第十話 おぼえてやがれ!

 地面に転がるユウダイを見たダイキとタクヤが、慌てた様子で俺に殴りかかってきた。

 そんな二人の拳が俺に届く前に、俺は二人を殴り飛ばした。


「ヤロウ! ぶっ殺してやる!」


 ユウダイが立ち上がり、腰から剣を抜いた。

 勇者の剣ではなく、武器屋で売っているような普通の剣だ。

 その剣を振り上げ、俺めがけて突っ込んでくる。


「ずいぶん修行を怠けていたみたいだな。おまえなんて、素手で充分だ」


 振り下ろされた大ぶりの剣を半身になってかわし、彼の顔に軽く肘を入れる。

 うめき声をあげて膝をついたユウダイの腕を取って、動けないようにロックした。


「は、離せや! マジで殺す!」


 ダイキとタクヤも向かってきたが、ユウダイを取り押さえたまま、蹴りだけで返り討ちにした。


「あ、あんた! 勇者さま相手に、何やってんだい!」


 さっき俺を罵倒した、村のおばさんだ。


「ち、違うんです! レイさんは私を助けようとして……」

「セレナちゃん。あんたは騙されてるんだよ、レイって男に!」

「そうだぞ! 見なさい、あれを! 王族の第一王子は素晴らしい人格者だと聞く。その王子を踏みつけにするような男だぞ」


 次々とセレナに詰め寄る村人たち。

 まいったな。闇属性の冷遇がここまでとは。

 この世界はどうあっても俺に、破滅フラグを立てさせたいらしい。


「そうだ! 俺は勇者だぜ。その俺にこんなことして、タダで済むと思ってんのか?」


 周りを味方につけたと見たか、ユウダイが鼻で笑いながら脅しをかけてくる。

 気が付くと、先ほど俺を罵倒した村人たちが集まってきていた。


 世間的にも王族の第一王子は、勇者にふさわしいと噂されるキャラでもあったからな。

 そんな男が闇属性の俺に殴られて取り押さえられている様子は、悪が勇者に襲い掛かる構図そのものなのかもしれない。


「ふざけないで!」


 突然、セレナの叫び声がして、あたりが静まり返った。


「あなたが勇者ですって? 私をさらおうとした悪漢じゃないですか! それに比べてレイさんは、必死に魔族から村を守って。ひどいことを言われたのに、笑顔でお世話になりましたって……。レイさんのほうが、よっぽど勇者にふさわしかったです!」


 セレナがゆっくりと、俺のほうへ歩み寄ってきた。目には涙を浮かべている。


「レイさん。ごめんなさい……。村の人たちも、普段は心優しいんですけど」

「さっきも言ったけどさ。俺はセレナがかばってくれるだけで、本当に救われているよ」


 本心だった。

 誰に何を言われようと、一人でも俺を信じてくれる人がいる。それだけで、心が暖かくなれた。


「セレナちゃんの言うとおりだぜ」


 罵声を浴びせてきた人たちに向かって、ひとりのおじさんが声をかけた。

 俺にリンゴをくれて励ましてくれた、青果店のおじさんだ。


「俺はちゃんと見ていたぞ。レイさんは必死に村人を守ってくれていた。それに俺も、あの輩どもが勇者には到底見えん」


 おじさんの一言で、村人たちも黙り込んだ。


「おいおい、なんだそりゃ。俺は勇者だぞ! なに悪者みたいに言ってんだ? おまえら、光属性の俺より闇属性を信じるのか?」


 地面に伏せたまま、ユウダイが叫ぶ。

 闇属性という言葉で、村人たちが再びざわめきだした。


 そのとき村の外の森から、黒い鎧を身にまとった女が姿を現した。

 一緒に戦っていたときとは違い、兜を脱いで顔を見せている。

 きれいに整った顔立ち、セミロングの赤い髪に鋭い眼光。

 思ったとおり、間違いなくオリヴィアだ。


「くくく、悪者みたい……だって? 自分たちが悪者じゃないつもりか?」

「げ! こ、こいつは!」


 ユウダイが驚くのも無理はない。

 オリヴィアはゲーム序盤で戦うような相手じゃないのだ。

 それを抜きにしても、さっきのユウダイたちの動きでは到底オリヴィアに勝つことなどできない。


「きさまら。これ以上醜態しゅうたいをさらす前に、退散したほうが身のためだぞ」

「く!」


 ユウダイの様子からして、解放しても大丈夫そうだ。

 俺はロックしていた腕を放した。


「クソが! おぼえてやがれ!」


 おおよそ勇者らしからぬ捨て台詞を吐き捨てながら、ユウダイたちは村から逃げ去っていった。



―――――――――――――――


 ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。


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 まだまだレイヴァンスの旅は続きますので、この先もよろしくお願いします。


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