第二十五話 本格的な敵対
「どうしたんですか、レイさん!」
「ごめん、すぐ戻るから! オリヴィアたちにもそう伝えてくれ!」
セレナの返事を待たず、急いで荷馬車から馬を切り離す。
そのまま乗馬して、俺も森へと駆け出した。
ユウダイたちも、まだそんなに遠くへは行ってないはず。
森の景色がすごい勢いで流れていく。
この速さなら、もうすぐ追いつけるだろう。
転生者は互いに独特の電磁波のようなものを感じとることができるので、接近すれば気づくことができるはずだ。
それを頼りに、シャーロットかユウダイたちを探しあてる。
もっとも、それができるのはシャーロットも同じだ。
とにかく、取り返しがつかない事態になる、それだけは阻止しなきゃ。
そんなことを考えていた矢先、例の電磁波のようなものを感じ取った。
馬を止めて、周囲の気配を探る。風があたりの木々を揺らし、落ち着いた気持ちにさせる。
その静寂を打ち破り、人間の言い争う声が聞こえてきた。方向が分かり、馬を急がせる。
森が開けて、川へとたどり着いた。
その川辺で、ユウダイたち三人組とシャーロットが対峙している。
しかし互いに剣を抜いており、一触即発といった感じだ。
「なんだてめぇ。俺たちとやる気か?」
ユウダイがすごむも、シャーロットはただ睨みつけて立っているだけだった。
「けっ! 気味の悪いやつ。やだねやだね、暗い女は」
「ていうか、何よコイツ。呼び止めといて、だんまり決め込んじゃって。もしかして俺たちと遊びたかったん?」
なんというか、相変わらずレベルの低いチンピラだ。
さすがに俺も、こいつらに対して腹が立ってきた。
そう思ったのは俺だけじゃないようだ。
自分たちが狩られる側の動物だと気づいてもいない三人に、獲物を狙う肉食獣のような殺気が放たれた。
シャーロットが一歩踏み込む。瞬間、一陣の風が舞い起こり、彼女がフッと姿を消した。
だが俺は、彼女が殺気を放った時点で動き出していたのだ。
もしあとミリ秒ほどでも出遅れていたら、絶対に間に合わなかった。
それほどに彼女の初動は速かった。
――ガキィィィイイン!――
間一髪、ユウダイに振り下ろされた剣を、俺の持つ剣で受け止める。
その激突によって、あたりに突風が吹き荒れる。
「レイヴァンス。邪魔しないで」
「だめだ。きみを犯罪者にするわけにはいかない」
重なった剣から、彼女の震えが伝わってくる。
憎しみの感情が伝わってくる。
「て、てめぇ! こら、女! 俺らにそんなことして、ただで済むと思ってんのか?」
後ろから、耳障りな声が聞こえてくる。
「ちょっと、黙っててくれないか」
今はシャーロットと話をしているんだ。
それを邪魔されたのもあって、いらだちが抑えられずにいた。
「な、なんだとコラ! 闇属性の分際で。ていうか、犯罪者にしたくないだぁ? 俺に手を出した時点で、おまえらとっくに犯罪者なんだよ。おやじにいいつけて、さらに兵を連れてきてやる! おまえら全員、ボコボコにしてやんよ」
ああ、なんかもう色々とだめだな。
俺はシャーロットの剣を弾いて彼女を後退させたあと、地面にミスティローズブレイドを深々と突き刺した。
そのまま振り返って、後ろの三人を睨みつけてから咆哮する。
「黙ってろ! おまえらなんかどうなろうと、マジでどうでもいいんだ!」
ようやくうるさい外野のヤジが止んだようだ。
再び俺はシャーロットに向き直る。
「レイヴァンス……」
「もし……キミがこいつらを殺して本格的に追われる身になったなら、そのときは俺も付き合う。でも、今ならまだ間に合うんだ。こんな連中のために、キミの人生を棒にふることはない」
俺がそう言ったと同時に、ユウダイが後ろから剣で突いてきたのが気配でわかった。
そういうことをするだろうなと予想したうえで、あえて背を向け続けていたんだ。
その突きをすかさず自分の剣で払いのけ、逆にミスティローズブレイドの剣先をユウダイの鼻先にあてがう。
「う、うぐ……」
「不意打ちでさえこの程度の連中に、キミの崇高な剣を突き立てる価値なんてないだろ」
そう言って微笑んでみせると、シャーロットは沈んだような顔をしながらも、無言のまま剣を鞘に納めた。
あとで話をしないといけない。
シャーロットと俺の、前世での関わりを知ったのだから。
彼女に謝らなきゃいけないことがあるんだ。
俺もまた剣を鞘に納めて、待たせていた馬のほうへと歩き出した。
「こ、このままで済むと思うなよ!」
すごいな、こいつ。
この期に及んで、まだ突っかかってくるのか。
それが俺だけに向けられるものだったなら、正直もうどうでもよかったんだがな。
「俺は今、怒ってるんだ。前世でおまえたちがしたことに対してな。今はもう、おまえたちがくだらない人間だと本気で思っている。ただ、そのくだらない人間のせいで苦しんだ人たちがいるってことを知れ」
「ああ? てめぇ、言ったな! もう許さねぇ! ぜってぇぶち殺す!」
「そっちこそ。もしおまえらが今後も勇者パーティーの俺たちにちょっかいを出してくるなら、勇者の名のもとに相手をしてやるよ」
本当は自分が勇者だという自覚もあまり持てていなかったのだが、こいつらに対してはあえて悔しがるであろう言葉を選んだ。
連中は歯ぎしりして睨みつけてきたが、それに対して冷ややかな視線を送り返す。
そして俺とシャーロットはやつらに背を向けると、そこからは振り返ることもなく、馬に乗ってその場を去った。
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