第十九話 魔族の急襲

 こちらからは見えないが、どうやら兵士団が魔族たちの急襲にあったらしい。

 俺たちへ意識が向いていた隙をつかれ、後ろから不意打ちされたようだ。

 それを理解した瞬間、俺とオリヴィアは動き出していた。


「き、きさまら!」


 突っ込んできた俺たちに向かって、数名の兵士たちが剣を構える。

 一人の兵士が、俺に向かって剣を振り下ろす。

 その剣をよけて、兵士たちを素通りしていく。


 敵はこいつらじゃない。兵士らを後方から襲ってきたらしい、魔族の連中だ。

 しかし兵士たちが邪魔で、状況がまったく分からない。


「レイヴァンス! 飛べ!」


 オリヴィアが腰を落とし、両手で足場を作る。

 俺がその手へ片足を乗せると同時に、彼女が勢いよく腕を振り上げた。勢いをつけて高く飛び、俺の体が宙を舞う。


 飛び上がったことで、兵士たちの後方まで見渡すことができた。

 襲ってくる魔族の群れに、兵士たちが応戦している。

 しかしパッと見た感じでも、劣勢なのがわかった。


 広範囲かつ狙いが定まりやすくて、範囲外にいる兵士は巻き込むことのない攻撃。それが今の状況に適した魔法だな。


「黒き闇の重力よ、全てを捉えし広域の網を織りなせ! 黒渦重力絡繰り舞台シャドウパルス


 空中から魔族たちのいる地面に向けて、魔法力を放出する。


 ――ドゴォオオア!!――


 魔力によって生み出された超重力が地面を球体にえぐり、その場にいた魔族たちを巻き込んで押しつぶす。


『おお! おぬし、わらわに頼らずとも強いではないか。やりおるわ』


 ミスティローズが感心したように言った。


 ここまではいいとして、これからどうしようか。

 そのまま兵の最後尾まで行きたいところだけど、オリヴィアに投げてもらったとはいえ距離がありすぎるな。


『レイよ。わらわの霊属性との融合魔法で、魔力の羽を生成するのじゃ。高度な魔法じゃが、お主の力量なら可能じゃろう』


 確か霊と光を合成して、天使の羽みたいなものを作り出す魔法だったか。

 それって、闇属性とでも可能なのか?


『闇のエネルギーを物質化するイメージじゃ! ゆくぞ!』


 闇の羽をイメージし、魔力を粒子に変えて物質化。


『天空の精霊よ、身に宿りし翼となれ!』

「闇の微粒子よ、力を宿し物体となれ!」


 ミスティローズが詠唱を初め、俺もそれに続く。


『エアリアルフェザー・ダークウィングス』


 黒い粒が俺を中心に四散したあと、体が浮き上がる感覚があった。

 左右を見ると、俺の背中から生えているであろう黒い羽が見えた。


「と、飛んでる?」

『正確には舞い降りているだけじゃがな。自由自在に飛び回るのは、風属性との融合でなければ無理じゃ。しかし、旋回や滑空は可能であるぞ』


 前世の世界でいうところの、パラグライダーみたいなもんか。

 でも充分だ。


 兵士たちの最後尾、魔族たちが暴れているところめがけて滑空していく。

 目的の場所まできたところで、魔法を解除して飛び降りた。


「な? きさまらは!」


 空から降って来た俺に驚いた様子で、兵士が剣を構えてきた。


「待ってください! 今は敵対している場合じゃありません!」


 そうこう言っている間にも、魔族たちが襲い掛かってくる。

 セレナの村のときと同様、飼いならされた様子の魔獣も混じっている。


 その魔獣の一体が、一人の兵士に覆いかぶさってきた。

 鋭い牙で噛みつこうとするその魔獣を魔法力で吹き飛ばし、剣で斬りつける。


「す、すまない……」


 助けた兵士が、思わずといった感じでつぶやいた。


「みなさん! 色々と言いたいこともあるかもしれませんが、まずは協力して切り抜けましょう!」


 伝わったかどうかは分からないが、返事は待たずに魔族側へと振り返る。

 十数体もの魔獣と魔族が、俺めがけて飛びかかってきた。


 セレナの村でもそうだったが、なんて数だ。


 俺はミスティローズブレイドで応戦しながら、ヤツらの群れめがけて突っ込んでいった。


「な、なんでこんなところに魔族どもが!」


 叫び声がして振り返る。

 ユウダイ、ダイキ、タクヤの三人が兵士たちの後ろに隠れながら、こちらを指さしている。


「おまえだな! おまえが魔族どもを呼び寄せたのか!」


 さすがに今は、そんなたわごとの相手をしている暇なんてない。

 次々に襲いかかってくる魔族を、剣でさばいて倒していく。


「しかし、ユウダイ様。彼は懸命に魔族と戦っています。先ほども、我々を助けてくれたのです」

「馬鹿かおまえ! それも俺らを油断させるための作戦に決まってんじゃねぇか! 簡単に騙されてんじゃねえ!」


 兵士とユウダイのやり取りが後方から聞こえてくるが、構っている余裕なんてなかった。

 目の前の魔族たちに集中し、どうにかその場をしのぐ。しかし、やはり数が多すぎる。

 ついには俺を通り過ぎて、再び後ろの兵士たちを襲い始めた。


「キーッヒッヒッヒ!」


 甲高い笑い声が響き渡り、空中に黒い球状のゆがみのようなものが現れた。


 異次元の入り口を彷彿とさせるゆがみの中から、一人の魔族が姿を現す。

 高名な魔道士が身に付けるようなマントに、貴族が着るような豪華な服。

 明らかに他の魔族たちとは雰囲気が違う。


 その魔族は宙に浮いたまま、長いあごひげを自慢げになでた。


「げ! あれは四天王の一人じゃねえか?」

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