第二十四話 シャーロット……キミは……

「闇属性、本当にすごい力ですね」

「偏見に振り回されてましたが、どんな力も使う人次第だってことを学びました!」

「あなたこそ、真の勇者です」


 兵士たちが、次々と俺に話しかけてくれた。

 オリヴィアも先ほどの雰囲気からうって変わり、兵士たちと語り合っている。

 セレナはユウダイたちの素行の悪さを訴えて、兵士たちを困らせていた。

 カイロスとミラにも、「幸せにな」「彼女を守ってやれよ」などと声をかけてくれている兵士たちがいた。

 あとついでに、戦いの間ずっと睡眠魔法で眠っていたマックスウェルも、なぜか兵士たちと肩を組んではしゃいでいた。


 今が夜で焚火でもあれば、もう宴会みたいなもんだ。

 共に戦って得た勝利を語り、認め合いたいという気持ちが、そうさせるんだろうな。


 それにしても、まさか勇者として認めてもらえるなんて。

 ちょっと照れ臭いけど、すごくうれしい。

 闇属性の不遇もかすんでしまう。


 あとは破滅フラグを立てないようにすることだが。うまくいっているのかは、正直なところわからない。

 このまま魔族の三幹部が、四人に増えなければいいのだけど。


 ゲームの中のレイヴァンスは、どうやって四天王になったのか。

 そのあたりはシナリオどころか、公式のスピンオフ作品などでも語られてはいなかったはず。


 四天王として主人公の前に現れたレイヴァンスは、魔族のような見た目に変化していた。

 肌の色が灰色っぽくなっていたし、耳も尖っていた。


 そして言動も性格も。


 憎しみだけが増幅されて、それ以外は捨て去ったような男に成り果てていた。

 もはや初期メンバーの頃とは、別人みたいになっていたんだ。


 人間に迫害され続けた憎しみがそうさせたというのなら、もしかしたらこのまま回避できるかもしれない。


 少なくともこの場には、俺を闇属性だからと蔑む人間はいなくなった。

 迫害を受けたとしても、行動次第でわかってもらえることを知った。

 だから今の俺なら、憎しみに心を蝕まれるなんてことにはならない。そう信じることができた。


 きっと、大丈夫だ。


「レイヴァンス。そろそろ出発と、オリヴィアが言ってる」


 話し込んでいる俺に、シャーロットが声をかけてきた。

 そうだな、あまりのんびりもしていられないか。


「それにしても、ユウダイ様たちはどこへ行ったんだ?」

「森のほうへ走っていくのを見た者がいるらしいが……」


 少し離れたところで立ち話をしている、兵士たちの声が聞こえてきた。

 その言葉が気になったのか、シャーロットの表情が曇った。


「ユウダイ?」


 反応したのは、名前なのか。


 いつも感情を表に出さないシャーロットが、珍しく顔をこわばらせている。

 そして、ツカツカと兵士たちのほうへと向かっていった。


「お、おい! どうしたんだ?」


 俺の声も耳に入っていないようだ。

 ただならぬ雰囲気を察知し、俺もシャーロットの後を追った。


「ユウダイとは何者?」

「え? どうしたんだ、あんた。怖い顔をして」


 そりゃ、兵士のみなさんも戸惑うよな。

 本当にどうしたんだろ、シャーロットのやつ。


 ひょっとして……いや、まさか……。


「ユウダイとは何者? と聞いている」

「あのさ、できればユウダイ様を呼び捨てにしないでもらえないかな。いや、あんたには関係ないかもしれないけど、俺たちも立場が……」

「教えて。早く」

「あ、ああ。ユウダイ様は、我が国の第一王子だ。勇者候補の一人だったんだけど、レイヴァンス殿が勇者に選ばれたみたいなんで。まあそれも今となってはって感じだがな」

「もっとない? 例えば前世の話とか」


 やはりなのか。

 シャーロットは俺と同じ転生者だから、可能性としてはなくもないと思ってはいたけど。


 前世でユウダイたちと、つながりがあるのかもしれない。

 というか、もしそうなら俺ともつながりがある可能性は高いんじゃないか。


 前世の彼らは、お世辞にもいい人たちとは言えない。そのうえ、シャーロットは前世を思い出したくないとも言っていた。

 さらに、今見せている彼女の様子。


「ま、まさか。シャーロット……キミは……」


 俺の声が聞こえたのか、彼女が鋭い視線をこちらに向ける。

 どうにも困っている兵士たちを置き去りにして、一直線に俺のところへやってきた。


「話して」

「その……話せって……何を?」

「ユウダイという男のこと、レイヴァンスは知っている。今の態度で理解した」


 教えてしまってよいものか。

 もしシャーロットの前世が俺の思ったとおりの人だとしたら、彼女がどういう行動をとるかわからない。


「レイヴァンス、お願い」


 ついにはうつむいて懇願する。

 その声が、悲痛の叫びのように感じられた。


 教えたくないわけじゃない。

 ただ、教えたあとのシャーロットが心配なだけなんだ。

 でも、こうまで苦しそうにしているシャーロットに、何も語らないなんてことはできなかった。


「ユウダイは俺たちと同じ転生者だ。他の二人、ダイキとタクヤも……」


 それだけ聞くと、シャーロットは走り出した。

 その先には、彼女が乗ってきた馬がいる。


 やはり、ユウダイたちを追いかける気だ。

 止めなきゃ!


 しかし一足遅く、シャーロットは馬に乗って駆け出してしまった。

 後を追うべく、俺も荷馬車のほうへと走る。

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