第二十三話 和解

 魔族との戦いも、ひと段落ついたらしい。しかし、何やら不穏な空気だ。


「その男のせいで、我々は全滅しかねない状況になったのだぞ。それを許そうというのか!」


 兵士たちのリーダーらしき男が、えらい剣幕でまくしたてる。


「それは恋人さんを、人質にとられていたからなんです!」

「そんなことは、我々の知るところではない。こいつは多くの兵を危険に晒した大罪人! そのことに変わりはないのだ」


 どう説得したものか。

 カイロス自身も処罰を受けることに依存はない、という顔をしている。


 そのときオリヴィアが微笑みながら、セレナの肩に手を置いた。

 セレナからバトンタッチ、というわけか。


「黙って聞いていれば、おかしなことを言う連中だ」

「な、なんだと?」

「おまえたちを救ったのはレイヴァンスじゃないか。おまえたちだけで、本当にあの四天王や魔族を退けられたのか?」

「む、無論だ! 我々を愚弄する気か!」

「ほう。その割には、おまえたちの大将の姿が見えないようだが」


 うわぁ、これは痛いところをつくな。

 兵士たち、変な汗かいちゃってるよ。


「いいか、あの者が邪魔をしようとしていたのはレイヴァンスだ。おまえたちじゃない。つまり、おまえたちは魔族と充分に戦える状況だったんだ。自分らで四天王を倒せるというなら、我らの内輪もめなど放っておいて、倒せばよかったじゃないか」

「い、いや……違う。我らも聖女が人質にとられて……動けなかったからして……」

「おい、聖女を任されているのは我々だぞ。自分たちが守っている風なことを言うんじゃない。舐めているのか、きさま」


 なんか兵士たちもタジタジで、ちょっとかわいそうになってきた。

 セレナなんて、兵士たちとオリヴィアを交互に見やりながら、おろおろしている。

 その向こうでは、シャーロットがウンウンうなずいてるし。


「いいか! 聖女もカイロスもレイヴァンスも私の仲間であって、きさまらとは他人だ。きさまらが我々の仲間に対して、とやかく言う権利などないわ! 立場をわきまえよ、愚か者ども!」


 そんなことまで言っちゃうんだねオリヴィア。

 そういや敵として立ちふさがる彼女も、主人公たちに愚か者どもって言ってた気がするな。

 兵士たちも言われたことが正論だとかは関係なく、単純に迫力負けでひるんでいるみたいだ。


「レ、レイさん。あの人、怖いです」


 はわわわ、とセレナが肩をこわばらせてビビっている。

 うん。もともと彼女はああいうキャラだもんな。

 仲間になってもキャラはぶれていないようで、頼もしい限りである。


 でも言葉はどうあれ、カイロスを無事に帰したいという想いは伝わる。俺だって同じだ。


 オリヴィアが兵士たちを沈黙させてくれたので、俺も発言がしやすくなった。

 今度は俺の言葉で、彼らに想いを伝えたい。


「みなさん。どうか自分の大切な人のことを思い浮かべてみてください。その大切な人が人質に取られたら、誰だって助けたいと思うはずです」


 みんな、静かに俺の言葉を聞いてくれている。

 恋人なのか、自分の子供か。はたまた両親や親友なのか。

 それはわからないけれど、誰もがそういった者を思い浮かべているような、神妙な顔をしていた。


 兵士のリーダー風の男も、兵士としての立場と個人的な感情を天秤にかける歯がゆさを感じているような、悩ましい表情で視線を下に落としていた。


「お願いします! どうか、カイロスさんの行いを不問としてください。ミラさんに、もう悲しい想いをさせないでください!」


 深く頭を下げて、自分の気持ちを示した。


「レ、レイさん……。どうして私のために、そこまで……」


 カイロスさんの震える声が聞こえてきた。


 確かにこの世界での付き合いは短い。

 でも、俺は愛する人のために苦しむ彼を知っている。

 彼の死によって生まれる、ミラの悲しみを知っている。


 それに本来なら一緒に行動することのなかった彼と、短いながらも旅ができたのは本当にうれしかったんだ。

 キャラではなく一人の人間として言葉を交わした。これだけでも、彼の幸せを願う理由としては充分だった。


「わかりました! あなたには我が兵を助けてもらった恩がある。そのあなたにそこまで言われて拒否したとあっては、それこそ騎士道に反します」


 兵士のリーダー風の男が、背筋を伸ばして敬礼した。

 さらにほかの兵士たちも、一糸乱れぬ動作で一斉に敬礼する。


 彼らにも兵士としての建前というのがあって、俺たちと簡単に和解できない縛りみたいなものがあったのだろう。

 それが一気に解き放たれたのを感じた。

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