第三章 聖王都と魔族と勇者パーティー

第十六話 魔術協会からの使者

「わぁ、すごいです! さすがレイさん! やっぱり剣は持ち主を選ぶんですね」


 勇者の剣を携えて宿へ戻ると、セレナが早速褒めてくれた。

 その言葉に恐縮する。


「勇者さまと一緒に冒険ですね! 頼もしいです」


 彼女は両手で俺の手を握って、はしゃぎながらブンブン振った。

 そんなに喜んでくれるなんて、心から嬉しい。


「俺もセレナと一緒にいられて、すごく嬉しいよ」

「へ?」


 セレナがパッと手を離して、顔を赤らめる。

 さらにもじもじして、うつむいてしまった。


「い、いや。あれ? その、変な意味じゃなくて……」


 勇者の剣が抜けなかったら、家に帰って引きこもるつもりだったから。

 セレナだけじゃなくて、みんなで旅ができるのが嬉しかっただけで。

 なんだか変な雰囲気になってしまったぞ。


「あ、あの……。私も、レイさんと一緒にいられて、その……」

「ヘ、ヘンな意味じゃないんだ。みんなと旅ができて、楽しそうだなって意味で」


 これは耐え難い空気。

 しかもシャーロットは、なにゆえ俺をジトッとした目で睨んでいる?


「おやおや。帰ってくるなり女を口説くとは。レイヴァンスよ、キミも隅におけないな」


 妙なタイミングで、オリヴィアが奥の部屋からやってきた。

 いやいやいや、変な意味じゃないと言っているではないか。


 オリヴィアって、ゲームだともっと大人というか、近寄りがたい雰囲気の女だったんだけどな。

 仲間になると、こうも人を冷やかしてくるキャラだったのか。


「ふふふ、シャーロット。キミもうかうかしてはおれんな」

「意味不明」


 ほら、今度はシャーロットを茶化してるぞ。

 セレナはかわいいしシャーロットは綺麗だし、そんな二人が俺なんかと釣り合うわけないじゃないか。

 だから茶化すのはやめてほしい。

 勘違いして、傷つきたくないのだ。


「冗談はさておき、レイヴァンスよ。みごと勇者の剣を手にしたのだな。正直、少し驚いている」


 オリヴィアが真面目な顔つきになる。


「ほんとですよ。まさか闇属性の俺が……」

「レイさんだから選ばれたんです! 世間もですけど、レイさんも属性を気にしすぎですよ。レイさんの魔法があったから、村が救われたんです」


 俺の言葉を押しつぶすように、力強くセレナがそう言ってくれた。

 俺にはもったいない言葉だ。


「ありがとう」


 心の底からそう思った。

 この世界に生まれて、こんなにも自分の闇属性を認めてらった日があっただろうか。


「うむ、そうだな。がっかりさせられた光属性の人間もいたわけだし。私もキミだからこそ、共に来てほしいと思っている」


 オリヴィアの言葉に、シャーロットもうなずいてくれた。

 そのとき、家の奥から二人の男がやってきた。


「お待たせしました」

「お! 綺麗どころが揃ってるね」


 一人は礼儀正しく真面目な顔つきの青年だが、もう一人はなんかチャラい。

 この二人がセレナの父親役の代わりとなる、魔術協会から新たに派遣された護衛か。


「これから共に同行させていただき、あなた方の護衛と案内を務めさせていただきます、カイロスと申します」

「俺はマックスウェルだ。よろしくな」


 魔術協会からの使者が、それぞれ自己紹介を済ます。

 態度もしゃべり方も、かなり対照的な二人だな。


「レイヴァンス……」


 不意にシャーロットが側へきて、小声で話しかけてきた。


「わかってる。まさか、ここで出会うなんて。やっぱりゲームのシナリオから、ずいぶんズレているみたいだな」


 チャラいほうは問題ない。まずいのは真面目そうな青年だ。

 しかし、ある意味で好都合かもしれない。


「逆に上手く先回りして、解決できるかも。すまないが、しばらく俺はパーティーから抜けるよ」

「だめ。魔族が襲ってきた場合、セレナを守るのはレイヴァンスが適任。私が行く」


 そこまで話すと、シャーロットは俺から離れてオリヴィアのところに戻っていった。


 任せて大丈夫なのだろうか。

 オリヴィアなら、かなり安心して任せられるんだけどな。

 確かにシャーロットも強いキャラだったが、転生者としての彼女はどれほどの強さなのだろう。

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