第六十三話 前世の苦い思い出
どうにか着地して態勢を立て直すも、ヤツはすでに俺の背後に回っていた。
勘と反射神経だけを頼りに、どうにか第二の斬撃をかわす。
壁に穴をあけるほどの検圧だけに、魔法防御も併用しないと受けきれなさそうだ。
「俺はなぁ、ユウダイが好きなんだよ。単純で扱いやすいところなんか、特にな。一緒にいると、あいつの陰で楽しいことができるんだ」
語りながらも、ヤツの攻撃が止まらない。それどころか、さらに加速していく。
とんでもない速さと重い攻撃だ。
俺を中心に回り込みながら、執拗に超スピードの攻撃を仕掛けてくる。
まるで竜巻の中心にでもいるかのようだった。
「おまえがユウダイをそそのかしたんだな!」
「あいつはおだてりゃ、すぐその気になるからな。これからもあいつには、トップでいてもらわねぇと。ほんで俺はあいつの後ろについていって、楽しませてもらうってわけ。一緒に弱者をいたぶってよぉ、女囲ってよぉ」
そうだ。
こいつは前世でもそうだった。
前世の俺を表立っていじめていたのはユウダイだが、裏で追い詰めていた一番の元凶はコイツだったんだ。
ダイキはクラスのみんなからは、正義感の強い頼りになる男子とされていた。
後から知ったことだが、ユウダイのいじめを正当化して俺を悪者に仕立て上げていたのがダイキだったのだ。
「ああ見えて、めっちゃいいやつなんだぜ」
そんな言葉でユウダイをかばい、いじめを受けている俺に問題があるのだと周囲の人に印象付けていた。
少しずつ少しずつ。しかし着実に俺は、クラス全員の敵になっていった。
ダイキはみんなの見ている前では決して、俺に危害を加えることはなかった。
しかし誰も見ていないところでダイキは、ユウダイやタクヤとともに俺を殴り、金も物も奪っていった。
やめてくれと懇願する俺に放った、ダイキの理不尽な言葉は今でも思い出せる。
「自業自得だろ。おまえがユウダイに金を返さないから、こうなったんだぜ。しかも女まで奪った悪いやつときた。とりあえず、そういうことになってるんでヨロシク」
根も葉もないウソだった。
身に覚えもないことを本当のことのように周囲に浸透させ、俺を悪者に仕立て上げていたのだ。
ユウダイも乗せられてか、最初は笑って俺を殴っていたのに、いつの間にかムカつく相手を見るような怒りの形相で暴力を振るうようになっていった。
まるで、本当に俺が悪いのだと思い込んでいるようにさえ見えた。
さらに俺の生活が地獄に変わる、決定的な出来事があった。
ある日。
ユウダイと一緒にいるとき以外は俺に接触することのなかったダイキが、俺に声をかけてきた。
「ユウダイがこれまでのこと、おまえに謝りたいって言ってるんだ。とりあえず、あいつのとこに案内するからついてきなよ」
警戒心はあったが、もしかしたらいじめがなくなるかもしれないという期待もあった。
だから俺は、言われるままついていったんだ。
着いた先は、体育館の倉庫の中だった。
しかしそこにユウダイはおらず、十数名の女子たちが腕を組んで立っていた。
女子たちが、すごい形相で俺を睨んでくる。
訳も分からぬまま、嫌な予感が膨れ上がって鼓動が高鳴り続けた。
あのときの恐怖は、転生した今でもトラウマとして残っている。
「コイツが盗ったみたいなんだけど、ほんの出来心だったみたいだし。まあ厳重注意ってことで、この場は勘弁してあげてよ」
ダイキが何を言っているのか、まったくわからなかった。
訳が分からなくて困惑する俺にかまうことなく、ダイキは俺の持っていたカバンを開けて、中に手を突っ込んだ。
すると、中から女子用の水着が出てきた。
「キモ!」
「サイテー」
「つーか、やばいっしょコイツ」
女子たちが引きつった顔で、次々と罵声を浴びせてくる。
そのときは何が起きているのか、まったくわからなかった。
つまり俺はダイキの策略にハメられて、水着泥棒の犯人に仕立て上げられたのだ。
その日から俺は、完全に女子を敵に回した。女子の敵として、男子全員からも嫌われていった。
殴られようが蹴られようが、金を奪われ物を奪われようが、すべて自業自得で片づけられる。
地獄のような環境が出来上がってしまったのだ。
そんな日々が半年ほど過ぎたとき、とんでもない真相が判明する。
「あの水着、盗ったのはタクヤなんだぜ。コイツ、いい趣味してるよなぁ」
「あ! ダイキ、バラすんじゃねぇよ」
罪を俺にかぶせておいて、自らが悪者退治とでも言わんばかりに俺を殴っていたのだ。
悔しがる俺の顔を覗き込みながら、ダイキが最後にこう言った。
「バラしてもいいぜ。もっとも、信じてもらえりゃいいがな」
完全に周囲の敵になった俺が半年も前のことを訴えたところで、誰も信じるはずがない。
むしろそんなことを訴えようものなら、人に罪を擦り付けようとしている最低な男として、さらに嫌われるのは目に見えていた。
ダイキはそれを理解したうえで俺を悔しがらせるために、あえて真実を教えたんだ。
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