第八十五話 ざまぁ
細長い指をした手が握りこんでいるような、奇妙な形をした檻の中にヤツは閉じ込められていた。
まさかここは、ユウダイの心の中?
そういえばゲームでも、似たようなことが起きた。
闇落ちしたレイヴァンスを倒す瞬間、精神世界へと移動する。
その世界では時間は止まっていて、そこでレイヴァンスと会話するというイベントだ。
彼の人間としての心は、今のユウダイのように囚われていた。
完全に魔族の肉体へと変貌したレイヴァンスを、人間に戻すことはできない。
そんな彼を殺すことしかできず、主人公は泣きながら謝罪していたっけ。
ゲームのイベントと同様、俺も闇落ちしたユウダイの精神世界にきたというわけか。
ということは、俺たちが戦っていたユウダイは邪神そのものだったのかもしれない。
そして目の前で囚われているこいつが、本当のユウダイなのだろう。
「ユウダイ。キミは邪神の力によって、完全に魔族の肉体になった。もう人間に戻すことはできないし、世界を混沌に陥れる邪神を放っておくこともできないんだ」
「ま……待てよ! 冗談じゃねぇ! 何か方法はあるはずだろ、もっと考えろよ!」
助ける方法があったなら、俺はやっぱりこいつを助けたかもしれない。
邪神の力を失えば、ユウダイは戦う術を持たない。
だから、あえて命を取る必要もない……と。
それが正しいことだと信じて。
「キミは、マリナさんを覚えているか?」
「は? 誰だそりゃ」
「俺はアマトだ。この名前、覚えてないか?」
「そりゃ、もしかして前世の話か? わりぃ、全然覚えてねぇ」
「マリナさんが死んだあと、キミはこう言ったんだ。他の遊び相手を探さねぇとな……と。彼女が死んだのは、キミにも原因があった。それなのにキミは後悔どころか、次にいじめるターゲットを探していたんだ」
「いや、なんだそれ。前世で誰かを殺した覚えなんてねぇぞ。逆恨みじゃねぇか!」
「そうだな……確かに、キミが直接手を下したわけじゃない」
「だろ? 前世の話なんて、やめようぜ。いつまでも根に持つなんて、根暗……いや、そうじゃなくて……そう、健全! 健全じゃねぇって」
機嫌を取るように、言いかけた言葉を訂正する。
やっぱり、そうだよな。
だってこいつらにとっては、遊びでしかなかったんだろ。
俺だって前世にやっていたゲームはたくさんあったけど、忘れてるのも結構多い。
だから、こいつが覚えてなくても仕方がないんだよな。
でもさ、俺は覚えてるんだ。
全部、事細かく心に刻まれちゃってるんだよ。
マリナさんが死んでしまったときの悲しみも、地獄のような学生生活も。
「ダイキとタクヤは人間に戻ったよ。彼らは罪を償いながらも、生き続けるだろうね」
「だよな! じゃ、じゃあ俺だって助けてくれるんだろ」
「キミは自分で邪神を受け入れた。ダイキにも言ったが、自業自得なんだ」
「だから! 俺もちゃんと反省して、罪を償うからさ!」
「分からないヤツだな。キミはもう完全に魔族の体なんだ。人間に戻すことはできないんだよ」
「ふざっけんな! ダイキやタクヤは助けといて、なんで俺だけこんな目に合わなきゃなんねぇんだ!」
檻を揺さぶりながら、ユウダイが吠える。
「だいたいよぉ……。この世界に来て、俺は主人公が確約されたと思ってたんだ。それなのに俺は勇者になれず、テメェが……テメェが……。テメェがかっさらっていったんじゃねぇか! ざっけんな! 俺がこうなったのも、全部テメェのせいだろが!」
「いいよ、好きなだけ言えよ。どのみち俺は、キミを殺すしかないんだ。だから……最後だから。いくらでも吠えてくれ」
「テメェ……テメェは! それでも勇者か!」
「勇者とはいっても、俺は闇勇者だ。キミもさんざん闇属性だなんだって、罵ってきただろ」
そうさ。
俺は全然、正しい心なんて持っていない。
こいつを助けたいなんて気持ちは微塵もないんだ。
マリナさんを死に追いやり、俺をいじめ抜いた。こいつらの性根は、この世界に来ても変わっていなかった。
ダイキとタクヤだって、助けたいとは思ってなかった。殺すしかなかったんなら、たぶん殺してた。
それが勇者にあるまじき心というのなら、勇者の資格なんてなくていい。
そう思った瞬間、目から涙がこぼれた。
過去を思い出したからか。
こいつが罪の自覚すらなくて、それが悔しいからか。
それとも……今のこいつに言いたい本音を、ついに吐きだすことができるからなのか。
シャーロット、ごめんな。
キミがこいつを殺そうとしたとき、俺はキミを止めたのに。
こいつにこの言葉を伝えてから、俺がこいつを殺すんだ。
「ざまぁ……」
そうつぶやいたと同時に、ミスティローズブレイドが現実世界のユウダイの首をはねた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます