第六十一話 新生四天王・火属性の剣士


 魔獣たちがひしめく長い隠し通路を抜けると、芝生が敷き詰められた庭のような場所に出た。

 四方は城壁に囲まれている。どうやら城の中庭らしい。


「城の中のはずだが……どういうことだ。なぜウォーフェンサーなんてバケモノがいる?」

「ガーディアニアのペットというわけでもなさそうですねぇ」


 ウォーフェンサー。

 鋼鉄で覆われた肉体に馬の頭部が乗っかったような、二足歩行の魔獣だ。

 身長は四メートルほどで、手には巨大な斧を持っている。


 ゲームだと中ボスとして登場していた。

 それほど強いバケモノが、三体もいるではないか。


「レイヴァンス。こんなところで時間を食うわけにもいかん。ここは私とリナリナに任せて、キミはシャーロットと先へ進んでくれ」

「大丈夫なのか?」

「ふっ。私の心配など、百年早い」


 オリヴィアがニヤリと笑みを浮かべる。


 確かに。

 いくら強力な魔獣とはいえ、力が取り柄のウォーフェンサーが相手なら、むしろ彼女たちとの相性もいいだろう。

 任せても問題なさそうだ。


 ウォーフェンサーの後ろには、城内への入り口であろう鋼鉄の扉がある。

 しかし、あの扉の鍵が開いているとも限らない。

 それよりも二階のバルコニーにある窓のほうが、難なく侵入できそうだ。

 リナリナのように壁を走り抜けることはできずとも、高さはせいぜい五、六メートル。


「シャーロット、あの窓から突入しよう」

「ん」


 俺とシャーロットがバルコニー目掛けて走り出すと、三体のウォーフェンサーがこちらに向かって突進してきた。

 そのうちの一体が、持っていた斧を振り上げる。


「うぉおおおお!」


 振り下ろしてきたウォーフェンサーの腕を、オリヴィアが剣で弾いた。


 まるで巨大な金棒にでもぶん殴られたかのように、ウォーフェンサーが吹き飛ぶ。

そのまま後ろの二体にぶつかり、三体まとめてぶっ飛ばしてしまった。

 さすが腕相撲の覇者だ。


 倒れていたウォーフェンサーが、よろめきながら身を起こす。


「行け!」


 オリヴィアの叫びと同時に、俺とシャーロットは壁を蹴って二階のバルコニーへと駆け上った。

 素早く窓のガラスを割って、中へと侵入する。


「シャーロット、気づいているか?」

「ええ。転生者にしか感じない高周波ね。でもレイヴァンスに感じるものとは、少し違うみたい」

「ユウダイに感じたものと同じだ。たぶん、魔族になった影響だと思う」

「じゃあ、ここにユウダイが?」

「かもしれない。すると新しい術者というのは、ユウダイのことだったのかも」


 術者を探して倒すのであれば、電磁波の出どころへ向かったほうがよさそうだ。

 電磁波はさらに上から感じられた。


 廊下を駆け抜け、上階へと続く階段を一気に登っていく。


「侵入者がいるぞぉ。死刑だぁ、死刑死刑死刑死刑!」


 城の大広間にたどり着いたところで、兵士たちに囲まれてしまった。

 レックスたちが騎士団を引き付けているとはいえ、城内にもかなりの兵が残っていたようだ。


 兵士たちの目が正気じゃない。完全に操られている。


 行く手を阻む兵士たちの向こう側に、立派な柱が並ぶ広い廊下が見えた。


「どうやら電磁波を放つ者は、この先にいるらしいな」

「レイヴァンス、ここは任せて」

「わかった。でも、兵士たちは殺さないようにね」

「心得てるわ」


 互いの役割が決まり、俺たちは奥に見えている廊下へ向かって走った。


 シャーロットが、道をふさいでいた兵士たちの首筋を手とうで叩いて気絶させる。

 おそろしく速い手刀。俺でなきゃ見逃しちゃうね。


「ここは通さない」


 シャーロットが廊下の前に立ちふさがり、向かってくる兵士たちを次々と気絶させていった。

 その隙に俺は廊下を走り抜ける。


 突き当りの立派な扉を見るに、どうやらこの先は王の間らしい。


 勢いよく扉を開けると、広々とした立派な部屋が視界に広がった。

 冷気のようなものが部屋全体を漂い、肌寒さを感じさせる。


 真正面、百メートルくらい先に王専用であろう大きな椅子があり、見知った人物が座っていた。

 貴族の着るような服を身にまとった数名の人間が、その人物に向かって土下座している。


「ちゅーっす。お久しぃ」


 足を組み、手をひらひらさせて軽口を叩いたその人物は、本来の主人公パーティーの一人であるイグニス家の長男。

 ダイキだった。


 ユウダイと同じく肌が灰色になっており、耳が魔族のように尖っている。


『レイ、気を付けるのじゃ! あやつから邪神の力を感じる』

「なんだって?」


 ミスティローズが剣から顔を出し、緊張のこもった声でつぶやく。


 それじゃあ急激にユウダイが強くなったのも、邪神と関係があるのか。


「王様の椅子、座ってみたかったんだけどさぁ。いざ座ってみたら、なんか微妙だわ。でも偉そうな連中に頭下げさせて見下ろすのは、それなりに気分いいね」


 鼻で笑ってからダイキは「よっと」と勢いをつけて、椅子から立ち上がった。


「ほら、どけどけ。もう下がっていいぜ」


 邪魔だとでも言わんばかりに、手で払う仕草をする。

 土下座していた人間たちが立ち上がり、ダイキに体を向けて頭を下げたまま、部屋の隅へと移動していった。

 この人たちはどうやら、ガーディアニアの王と要人らしい。


「新しい術者は、おまえだったのか!」

「まあな。アンデッドにする術と操る術は、教わったらすぐにできたぜ」


 イグニス家の長男は火属性の剣士。

 ゲーム上だと属性こそあるものの、魔法はほとんど使えないキャラだった。

 魔族になって魔属性が加わることで、魔法の才能が目覚めたのかもしれない。


「なあ、闇属性。おまえなら、俺がどれだけ強くなったかわかるんじゃねぇの?」


 ダイキはそう言うと、腰に下げていた剣を抜いた。

 オレンジと紫色の炎が剣を飲み込むように包んで、うねりをあげながらほとばしる。

 ヤツから、ものすごい魔力量を感じた。


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