第六十八話 魔術協会のヤバイ客人

 ダイキを倒し、アンデッドと化していたガーディアニアの王や要人、兵士たちの治療も無事に終わった。


 後始末も進んでいき、ガーディアニア城もようやく以前の状態に戻りつつあった。

 魔族によってガーディアニアが危機的状況にあったことも、世間に知れ渡っていった。


 本来ならガーディアニアの王たちは、その失態を国民に追及されることになっただろう。

 しかし魔術協会が介入し、魔族側の非人道的な行いに国民の怒りが向かうよう情報を操作。

 さらに魔術協会と手を組んで魔族と戦うと宣言したことで、国のトップとして一応の格好もついた。


 そういったことから、今のところはガーディアニアへの目立った責任追及もない。

 おかげで魔族討伐に向けたガーディアニアとの同盟も、スムーズに進んでいるようだ。


 ちなみに今回の件で最も世間からのバッシングを受けたのは、やはり聖王都だった。

 むろん、ダイキの実家にあたるイグニス家、タクヤのエンブリオ家も、かつての権威性は失われた。

 ダイキは現在、ガーディアニア城の地下牢に捕らわれて裁判の日を待っている。

 これがガーディアニア奪還後、二週間ほど経った現在の状況だ。


 そんなある日のこと。


 俺たちはエリオット総督に呼ばれて、魔術協会ガーディアニア支部を訪ねていた。

 どうやら魔族との闘いに関係する、大事な話があるらしい。


 一緒に来たのはセレナ、シャーロット、メリッサの三人。

 オリヴィアとレックスは魔族討伐のための騎士団を編成するべく動いているため、今は別行動中だ。


 魔術協会ガーディアニア支部は、重厚な大理石で装飾された壮麗な建物だった。

 高い天井からはシャンデリアが優美な光を放ち、床には美しい絨毯が敷かれている。

 ゲームでも見たことある建物だけど、こうして実際に見ると古代の魔術の知識と歴史を感じさせる雰囲気にゾクゾクさせられる。


 客室で待つこと数分。

 エリオットがドアを開けて入ってきた。

 その後ろにいたカイロスが俺たちにペコっと頭を下げた。

 カイロスの横にいるマックスウェルは、軽く手を振ってウィンクしてくる。


 彼らはガーディアニアの戦いのあと、魔術協会へと戻っていた。

 なので、会うのは二週間ぶりだ。

 それほど期間が経っているわけでもないのに、なんだか懐かしく感じる。


「レイヴァンス、今回は見事な活躍だったね。さすが僕の見込んだ男だ」


 俺って見込まれてたっけ?

 つまらん男と言われたような……。


「実は君たちに、会ってもらいたい人がいてね。ついてきてもらえるかな」


 言われるままに俺たちは客室を出て、彼の後をついていった。

 しばらく歩いていると、魔法陣が描かれた厳重そうな鉄の扉の前へとたどりついた。


 エリオットが手をかざして、魔力を扉に流し込む。


 ゴゴゴゴ。


 重苦しい音を立てて、扉が開く。

 その先は薄暗い廊下が続いていた。


「一体、どんなやつなんだ?」

「さぁ。俺も知らねえんだよね」


 マックスウェルに尋ねてみるも、どうやら今から会う人物の存在すら聞かされていなかったらしい。


「客人として迎え入れてはいるんだけど。そいつの素性が素性なだけに、客室をあてがってご自由にってわけにもいかなくてね。とりあえず牢獄でくつろいでもらってる。でも案外、そいつも客室よりそっちのほうが気に入ったみたいだよ」


 そう言ってエリオットが肩をすくめる。

 どうやらその客人は、とんだ変わり者らしい。


 ひんやりとした廊下を進んでいき、さらに地下へと降りていく。

 おそらく最下層、地下五階まで下りていくと、再び魔法陣の描かれた鉄の扉があった。


 その扉の前に、リナリナが立っている。


「エリオットさん、おっそぉい!」

「リナリナさん?」


 見知った顔を見て、セレナがどこかホッとしたような声をあげた。


「なんや、もったいつけおって。会わせたいって、この女のことかいな」


 つまらんといった感じで、メリッサがため息を漏らす。


「ぶーぶー! こんなところに女の子を待たせておいて、その言いぐさはなんですか!」

「すまないね。彼らの到着が遅かったから、待たせることになってしまった。依頼料を上乗せするから許してくれ」


 なぜか俺たちのせいにされてしまったんですが。

 というか、言われた時間どおりに到着したはずですけど。

 この人、かなり適当だな。


「わ! ほんとですかぁ! さっすがエリオットさん! 大好き!」


 ぴょんぴょん飛び跳ねて、リナリナがエリオットの腕にしがみつく。

 胸を押し付けられているのに眉一つ動かさないところは、さすがに大人だ。

 見た目が少年だから、仲のいい姉弟みたいにも見えちゃうんだけど。


「エリオットさん、うちも戦っとんねん。うちにもお給金はずんだってや」

「確かにそうだね。わかった、払うよ」

「ホンマ? なんやあんた! めっちゃかわええやん! 大好きやで!」


 今度はメリッサがエリオットの腕にしがみつく。

 ひょっとしてエリオットって、ただの女好きなのでは?


「むー……。ニックさんがかわいそうです」

「安い女……」


 メリッサを見ながら、セレナとシャーロットが各々つぶやく。


 それはさておき、会わせたい人というのはどうやらリナリナではないようだ。

 ということは目の前にある扉の向こうに、エリオットの言う人物がいるわけか。


 魔法陣で守られた扉の効果か、特に変わった気配は感じない。

 それだけ外部から遮断された、厳重な部屋というわけだ。


 エリオットが扉に手をかざして、魔力を流し込む。

 瞬間、扉の向こうからただならぬ気配を感じた。

 

 相当な魔力を持った何者かがいる。

 シャーロットも、明らかに警戒を強めた表情を見せる。


 扉がゆっくりと開いていく。

 中はまさに牢獄といった感じの、ジメジメとした部屋だった。

 その部屋の中で、猫の着ぐるみが行儀よく木の椅子に座っていた。



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