり始めている。
うん、俺もちょっとだけ離れておこうかな?
あ、桜崎さん……隣が空いてる? それじゃあお邪魔して……いやぁ、高校生同士ってあんな感じなんだね?
「おーい、大枝くーん!? なに自分まで無関係って顔して離れてるのさ!? この状況を作った元凶だよね!? 桜崎さんと談笑してないで助けてよ!」
「……宿屋、紹介しようか?」
「そういう方向で助けを求めたんじゃなーーい!!」
俺の心優しい気遣いに対して、冴木は佐野さんにグイグイと迫られて泣きそうになりながらそう叫んだ。
こうして、なんだが締まらない形で自己紹介は終わりを迎える。
この後に俺……三人も恋人を紹介するのか?
一応、異世界は一夫多妻が認められてはいるけど……同郷のみんなに紹介するのはなんか気まずいんだが!?
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