第六十二話 邪神の力
「なぜ、この短期間でそれだけの魔力を……」
「邪神の力を分け与えられたからさ」
「そんなバカな! 邪神復活には女神の力が必要なはずだ」
「ああ、復活はしてないぜ。邪神は封印されたままなんよ。だけど知ってる? エピックファンタジアの隠しイベントの一つに、封印された邪神と直接バトルできるっていうのがあるの」
確かに、やりこみ要素の一つにそんなイベントがあった。
魔族が邪神を復活させるまえに、封印されたままの邪神とバトルできるというものだ。
邪神が封印されている地底遺跡は、邪神が光の勇者と最後に戦った地に存在する。
聖王都の地下だ。
地底遺跡へと通じる道は、何重もの特別な扉で固く閉ざされている。
しかし扉の鍵は、聖王都の隠し部屋の中に存在していた。
もっとも、扉を開いて邪神のところまで行ったとしても、邪神の封印を解くことはできない。
そもそもこのイベントでのバトルは、封印されたままの邪神が作り出した精神世界で行われる。
バトルに勝てばレアアイテムがドロップできる可能性があり、何度でも挑戦可能だ。
ゆえに邪神を完全に倒せるわけではなく、あくまでも腕試しとレアアイテムのドロップが目的のイベントだった。
「一応おまえは、イベントの存在を知ってるのね。ユウダイは知らなかったからさぁ。俺が教えてやったんよ」
「そのイベントとおまえの邪神の力と、何の関係があるんだ?」
「思い出してみ? イベントのバトルに入る前の、邪神のセリフ」
なんだ?
邪神は何を言っていた?
このイベントはやりこみ要素の一つでもあったから、クリアしなくてもストーリー上は問題ない。
だからセリフなどの細かい部分までは、あまり記憶に残っていないのだ。
いや、まて。
確か『おまえらの体を使わせろ』みたいなことを言っていた?
「邪神は大昔に戦った、光の勇者の肉体を取り込んでいるのさ。だからその子孫、つまり俺たちと波長が合っちまったわけ。邪神は復活していない。だが、邪神は俺たちの体に自分の力を転送することができるってわけよ」
そんな設定、知らない。だがしかし、少しだけ思い出した。
ゲームだと邪神に体を使わせろと言われたとき、「はい」と答えるような選択肢は出てこない。
封印された邪神に話しかけたら、会話のあとにそのままバトルが始まる。
だけどもし、「はい」を選択できるとしたら。
ここはゲームと同じ世界だが、ゲームとは異なる。行動も会話も、選択肢なんて制限のないリアルな世界だ。
「おまえ、エピックファンタジアⅡはやったか?」
「Ⅱ?」
前世の記憶だと、まだ続編は出ていなかった。
まさかダイキは、エピックファンタジアⅡをプレイしたあとに転生してきたのか。
「Ⅱの隠しルートにさぁ。Ⅰの主人公パーティー闇落ちルートってのがあってな。邪神の力を転送されて、魔族になった主人公たちが出てくるのよ。それを思い出したとき、ピンときたんだ。封印された邪神に体を使わせてやりゃ、俺たちは簡単にパワーアップできるってな」
ニヤニヤしながら、ダイキがゆっくりと剣を持ち上げた。そして、勢いよく振り下ろした。
剣にまとっていた炎が眞空派のように飛び出し、俺の横をかすめて後ろの壁に激突する。
振り向くと壁は見事に破壊されており、そこから青空が見えた。
「どうよ! 剣で魔力を飛ばしただけで、この威力だぜ」
こんな力で暴れられたら、城内にいる大勢の人たちに被害が及ぶ。
ヤツを止めねば!
俺は駆け出し、ダイキに向かって剣を振り下ろした。
その剣を、ダイキは自らの剣で受け止める。
「おお、さすがに速いな。だが見えてるぜ。邪神の力で、俺の動体視力もハンパねぇくらいパワーアップしてるからな」
「三人揃って邪神を受け入れたのか! なぜそこまでして、ユウダイの暴走に付き合うんだ!」
俺の言葉に、ダイキは一瞬だけ不機嫌そうな表情を見せた。
しかし、すぐに顔をニヤつかせる。
「おまえ、俺がユウダイの取り巻きだとでも思ってんだろ。まあ、タクヤは本当にそのとおりなんだがな」
交えていた剣を弾いてから、ダイキは一旦距離を取った。
そしてヤツは左右へと高速に動いて的を散らしながら、距離を詰めてきた。
あまりのスピードに、目が追い付かない。
ヤツはいつの間にか俺の背後に回り、剣を振り下ろしてきた。
かろうじて気配を察知し、振り返ってヤツの斬撃をミスティローズブレイドで受け止める。
しかし予想をはるかに上回る剣の重さに、俺は吹き飛ばされてしまった。
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