第八十三話 闇と霊と女神の力


「ボケが! テメェらから俺の城に攻め込んできといて、被害者面してんじゃねぇよ。てめぇら全員、俺に殺されても文句言えねぇんだよ!」


 ユウダイが叫びながらこちらへ向かってくる。

 しかしユウダイが、突然横へ飛びのく。

 背後からのイシュトバーンの槍を避けたのだ。

 とはいえ不意をつけたらしく、槍がユウダイの腹にかすって深緑の血が飛び散る。


「被害者面してるのはテメェだ、クソボケ! ここは魔王様の城だろうがよぉ! 万死の刑に処してやるぜ!」

「めんどくせぇヤロウだ!」


 さらに続くイシュトバーンの猛攻を、ユウダイは後方に飛んでかわした。

 そしてヤツは左腕をあげて、イシュトバーンの攻撃とは無関係の方向をガードする。

 瞬間、その左腕が切断される。


「秘剣、裂天剣れってんけん双断そうだん……」


 シャーロットが、息を切らせながらユウダイを睨んでいる。


「ヤロウ……!」

「私もあなたには恨みがある。それを思い出した!」


 シャーロットがユウダイのもとへと駆けていき、イシュトバーンとの連携攻撃を繰り出していく。


 ヤツの左腕の切断面が、うねうね動きながら伸びていく。

 どうやら完全に切断しても、再生されてしまうらしい。


 くそ!

 決め手がないじゃないか。


『レイ!』


 後ろから俺の名を叫ばれ、反射的に振り向いた。

 すると両頬を手で挟まれて、女神セレスティアにキスをされた。


「え?」

「セ、セレスちゃん?」


 これには俺もセレナもびっくりだ。


『レイ、おまえを真の勇者と認めるです! 今、女神の加護をおまえにさずけてやったです! ありがたく思うのです!』


 なんだなんだ?

 こんなにも非常時だというのに、あっけにとられてしまったじゃないか。


 そのときミスティローズブレイドから、ミスティローズが顔を出してきた。


『女神の口づけは、勇者に力を与える儀式のようなものじゃ。強情なセレスティアも、聖女を守るお主の姿に心を動かされたというわけじゃな』

『ち、違うのです! この場を乗り切るには、仕方がなかっただけなのです!』


 慌てふためくセレスティアを見ながら、セレナが「ふふっ」と笑った。


「実はセレスちゃん、だいぶ前からレイさんを認めていたんですよ」

『あー! セレナ! それは言わない約束なのです!』


 セレスティアが両手をブンブン振って抗議している。


 女神の加護か。

 言われてみると、闇と霊以外の強大な力がみなぎってくる感覚があった。


 それにしても……。

 こんなにもギリギリになってようやく力を授けようだなんて、ずいぶんと頑固な女神だな。

 究極のツンデレ幼女か。


『さあレイよ! わらわとお主、そして女神の力を融合し、邪神を断ち切る力を生み出すのじゃ!』


 そう言えば、ラストバトルでそんな展開があった。


 体内に感じる新たな力。

 すでに闇と霊属性の魔力を込めた剣に、そいつを注ぎ込む。

 するとミスティローズブレイドが真っ黒に染まった。


 ゲームだと光り輝く剣になっていた気がするけど、これで合ってるのかな。


『その漆黒の剣は、女神がお主の闇を受け入れた証じゃ。自信を持つが良いぞ』


 そうなのかな。

 疑問に思ってセレスティアのほうを振り返ると、赤い顔をしてそっぽを向いている。


 はは。

 天邪鬼な女神の加護、確かに受け取った!


 俺はユウダイ目掛けて走り出し、一気に間合いへと入っていった。

 そして、黒く染まったミスティローズブレイドを振り下ろした。

 剣がヤツの右腕を斬り落とす。


「ぐぅうああああああ!」


 この戦いで、初めてユウダイが叫び声をあげた。


「な! なんだその剣は!」


 苦悶の表情を浮かべながら、ユウダイが後退する。

 シャーロットに斬られた左腕は、すでに再生していた。なら、今のはどうだ?


 右腕の切断部は、確かにうねうね動いている。

 しかし左腕のときと違い、斬られた部分の再生が上手くいっていない感じだ。


「く! 再生できない……。なぜだ!」


 いける!

 そう判断したのは俺だけじゃなかったらしい。

 シャーロットとイシュトバーンもまた、俺と同時に飛び出した。


 決め手になるのは、確かに俺の剣だろう。

 しかし、あの邪神を相手に一人でクリティカルヒットを出すのは難しい。

 でも、二人のサポートがあれば!


 シャーロットとイシュトバーンが、左右へ別れてヤツを挟むように攻撃を仕掛ける。

 それらをかわしたユウダイに向かって、俺は真正面から剣を振り下ろした。


 相当警戒していたのか、ヤツはバックステップで必要以上に距離をとった。


 そしてヤツは残った左手だけで印を結び、素早く詠唱を始める。

 すると魔方陣が床に現れ、そこから光り輝く剣が出てきた。


 まさか、ユウダイ専用の武器か!


 そんなものを持っていながら、今まで使っていなかった。

 つまり、全力じゃなかったのか。


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