第二話 いきなり追放
レイヴァンスのいる国は、大昔に世界を救ったとされる光の勇者の伝説が数多く残されている。
勇者が手にしていたという伝説の剣を
ゆえに神聖な国として、諸外国からは聖王都と呼ばれているのだけど。
それにしても、聖王都の城ってこんなにデカかったのか。
ゲームだと伝わらないもんだ。やはり生はすごいな。
眼前にそびえたつ城壁を見上げ、緊張感がさらに高まる。
ついにこの日が来たのだ。
門番の兵士に招待状を見せると、一人の兵士が城内へと案内してくれた。
謁見の間にたどり着くと、王族の家臣であろう人たちが部屋を取り囲むようにして立っていた。
部屋の中央では、勇者候補らしき三人の若者が談笑している。
前世にやっていたゲームなので十六年以上前にはなるが、三人の若者の顔はかなり鮮明に覚えていた。
のちに剣を抜いて勇者の称号を手にする、光属性を有した王族の第一皇子。
イグニス家の長男であり、剣術が得意な火属性の剣士。
エンブリオ家の長男であり、回復やサポートの魔法が得意な水属性の魔術師。
彼ら三人はエピックファンタジアにおける主人公たちだ。
そしてこの三人に俺が加わった四人が、ゲームの初期パーティーとなる。
俺が彼らと会うのは、これが初めてだった。
しかし、なんだろう。
彼らを見た瞬間、他の人には感じることのない、不思議な何かを感じた。
なんかこう、電磁波といえばいいのだろうか。
そんなものを彼らから感じるのだ。
当の彼らは俺に目を向けて、ひそひそと何かしらつぶやき合っていた。
三人はここに集まる前から、すでに知り合いになっていたのだろうか。そのような設定はなかった気がするけど。
見た感じ仲が良さそうだし、今日初めて出会った者同士とは思えない。
そんな中に新たなメンバーとして俺が来ているものだから、ちょっと戸惑っているのかもしれないな。
とにかく不思議な感覚は置いといて、これから彼らと仲良くなっていかなければ。
それが破滅フラグを回避するために課せられた、俺にとっての最初の試練なのだ。
「有能なる若者よ。よくぞ集まってくれた!」
謁見の間に王様が現れ、場の緊張感が高まる。
俺を含めた勇者候補の四人が、王様に向かってひざまずく。
「まず我が息子であり、光属性の皇子ユウダイ」
ユウダイ?
どことなく前世に俺が住んでいた、日本という国にいそうな名前だな。
実のところ、この三人の名前は現時点まで不明だった。
なぜなら彼ら三人の主人公たちの名前は、俺と違ってプレイヤーが自由に決めることになっていたからだ。
一応、デフォルトで決められた名前もあり、プレイヤーが決めなければそちらが適用されることになる。
しかしデフォルトのままなら、マリス、レオンハート、シャナンという名前のはずだ。
「イグニス家の長男。火属性の剣士ダイキ」
まただ。
まるで日本の子供が、ゲームのプレイヤーに自分と友達の名前を付けているみたいじゃないか。
「エンブリオ家の長男。水属性の魔術師タクヤ」
三人目の名前まで聞いたとき、俺は背筋に悪寒のようなものが走った。
「そして最後。モーティス家の長男にして、闇属性の魔術師レイヴァンス」
王様が俺の属性を口にした瞬間、やはり場がざわついた。
「モーティス? 闇属性だと?」
「まあ、恐ろしい……」
「あのような者が勇者の儀式に?」
「王もいったい何をお考えなのか……息子に闇属性の者と旅をさせるおつもりか」
ゲームでもそうだったんだよな。
やっぱりひどい言われよう。
モーティス家だって、国を裏で支えてきたはずなんだけどな。
その功績を認めてくれたからこそ、こうして勇者の儀式にも参加させてもらえたというのに。
闇属性による魔法は、まず見た目が良くない。
色もどす黒いし、禍々しいものも多い。
そのうえ魔族が使う魔法とも、いろいろな面で酷似しているのだ。
おかげさまで代々闇属性を受け継いでいるモーティス家は、必然的に世間から冷遇されてきたというわけ。
でも想定内だ。
俺の未来のためにも、ここで腐ってはいけない。
「父上! 俺は闇属性のやつと旅をするなんて、聞いていません。こんなやつと行動を共にするなど、我らパーティーの評判を落とすだけです」
ユウダイが立ち上がって、王に異議を申し立てる。
おかしい。
エピックファンタジアの主人公であり、のちに勇者として選ばれる光の皇子は、正義感が強くて優しい男だったはず。
闇属性だからといって、差別的な態度は絶対にとらない青年だったのに。
その彼がいきなり、こんなことを言い出すなんて。
「そりゃそうだよな」
「何せ闇属性の一族だぞ」
「皇子たちが可愛そう……」
ユウダイの言葉につられて、周囲の家臣や兵士たちまでもが口々にそんなことをつぶやきだした。
「うむ……そうか。お主がそういうのなら、仕方あるまい」
俺を招待してくれたはずの王様までもが、皇子に同調しだしている。
「おい、レイヴァンス。てめぇがいると、俺たちまで変な目で見られるじゃねえか。さっさと出て行けよ!」
俺のほうを振り返り、ユウダイが罵倒した。
その両脇で、ダイキとタクヤが顔をニヤつかせている。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! そんな、いきなり追放だなんて……冗談でしょ」
「あ? 聞こえなかったのか? どうせおまえなんて、すぐに抜けるんだからよ。さっさと出ていって、さっさと闇落ちしてろや」
今、なんて言った?
なぜ闇落ちしろ、なんて言えるんだ?
どういうことだ?
闇属性だから、いずれ闇落ちする運命だと言いたいのか?
それとも、まさか。
先のストーリー展開を知っている?
困惑している俺に、ユウダイが近づいてきた。
そして、耳元でつぶやく。
「おまえ、転生者だろ。転生者同士はな、分かるんだ。なんかこう、感覚でな。おまえも俺たちに感じてるだろ?」
まさか皇子も。
そしてその後ろにいるダイキとタクヤも?
いや、まてよ。
名前を聞いたとき、すごく嫌な気がした。聞き覚えのある名前だったからだ。
ユウダイとダイキとタクヤ。
この三人は前世で俺をいじめていたやつらと、同じ名前なのだ。
「おまえ、前世の名はなんだ? なぁんか顔見てると、いじめたくなるんだよなあ。まあ俺らのパシリとストレス発散役になってくれるんなら、追放は無しにしてやってもいいぜ」
その言葉を聞いた瞬間、俺は無意識的に謁見の間から飛び出した。
そのまま城の出口に向かって走る。
まるで昨日のことのように前世の記憶がよみがえってきて、その場から逃げ出さずにはいられなかった。
そんな俺を止める者など、誰もいなかった。温情で闇属性のモーティス家に招待状を送りつけたはずの王様さえも。
ていうか、呼び出しといて皇子のわがままに「仕方ない」とか、あり得ないだろ!
そういえば王様は、皇子に対して過保護な一面があった。
ゲームでは素直で優しい皇子だったから、父親である王様にわがままを言うこともなかった。差別的な発言もなかった。
しかし、もしゲーム通りの人物ではないとしたら?
中身があのユウダイなら。前世で俺をいじめぬいていた、
王にわがまま言いたい放題。権力を振りかざして、すべてを思い通りにしようとしてくるはずだ。
気に入らないやつ、自分に不利益なやつは容赦なく切り捨てるはずだ。
くそ!
なんでこうなるんだよ!
この世界ではいい人生を送ろうと、必死にがんばって修行してきたのに!
まさかあの三人まで、しかも主人公の三人として転生してくるなんて!
俺は無我夢中で走った。
城を飛び出し城下町を抜け、いつの間にか森の中まで来ていた。
こうして俺は、初期メンバーと出会って一時間もたたず、パーティーを追放された。
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