第十八話 ユウダイたち再び

 今、馬の手綱を持っているのはオリヴィアだ。

 荷馬車の中にいた俺たちは、何が起こったのかと互いに顔を見合わせた。


「どうしたんですか!?」


 御者席のほうへと顔を出し、彼女に尋ねる。


「よくわからんが、どうやら聖王都の兵士団がお出迎えらしい」


 前方を見ると、大勢の兵士たちが進路をふさぐように、横へ広がって立っていた。


「ここに来ると思ってたぜ!」


 兵士たちの群れが二つに割れ、その間から見覚えのある三人組が姿を現した。

 まさかのユウダイたち、主人公パーティーご一行の登場だ。


「闇属性、出てこいや!」

「このまえは上等かましてくれたじゃねえか!」


 ダイキとタクヤがこちらに向かって叫ぶ。


「まあ! あのチンピラさんたち。こんなところまで追いかけてくるなんて、しつこいですね」

「やれやれだ。しかし……兵士の数が多い。さすがに分が悪いな」

「そうですね。人間相手じゃ、魔法で一掃というわけにもいかないですし」


 見逃してくれそうもないな。

 まずは話し合いから試みるしかなさそうだ。


「なんだあいつら、聖王都の連中? どういう状況?」


 魔術協会の軽口男、マックスウェルがセレナと俺の間からヒョコッと顔を出してきた。


「セレナ、キミはここにいてくれ。マックスウェルさん、カイロスさん、彼女を頼みます」

「もちろんです。しかし、大丈夫なのですか?」


 カイロスの言葉に、無言でうなずいた。


「レイさん……」

「大丈夫。戦いに出るわけじゃないから。まずは向こうが何を求めているかを聞かないと」


 俺はそう言い残して、荷馬車から降りた。

 隣にはオリヴィアもいる。この人がいるだけで、とても心強い。

 彼女はゲームだと、共に行動することなんてないはずの人だった。

 だけどもしゲームでも仲間になることがあったなら、ラスボスまでずっと、バトルのメインメンバーになれただろう。


「天下の聖王都兵士団と皇子様が、揃いも揃って善良な旅人の道をふさいだりして。いったい何の用だ?」


 さすがオリヴィア。多勢に無勢を感じさせない、見事な態度。かっこいいなぁ。


「何が善良だ! 聖女をさらった極悪人どものくせによ!」

「そうだそうだ! 聖女は俺たちが保護する」

「大人しくしていたほうが身のためだぜ」


 ユウダイたちが一方的にまくし立ててくる。


「はぁぁぁああああああ!? ばっかじゃないの? さらおうとしたのはあんたらじゃないですかぁ!」


 セレナが荷馬車から大きな声で叫けんだ。

 危ないから顔を出さないでほしいな。


「ユウダイ様?」

「聖女は闇属性に催眠魔法で操られているのさ。やっぱ野放しにしちゃいけない、邪悪な属性だぜ」


 ざわつき始めた兵士たちが、ユウダイの一言で収まった。

 闇属性を出されるだけでコレだ。

 こっちが悪者という理由付けも、ばっちりってわけか。


「おい、おまえら。ここにいる彼は真の勇者だぞ。ほらレイヴァンス、剣を見せてやりたまえ」


 肘でつつかれ、言われたとおりに腰の剣を抜く。


『うぬ! やっと外であるか』


 抜いた瞬間、精霊ミスティローズが剣からニュッと顔だけを出してきた。

 びっくりするから、そういうのはやめてくれ

 しかし周りの反応を見る限り、やはり剣の精霊は俺にしか見えていないようだ。


「あ、あれはまさしく!」

「まさか闇属性の者が勇者の剣を?」

「なんということだ!」


 兵士たちが、再びざわつきはじめる。


「これでわかったろ。おまえらはそこの馬鹿どもにたぶらかされ、あまつさえ勇者に楯突こうとしておるのだ。雑兵どもが、控えろ!」


 いや、別に控えなくていいんだけどな。

 ただでさえ闇属性ってことで、肩身が狭いんだし。そんな言い方したら、余計に反感を買いそうなんだけど。

 そういえば敵として現れたオリヴィアも、こんな感じだったかも。


「おまえら、騙されんなよ! あの剣は俺から盗んだんだ。そもそも光属性の俺を差し置いて、闇属性が勇者の剣を抜けるわけねぇだろ」


 なるほど、そうくるわけか。

 前世からのいじめっこなだけに、周りを巻き込んで少数をいびる話術には長けてるもんだな。


 それにしても、闇属性という言葉が強力すぎて泣きたくなるよ。

 兵士たちの顔も、完全に俺たちを敵とみなした表情してるし。


「どうしよう」

『レイ、苦しゅうない。わらわを使っても構わぬぞ。あの程度の軍勢、わらわを一振りするだけで万事解決じゃ!』


 ミスティローズが指で丸を作って、ウインクしてきた。

 勇者の剣のくせに、ただ暴れたいだけじゃないのか?


「こうなったら、全員切り伏せるしかないな。おまえの闇魔法と私の剣があれば、なんとかなるかもしれん」


 オリヴィアもやる気満々だ。


「おらぁ! 賊どもを退治しろやぁあああ!!」


 ユウダイが俺たちに向かって指をさし、全軍突撃の合図を送る。


 もはや話を聞いてもらえる状況じゃなくなった。

 戦うしかないのか。他に方法はないだろうか。

 考えを巡らせながらも剣を構えた、そのときだ。


「ぐあ!」

「ぎゃあ!」


 兵の群れの後方から、叫び声がした。


「なんだ? どうした!」


 ユウダイが後ろを振り向く。


「ユウダイ様! 敵襲です! 魔族どもが突然襲ってきました!」


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