第八話 ユウダイたちが来た!

 そういえば試練の洞窟から帰ってくるのも、このくらいの時間だったかも。


「あの女、聖女じゃね?」

「お、ホントだ! ジジババしかいなさそうなクソ田舎だけに、美少女がバエるわぁ」


 そんなことを言いながら、勇者三人組がこちらに向かって歩いてくる。

 三人はそのまま俺を無視して、素通りした。眼中にないといった感じだ。


「おお! 生で見たら、マジかわいいじゃん」

「な、なんですか、あなたたち!」

「聖女ちゃん、これからよろしくぅ」

「ついでに夜も楽しいことしようよ。旅は楽しまなくちゃね」

「や、やめてください!」


 安いナンパのようなノリで話すユウダイたちと、嫌がるセレナの声が後ろから聞こえてくる。

 俺は動けないでいた。

 これからセレナを守っていくのは、勇者たちの役目だ。そこに俺がつけいる隙なんてないじゃないか。


「レ、レイさん! 助けて……」


 そんなセレナの声を聞いて、ハッと我に返る。


 俺は何をしている。

 前世を引きずって、この世界でもこいつらの陰におびえて生きていくつもりか。

 今、後ろで行われているやりとりのどこに、勇者らしさがあるというんだ。


「いいから、黙ってついてこい。あんまり手間取らせんじゃねぇよ」


 ついには、無理やりにでも連れていこうとする言葉まで聞こえてきた。


「ま、待てよ。彼女、嫌がってるじゃないか」

「あ?」


 思い切って振り返ると、眉根を寄せてにらみつけるユウダイの顔があった。

 前世のいじめられてきた記憶が脳裏にチラつき、恐怖ですくみあがってしまう。


「なんだてめえ。いたのかよ、闇属性の嫌われもんが。何なら、今すぐ退治してやろうか?」

「そ、その。セレナが嫌がってるから。もうちょっと優しくしたほうがいいんじゃないかと思って」


 く、くそ!

 何をビビってるんだ俺は。

 魔族の群れにだって、勇敢に立ち向かっていけたじゃないか。


「うるせえよ。てか説教とか、マジうぜえ。これはさ、勇者と聖女の問題なのよ。外野は黙ってろや」


 そう言われると、シナリオとしてはそうかもしれないが。

 いや、何かが不自然だ。


「あの……。勇者の剣は? 試練の洞窟に行ったんなら、剣を持ってるんじゃ……」


 俺がその不自然さを指摘した瞬間、ユウダイの顔に怒りの表情が浮き上がった。


「なぁんか、こいつムカつかね?」

「だな」

「俺たちに逆らったらどうなるか、教えてやるしかないっしょ」


 ユウダイたちがゆっくり俺のほうへやってきて、顔を近づけてきた。


「死ねや!」


 叫びとともに、拳で俺の顔を殴りつけてきた。

 後ろにのけぞり、倒れそうになるところを踏ん張る。


 痛いけど、さらに感じる違和感があった。

 手加減して殴った可能性も否定できないけど、それでもわかる。

 こいつ、全然大したことないぞ。

 それに一発殴られたことで前世の記憶がフラッシュバックし、俺自身もこいつらに腹が立ってきた。


 ユウダイの拳を受けたあと、さらにダイキとタクヤも殴りかかってくる。

 それらを余裕でかわし、俺はいったん距離を取った。


「なに避けてんだてめぇ。これはあれだな。もう死ぬまでサンドバックコース決定じゃね?」

「つまり、俺を殺すってこと? なら、相応の覚悟をしてもらう」

「あ? 何を言って……」


 次のセリフを待たず、俺は一気に距離を詰めてユウダイの顔を殴りつけた。


「ぐふぇ!」


 ユウダイが、空中で回転しながら飛んでいく。

 ダイキとタクヤは、何が起きたか分からない様子で呆けていた。

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