第九話 闇属性への興味
オリヴィアは腹心の部下であるシャーロットとともに森へと入り、魔族らの残党を討伐していた。
魔族らは実際に村を襲ってきた部隊だけでなく、森にも隠れ潜んでいたのだ。
おそらく村人が逃げ出さないよう、包囲する役割を担っていた部隊だろう。
その魔族らもほとんど見当たらなくなった。
だいぶ片付いたようだ。改めて、探していた人物を訪ねるとするか。
そう考えて、オリヴィアは村の入り口へと向かった。
すると村の入り口付近の木の陰で、シャーロットが突っ立っているのが見えた。
彼女は森の茂みから、村のほうを見つめていた。その視線の先を追ってみる。
何やら若い男らが、揉め事を起こしているらしい。
そのうちの一人に、オリヴィアは見覚えがあった。
襲ってきた魔族の群れを相手に、一人で立ち向かっていた青年だ。
三人の若者が彼を取り囲んでいるところを見ると、どうやら彼に喧嘩をしかけているらしい。
だが、相手が悪いにもほどがあるだろう。
チンピラにしか見えない三人組の無謀さに、オリヴィアは思わずため息が漏れた。
「シャーロット、どうした? 気になることでもあるのか?」
「オリヴィア。彼が探していた光の皇子」
そう言ってシャーロットが指さしたのは、たった今闇属性の男に殴り飛ばされた若者だった。
「それは本当か? ではあの連中が、勇者パーティーなのか」
「でも光の皇子は勇者の剣を持っていないから、まだ勇者にはなれていないはず」
そう言いながらもシャーロットの視線は、光の皇子ではなく闇属性の男に向けられていた。
「あの男が気になるか。実は私も気になっている。シャーロット、彼をどう見る?」
「強すぎる。先ほど皇子に仕掛けたときの動き、相当手加減していたみたいだけど……人間業じゃない。私の知るレイヴァンス・モーティスと全然違う」
「彼を知っているのか?」
「ええ。向こうは私のことを知らないはずだけど」
「闇属性の男、レイヴァンスか。願わくばあの連中よりも、闇属性の彼を仲間に引き入れたいものだ」
オリヴィアたちが必要としていたのは、勇者の剣を持つ光の皇子だ。この村へやってきたのも、勇者の協力を仰ぐためだった。
しかしその皇子らの実力を垣間見て、オリヴィアは落胆せずにはいられなかった。
「彼が勇者になってくれれば……」
シャーロットがポツリとつぶやく。
「彼とは……闇属性の男のことか? ふふ。確かにそれが理想的かもしれんが、さすがに無理があるな」
「光の皇子たちが聖女を無理やり連れていこうとした。それを彼が止めた。レイヴァンス、優しい人だわ」
彼女が男にここまで興味を示すのは珍しい。
しかし、たとえあの男が実力を兼ね備えた人格者だったとしても、闇属性が勇者の剣の持ち主になれるとは考えにくい。
とはいえ光の皇子も、勇者の剣を持つにふさわしい者とは思えなかった。
どうしたものかと頭を抱えつつも、オリヴィアは彼らの様子をうかがっていた。
しばらくして、シャーロットが踵を返した。
「森をあと一回りしてくる。まだ、魔族が残っているかもしれないから」
「うむ。よろしく頼む」
森の中へと入っていくシャーロットを見送ると、オリヴィアは再び彼らのほうへ目を向けた。
本来なら自分もシャーロットを手伝うべきなのだろう。そう思いながらも、オリヴィアは彼から目が離せなかった。
あのレイヴァンス・モーティスという男の戦いぶりを、もう少し見ていたかったのだ。
もっとも、あの連中じゃ役不足だろうが。
「なんにしても。シャーロットを魅了するとは、大した男だな」
オリヴィアは独り言ちて、不敵な笑みを浮かべるのだった。
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