第十七話 別行動のシャーロット

 俺たちが試練の洞窟へ向かっている間に、オリヴィアは荷馬車の手配まで済ませていた。

 食料や寝袋などを荷馬車へ詰め込み、一同は村を出発する。


 平たんな道を突き進み、平和でのどかな時間が流れていった。旅の出だしは好調だ。

 荷車の後方から顔を出し、セレナは上機嫌で外の景色を眺めている。


「レイヴァンス、余計な心配をしている顔。例の件なら私に任せていれば問題ないから」


 俺の心配を見透かしてか、雑念を捨てろとばかりにシャーロットがつぶやく。

 村から一番近くの町に着いたら、彼女とはいったん別れることになっている。


 魔術協会から派遣されたカイロスという男。

 彼が現れたことで、やらねばならないことができたのだ。


 すでにそのことはオリヴィアにもシャーロットから説明済みであり、シャーロットが一人で別行動するのが最適ということにも合意していた。


 確かに隠密行動なら、シャーロットのほうが得意そうだ。

 加えて今後起こりうる危機を考えると、広範囲の攻撃も可能な俺をセレナの側に置いたほうがいいのもわかる。

 適材適所の観点で見ても、正しい配置だろう。


「わかったよ。そっちはキミに任せた。みんなのことは、俺が守ってみせるから」

「オリヴィアは放っておいても平気。セレナをしっかり守って」


 互いに了解したとばかりにうなずいた。


 やがて、出発した村から一番近い町にたどり着いた。

 到着してすぐに馬を調達すると、シャーロットはその馬に乗って去っていった。


「あれ? シャーロットさん、用事ですか?」

「彼女は別でやってもらいたいことがあってね。なあに、心配はいらないさ。数日後には合流する」


 上手くいけば、確かに数日で戻ってこられるだろう。距離的には、そのくらいの場所だったはずだ。


「シャーロットが心配か?」

「え?」


 オリヴィアが小声で俺に話しかけてきた。


「私の強さなら、信じてもらっていると思っていいか?」

「そりゃ、まあ。村で見せてもらいましたから。あなたの剣の腕はお世辞抜きで、本当に神がかっていました」

「なら問題ないな。シャーロットは私より強い」

「え? ほ、本当ですか?」

「本当だ。彼女は幼少のころから、すでに大人の剣豪たちでさえ勝てないほどの剣技を習得していた」


 ゲームの場合、シャーロットも強いけどオリヴィアには一歩及ばない。そんな力関係だった。

 確かにオリヴィアが死んでシャーロットが仲間になったあとなら、レベル上げによって強くすることは可能だけど。

 つまりシャーロットは、転生することでゲームの世界だということを理解し、俺と同様に幼いころからレベル上げのような修行をしてきたのだろう。

 オリヴィア自身がそう言うのなら、信じても大丈夫そうだ。


「さて、それじゃあ我々も出発するか」


 一同は再び、荷馬車に乗って町を出た。

 当面の行先はガーディアニア国だ。

 現在のガーディアニアは、国の要人たちが魔族に操られている状態だという。

 ゲームではシャーロットやオリヴィアの祖国がたどる運命を、この世界ではガーディアニアが背負っていることになるわけか。


 しかし望みはある。

 聖女セレナが聖域で生み出すことができる聖水さえあれば、アンデット化されて操られた者たちを正常化できるのだ。

 問題はその聖域が、ガーディアニア国内にあるということだな。


 ゲームではそれなりに協力的だったガーディアニアだが、この世界ではどうだろう。

 うまく国境を超えることができるかどうか。


「レイさん。シャーロットさんと、どのような話をしていたのですか?」


 外を眺めていたセレナが、いつの間にか俺の隣に座っていた。


「話って?」

「え、えと……。だから、シャーロットさんと、たまにヒソヒソとお話しているので。いつの間にそんなに仲良くなったのだろうって……思いまして」


 徐々に声が小さくなり、セレナが珍しく煮え切らない態度をとる。


「べ、別に……その。深い意味はないですから。ちょっと気になっただけです」


 そこで顔が赤くなるのはなぜだろう。

 疎外感を感じて、ちょっと怒っているのかな。


 でも今はまだ、シャーロットの役目について語るのは避けたい。

 荷馬車の狭い空間には、カイロスとマックスウェルがいるからな。聞こえたらまずい。


「シャーロットとは、今回の旅が成功するための前準備について話をしていたんだ。今はまだセレナに教えてあげられるほど、具体的な話じゃないんだけど。シャーロットが戻ったら、詳しく話すよ」

「そ、そうだったんですね。なぁんだ、ただの作戦ですかぁ」


 セレナの顔が明るくなる。

 かなり濁した説明になったけど、納得してもらえたみたいでよかった。


 その後の道中も、平和でのんびりとした旅が続く。

 食料も調理道具もしっかり積んでおいたので、昼も夜も美味しい飯にありつけた。

 オリヴィアは野営にもかなり慣れているらしく、彼女の作る料理がとても美味しかったのだ。


 そんなこんなで野営をしながら荷馬車に揺られ、五日目のこと。


 荷馬車は森の中を進んでいた。

 森の中とはいえ、荷馬車が走りやすいよう整備された道も存在している。


 そして森を抜けた瞬間、荷馬車が急ブレーキした。


 ガーディアニアの国境まであとわずかというところで、立ちふさがる者たちが現れたのだ。

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