第十章 ラストバトル
第八十話 迫りくるユウダイ
拘束したタクヤを連れて、フェリックスたちはいったん第三部隊の待機場所へと移動した。
いつの間にか着ぐるみ姿に戻ったケットくんも、気絶した魔王ベルゼを抱きかかえて第三部隊のほうへと戻る。
彼女のアンデッド化を治療するためだ。
念のためベルゼも、鎖の魔法で拘束させてもらっている。
ダイキとタクヤは倒したし、四天王もいない。
残るはユウダイだけだ。
「しかし……さっきのタクヤという男の魔法、あれにはまいったね。あんなものを放たれたら魔法防御で対処できるキミや僕はともかく、少なくとも外の騎士団は間違いなく全滅だった」
エリオットがため息交じりにつぶやく。
あれだけの威力の魔法を無効化したんだ。
簡単に消し去ったように見えても、エリオット自身の魔力消費は相当なものだろう。
「もしもユウダイが、タクヤと同等かそれ以上の魔法を使ってきたら……」
「もちろん、それも想定内ではあるんだけど。想定内の中では最悪なケースかもね」
エリオットが言うと同時に、邪悪な力が近づいてくるのを感じた。
その強大なエネルギーに紛れて、例の電磁波もビリビリ伝わってくる。
「ユウダイが……来る!」
「やだなぁもう。アホが力を持つと、セオリーも守ってくれないんだから。大将は大人しく奥の部屋にいてくれよ」
一直線にこちらへ向かってきている。
ヤツも俺から電磁波を感じ取っているだろう。
つまり、俺を標的にしているのか。
部屋の中が静けさに包まれる。
緊張感が高まったそのとき、壁の一部が轟音と共に破壊された。
爆発によって発生した煙が薄れていき、一人の魔族が姿を現す。
すさまじいオーラが全身を駆け巡っており、目が赤く光っている。
その魔族の服装は、ゲームのパッケージに描かれた主人公とまったく同じ。いかにも主人公の勇者といった感じだ。
確かにヤツは、以前からその恰好だった。
なのに今は邪悪さが増した表情と雰囲気のせいか、あまりにもアンマッチに見えた。
ヤツがユウダイなのは間違いない。
しかし、ダイキやタクヤとは比べ物にならないほどの邪悪な気配を放っている。
『いかん! あやつはもう、完全に魔族となっておる!』
それじゃあ、闇落ちレイヴァンスと同じなのか。
もしそうならミスティローズブレイドでも、ユウダイを人間に戻すことはできない。
「想定内の最悪を……超えてしまっている」
「あはは。回りくどいな、レイヴァンス。それは単純に、想定外というんだよ」
余裕のある口調とは裏腹に、エリオットの額から汗がにじみ出ていた。
ユウダイが口から白い息を吐きだし、こちらへ顔を向ける。
瞳孔が開かれたヤツの目は、やはり俺を捉えていた。
「テメェだ。間違いなくテメェだ……」
ユウダイの声に交じり、別の誰かの声が重なって聞こえた。
体の芯に響くような、重くて低い声だ。
「だがよぉ。なんでテメェなんだっけ? 思い出せねぇ。ただ、俺がぶち殺さなきゃならねぇのは、間違いなくテメェなんだよ!」
ユウダイが両腕を広げて、左右の手に魔力を集めだした。
「まずい!」
「だね……。イシュトくんもシャーロットもいないけど、加勢がくるまでキミ一人でどうにか粘ってくれ」
そう言うとエリオットは両手で印を組み、詠唱を始めた。
その間にも、ヤツが魔法を放つ仕草を見せる。
どのくらいの威力があるかは分からないが、魔法防御で耐えるしかない!
「では、健闘を祈る!
エリオットが魔法を唱えた。
それと同時に、ユウダイが両手を俺のほうへと突き出した。
俺は魔力を最大放出し、魔法防御力を高めてガードの体勢をとった。
ユウダイの手から、極太のレーザーのようなものが放たれる。
そのレーザーがぶつかってきた瞬間、大砲の弾にぶつかったような衝撃が全身を駆け巡った。
さらに、突き出した俺の手のひらから焦げた煙が立ち込め、焼けただれていくのがわかった。
「ぐぁぁぁあああああ!」
あまりの威力に、叫ばずにはいられなかった。
ヤツの魔法が消え、耐えきったことに心底安堵する。
一呼吸おいて、俺は周囲を見渡した。
背後の壁はユウダイの魔法で消し飛び、その向こうの壁という壁がきれいに削り取られている。
おそらく、先ほどのレーザーが放たれた直線上のすべてのものが吹き飛んだに違いない。
しかし辺り一面の景色がすべて、灰色に染まっている。
どうやら間一髪、エリオットの魔法でユウダイと俺を異空間へ隔離することができたようだ。
この空間は鏡の中のように、現実世界とまったく同じ形をしている。
しかし現実とは違う次元に存在する空間なので、ここでいくら建物を破壊しようと現実世界には影響が出ない。
もしもユウダイたちの力が強すぎて、第一部隊以外の人間にも危害が及ぶと判断した場合に、発動する予定の魔法だった。
もっとも、タクヤの魔力を見たときからすでに、この魔法を発動するであろうことはほぼ確定していたのだが。
それは同時に、最終決戦をエリオット抜きで戦わねばならないことも意味していた。
『レイヴァンスくん、どうやら無事なようだね』
脳内にエリオットの声が響いてくる。
彼はこの世界を直接見ることはできないらしいが、中にいる者の気配だけは感じ取ることができるようだ。
「はい! 今のところはどうにか……」
『とりあえず異空間に隔離する人物を、邪神との戦いに参加できるレベルの者のみに限定した。この設定は途中で変更することはできない。今、誰がその空間にいるかは分からないけど、数名ほど入り込んでいる。その者たちがたどり着くまで粘れよ』
邪神との戦いに参加できるレベル。
たぶん第三部隊のところにいる仲間たちの何名かが、この異空間に移動させられているんだろう。
距離はそれほど遠くないはずだ。
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