第八十一話 邪神と戦える者たち
「へぇ……。こんな魔法もあるのかよ。結界の一種か。だが速射性が高いところを見ると、永遠に封印する類のものでもなさそうだなぁ」
先ほどまでは狂気に満ちた顔をしていたのに、今のユウダイは冷静そのものだ。
それどころか、周囲の状況から魔法の性質を分析する頭脳まで持ち合わせている。
ダイキやタクヤとは、明らかに異質だ。
「だがまぁ、好都合かもなぁ。俺も自分の城をこれ以上壊したくないから……よ!」
ユウダイが俺めがけて突っ込んできた。
なんて速さだ!
しかし、先にダイキと戦ったのは幸いだったかもしれない。
距離もあったため、どうにかヤツの動きに合わせて剣を振り下ろすことができた。
「おっとぉぉぉおお! 惜しい惜しい」
ヤツは剣をかわすと同時に、俺の手首を掴んだ。そして俺の体を振り回し、床に叩きつけてきた。
「グハッ!」
思わず、うめき声が漏れてしまう。
手首を掴まれたまま体を持ち上げられたあと、ヤツがパッと俺の手首から手を離す。
そして宙に浮いた状態の俺の腹に、蹴りが放たれた。
魔法で防御しているとは思えないほどの衝撃だ。
吹き飛ばされ、壁に激突する。
しかし、これで終わりじゃない。
すでにヤツは両腕に魔力を込めていた。
ヤバイ!
最初に食らった、レーザーのような魔法だ。
早く防御の体勢を整えなきゃ……。
ミスティローズブレイドを杖代わりにして、どうにか立ち上がる。
そのとき、ユウダイの右腕に一本の槍が刺さった。
「いってぇなぁ! 誰だよ」
大したことないといった感じで、突き刺さった槍を腕から引き抜く。
「痛ぇか? そんなら、腐るほど突き刺してやるぜ」
部屋の入口から姿を現したのは、イシュトバーンだった。
「誰だっけ、おまえ。まあいいや、死ね……」
ヤツは俺から標的を変え、レーザーのような魔法をイシュトバーンに向かって放った。
槍が刺さったほうの手は魔力が四散したので、威力は半減しているようだ。
それでも、あの威力を受けるのはヤバイ!
だが、距離が離れすぎている俺にはどうすることもできない。ただただ、イシュトバーンの無事を祈るのみだった。
レーザーはイシュトバーンを直撃し、彼の後ろの壁を貫通していった。
やがて、レーザーの光が晴れていく。
無事だ!
イシュトバーンを守るように、セレナとセレスティアが両手を前に突き出して立っていた。
完全なる魔法防御。
セレナもイシュトバーンも、まったくの無傷だ。
「セレナ!」
まさか邪神と戦えるレベルの者として、セレナまで異空間に来ていたなんて。
しかし、邪神の魔法を完璧にガードできるほどの魔法障壁を生み出せたんだ。
来てほしくはなかったが、邪神にとって脅威の力なのは間違いない。
「レイさん! すごいケガしてます! すぐに回復魔法を!」
セレナが俺のほうへ一歩踏み出すと、ユウダイが彼女に手のひらを向けて構えた。
「あぶない!」
セレナを守らなきゃ!
焦って駆け出そうとするも、体中に激痛が走る。
しかしそのとき、ユウダイの後ろに人影が見えた。
人影が、ユウダイに向かってすごい速さで剣を振る。
その剣を、ユウダイが上体だけを動かしてかわす。
まだまだ剣による斬撃は止まらない。
一秒に三十回は繰り出しているのではないかというほどのスピードで、ユウダイに斬りかかっていく。
この見事な剣技を見せているのは、やはりシャーロットだ。
しかしユウダイは、彼女の放つ剣のことごとくを避けていく。
そして高速の剣技から、宙を滑るように距離を取って逃れた。
ユウダイが確認するように、一人ずつその場に集まった者へと顔を向けていく。
「はいはい、クソ虫が四匹ね……」
ニヤけながら、ユウダイが余裕そうに肩をすくめる。実際、余裕があるのだろう。
ともあれ、シャーロットが粘ってくれたおかげで、セレナが無事に俺のところまでたどり着いた。
「レイさん、ひどい……今治します!」
セレナが俺に手のひらを向けると、側にいたセレスティアもそれにならうように手のひらを向けた。
いつも俺を嫌うような態度だったセレスティアだが、もはやそんなことを言っている状況じゃないと理解しているのだろう。
さきほども魔族であるイシュトバーンを守るため、セレナに手を貸していた。
つまり彼女もまた、協力しあわねばならないことを肌で感じているのだ。
それにしても、やはり女神の力はすごい。
先ほど受けたダメージがほとんど消えている。
これでまだまだ戦えるぞ。
剣を構えて、攻撃のタイミングをうかがう。
イシュトバーンもシャーロットも、前傾姿勢をとった。
あたりが静寂に包まれる。
そして俺たちは示し合わせたかのように、まったく同じタイミングでユウダイへ向かって飛び出した。
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