第八十四話 最後の希望


「てめぇの腕も切り落としてやる! つか、バラバラにしてやるよ!」


 真正面から向かってくると思いきや、ヤツは左右へ動き回りながら的を散らしてきた。

 そしてイシュトバーンに向かって剣を振るう。

 その剣を槍で受けるも、イシュトバーンが部屋の壁まで弾き飛ばされる。


 なんというパワー!

 あの剣を受けきるのは無理だ!


 今度はユウダイの剣の斬撃が、俺を襲った。

 真正面からでは無理だと考え、ミスティローズブレイドを斜めにして受け流す構えをとる。

 にもかかわらず、激しい衝撃で俺の体が宙を舞う。


 ユウダイが飛び上がり、再び光の剣で追撃してきた。

 咄嗟にミスティローズブレイドでガードするも、受けた衝撃で急降下し、床に叩きつけられる。


 さらに追撃してくるユウダイに、シャーロットが横から攻撃を仕掛けてきた。

 彼女の剣をかわして、ユウダイがカウンターを仕掛けてくる。

 シャーロットはヤツの攻撃を受けることなく、後ろへ飛んでかわした。

 そこへ先ほど吹き飛ばされたイシュトバーンも加わり、ユウダイと俺たちの攻防が再開した。


 もう一歩!

 あと一歩が足りない。


 ヤツは間違いなく、俺の剣を警戒している。

 だからこそヤツに付け入る隙が生まれ、イシュトバーンとシャーロットもどうにか食らいつけている。

 しかし、俺の剣だけは完全にガードされている。


 俺がヤツに一太刀浴びせるには、もう一歩足りない。

 もう一息のところで、イシュトバーンもシャーロットも蹴り飛ばされた。


 まずい!

 イシュトバーンはタフだが、シャーロットはそうはいかない。

 セレナに彼女の治療をお願いするしかない。


 それまで、ユウダイを引き留めておかねば。

 そう思って斬りかかったが、ヤツは突然俺を無視するように素通りした。


「女神がぁ! させるかよぉ!」


 すでにセレナがシャーロットのほうへと駆けだしていたのだ。

 それを阻止するために、ユウダイが動き出したらしい。


 だが、今の俺に背を向けるか。

 いくら邪神とはいえ、それはあまりにも油断しすぎだ。


 俺は振り向きざま、ミスティローズブレイドをヤツへ投げた。

 その気配に気づかれてか、ユウダイが横へ飛びのいた。

 しかしミスティローズブレイドが、ヤツの横腹に突き刺さる。


「ぎゃぁぁあああああ!」


 急所には至らないが、ダメージを与えたようだ。

 俺は重力魔法で、ヤツに突き刺さった剣を回収した。


「くそがぁぁああああ!」


 怒り狂った顔で、ユウダイが俺に襲い掛かる。

 ヤツの剣を受け止めるも、やはり圧倒的なパワーに吹き飛ばされて壁に激突した。


 ユウダイが俺を睨みつけながら近づいてくる。


 そのとき、エリオットの声が俺の脳内に響いてきた。


『レイヴァンス! 吉と出るか凶と出るか分からないけど……』


 そう前置きしてからエリオットが教えてくれた、とある事象。

 それは届かなかったあと一歩を埋めてくれる、最後の希望だった。


「解除!」


 ヤツを睨みながら立ち上がり、この異空間へ移動する前にかけていた魔法を解除する。


「あ? 何だって?」


 意味不明といった顔で、ユウダイが立ち止まる。

 構うことなく、俺は最後の攻撃へ向けて構えた。


「シャーロット、イシュトバーン、これで決める! だから、全力で援護を頼む!」


 二人へ声をかけ、俺もヤツへ向かっていく。

 イシュトバーンが宙へと舞い、シャーロットが剣を鞘に納めて抜刀術の構えを取る。


「裂天剣・双断!」


 まず、シャーロットが仕掛けた。

 ユウダイが光の剣に魔力を込めてガードする。


 一度見た技は効かないわけか。さすがは邪神というべきだろう。


「クリムゾン・ジャベリン!」


 次にイシュトバーンが仕掛けた。

 魔属性を帯びた槍による突きが、真上から一直線に放たれる。


 確かこれは彼の繰り出す中で、最強の必殺技だ。

 しかしユウダイは、かろうじてといった感じで後ろへ飛びのいてかわした。


 槍の一撃が床をえぐって、底が見えないほどの穴が出来上がる。


 ここで俺が仕掛けても、おそらくギリギリで避けられる。


 やはりあと一歩。

 シャーロットとイシュトバーンの二人が手を貸してくれても、あと一歩及ばなかった。


 だが、イシュトバーンがここにいて、彼女がこの異空間に来ていないわけはなかったんだ。

 もう一歩を埋めてくれる、その人物はやはりこの場に現れた。


焰判の業者インフェルノ・ジュディカター


 巨大な炎の塊がユウダイの背後から飛んできて、ヤツに直撃した。


「がぁあああああ! だ、誰だコラァ!」


 炎に焼かれながらも、ユウダイが振り返る。

 そこに立っていたのは、魔王ベルゼだった。


 ベルゼは気絶したまま、この異空間に来ていたのだ。

 そして先ほど、エリオットによって彼女の目覚めを知らされた。

 先ほど解除したのは、この異空間へ来る前に彼女を拘束した魔法の鎖だ。


 ヤツの体勢が崩れ、隙が生まれる。


 やっと届いた!

 ついに俺が振り下ろしたミスティローズブレイドが、ユウダイの首の皮に触れた。





 と同時に、あたりが真っ黒な空間に変わった。


 なんだ?

 一体何が起きた?


 目の前にいたはずのユウダイがいない。

 ユウダイだけじゃない。仲間たちも誰もいない。


 訳が分からず、あたりを見回す。


「お、おい! おまえ、レイヴァンスだろ! 助けてくれ!」


 声がして振り返る。

 そこにいたのは、人間の姿をしたユウダイだった。



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