第九章 突撃、魔王城!

第六十七話 タクヤ、動きます


 魔族たちが根城にしている魔王城は、山岳に囲まれた盆地に存在した。

 その城の主が座るための魔王の椅子には現在、ユウダイがひじ掛けに足を乗せて寝そべっている。


「ユウダイ、やべえよ! ダイキがやられちまったらしいぜ」


 使い魔の知らせを受けたタクヤは、今さらになって自分の置かれた立場に不安と焦りを募らせている様子だ。

 そんなタクヤをちらりと一瞥して、ユウダイは舌打ちした。


「だから俺は嫌だったんだ! 魔族になって仕返しとか、いくらなんでもやりすぎじゃんよ」

「うるせぇな。過ぎたことをグチグチとよぉ」


 確かにタクヤは邪神の力を受け入れることに関してだけは、難色を示していた。

 しかし結局はついてきた。


 ちょっと強引に誘えば、タクヤはついてくる。

 前世から金魚の糞のようについてきた彼の性格を、ユウダイは充分に理解していた。


 自分がなく、流されやすい。


 正直なところ、ユウダイはタクヤを真の友人として認めてはいなかった。

 やられたのがダイキではなく、タクヤのほうならよかったのに。内心、そう思っていた。


 しかし大勢のアンデッドを操る術に関しては、ダイキのほうが長けていた。

 あいつはタクヤと違って周りを騙すのが上手いやつだったから、その性格の差が術の質にも現れたのかもしれない。

 だからこそダイキに、ガーディアニアを任せたのだが……。


「おまえはいいよな。そのうち邪神の力が100%転送されるんだから。だがダイキと俺はせいぜい60%止まり。ダイキが倒されたってことはよぉ。俺があいつらに勝てるわけねぇってことじゃねえか」


 ユウダイは椅子から立ち上がると、片手でタクヤの首を絞めて持ち上げた。


「うるせぇってんだよ! 今すぐ俺が殺してやろうか。あぁ?」


 ダイキが倒されて焦っているのは、ユウダイも同じだった。


 これから三人でレイヴァンスどもをぶちのめして、あとはやりたいように暴れて魔族の女をはべらせて、好き勝手生きる。

 そうなるもんだとタカをくくっていた矢先、いきなりその計画が打ち破られるとは。


 邪神はゲームでいうところのラスボスだ。

 そいつの力を授かったユウダイたちは魔族組織すら乗っ取り、逆らう者は四天王だろうとぶちのめした。


 もはやユウダイたちは、ラスボスクラスの力を手に入れたも同然だった。


 そのうえレイヴァンスたちは、ゲームシナリオでいうところの中盤にも満たない期間しか冒険していない。

 もっとも、本来なら聖域で女神の力を取り戻すのは、シナリオ中盤を過ぎたあたりなんだが。

 とはいえそれを考慮しても、やつらの冒険は中盤くらいなわけだ。


 連中はまだまだラストバトルに挑むレベルではないはず。

 だからこそ、シナリオなんて無視してすぐにでも勝負を挑めば余裕で勝てる。


 いくらレイヴァンスが強いとはいえ、単身でラスボスクラスと戦えるわけない。

 ユウダイはそう考えていた。


 しかしヤツはダイキと一対一で闘い、勝利したという。


 ユウダイはタクヤの首から手を放した。

 タクヤはドスンとしりもちをついて、自分の首を抑えながらゲホゲホとむせかえった。


「や……やつら、たぶんここに乗り込んでくるぜ。今なら間に合う。逃げようぜ」


 逃げる?

 なんで逃げなきゃならねぇ。


 俺に恥をかかせたあのヤロウをぶちのめして、同じくやしさを味わわせてやらなきゃ気が済まねぇ。


 逃げるなんて、それこそ何のために魔族にまでなって、悪者側になることを受け入れたかわからねぇじゃねえか。


「とりあえず落ち着けよタクヤ。使い魔の話を聞く分にゃ、全然おめぇにも勝ち目はあるぜ」

「ほ、ほんとかよ」


 タクヤは、どうにも信じられないといった顔をしている。


「ああ。ダイキの敗因はズバリ経験不足。闇属性ヤロウも、そこんところを指摘してたらしい」

「な、なら。やっぱ俺に勝ち目はねぇじゃねえか。俺だってバトルの経験はダイキと変わんねぇよ」

「慌てんなって。だから、直接バトルじゃなくてよ。おめぇの経験が光るもので勝負すりゃいいわけよ」


 ここでユウダイはタクヤの頭をわしづかみして顔を自分に向けさせてから、ニヤリと笑みを浮かべた。


「確かおめぇ、前世で格ゲーが得意だったよな。eスポーツのプロになるとかなんとか言ってよ」

「いや、そりゃゲームじゃん。格ゲーとバトルじゃ、全然違うっしょ」

「要はヤツとのバトルをリアル版格ゲーにしちゃえばいいわけだろ。ちょうどいいキャラを、地下牢に捕えてあるじゃねぇか」


 大勢を操る術においては、ダイキのほうが長けていた。

 しかし単体のアンデッドを操作したときの精度は、圧倒的にタクヤが上だ。

 そこを上手く使わない手はない。


 ここでようやく、タクヤがニヤけた。

 この男のことは別に嫌いというわけでもないが、たまに浮かべる笑みがキモいとユウダイは密かに思っていた。


 まあ、なんにしても利用できる男だ。

 そのくらいは我慢してやる。使えなきゃ、切り捨てるだけだ。


「おもしろそうじゃん。そんじゃ、キャラ操作の練習してくるわ」


 どうにかその気になったらしく、タクヤは魔王の間からいそいそと出ていった。


 それにしても、レイヴァンスがここまで強いとは。

 しかし邪神の力の60%を転送されたダイキには、さすがに苦戦を強いられていたようだ。

 案外、タクヤがうまくヤツを倒してくれるかもしれない。


 タクヤが負けたとしても、ユウダイに転送される邪神の力は100%。

 今はまだ65%程度しか転送されていないが、連中が城に攻め込むころには100%の転送が終わっている頃合いのはず。

 もし100%になっても連中が攻めてこないなら、むしろこちらから仕掛けてやる。


 ユウダイは再び魔王の椅子に寝そべり、ひじ掛けに片足を乗せた。



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