第七十四話 イレギュラー
外に軍勢を割いていたとはいえ、やはり魔王城の中も魔族や魔獣が守りを固めていた。
数は外に比べて少ないものの、かなり強力な敵が多い。
ラストダンジョンみたいな場所だから、当然と言えば当然だ。
よほどのことがない限り、邪神以外の敵は第二部隊に任せる手はずになっている。
第一部隊の四人は対邪神戦に向けて、ひたすら温存だ。
さすがはオリヴィアとレックスがいるだけあって、今のところ第二部隊がすべての敵をさばいている。
そしてなんといっても、魔術の援護を担当しているフェリックスが優秀だ。
こんなにも強力な魔術師を追放してしまうとは、エンブリオ家の当主もタクヤを相当甘やかしていたと見える。
第二部隊が敵を倒しながら通路を確保し、第一、第三部隊は一定の距離を保ちながらその後ろを付いていく。
とはいえ城の中が一本道というわけでもないため、第二部隊が取りこぼした敵は第三部隊の戦闘要員が臨機応変に対応していった。
第二部隊に負傷者が出たら、第三部隊の回復要員が本領を発揮する。
ここまでは順調だ。
「さすがはオリヴィアさんたちだ」
「確かに第二部隊は優秀だね。でもここは魔王城だよ。このままイレギュラーなしで終わるとも思えないかな」
不吉なことを、エリオットはあくびをしながら退屈そうにつぶやいた。
それとほぼ同時に、彼が持つスマホのような魔道具がピロリンとメロディを奏でた。
「エリオットだ。どうしたんだい?」
『コチラ第二部隊。現在、強力な魔獣とのバトルにて苦戦中!』
オリヴィアやレックスもいる第二部隊が、邪神以外の魔獣で苦戦?
「敵の性質は?」
『攻撃魔法C、回復補助ゼロ、打撃系S!』
通信を終えて、エリオットが人差し指でポリポリと頬を掻く。
「どうやら出たみたいだね、イレギュラー。魔法少々の近接パワー型といったところかな」
「俺が行きます!」
第一部隊は可能な限り温存が基本方針だが、有事の際には他の部隊へ加勢することにもなっていた。
「そうだね、キミに任せるよ。あと、念のためケットくんを連れていくといい」
「ありがとうございます! ケットくん、よろしく頼む!」
振り返ってそう言うと、ケットくんが指で丸を作って応えた。
第二部隊で対応できない魔獣が出てきた以上、第三部隊だけを残すのは危険だ。
よって、エリオットとシャーロットはその場に残ることとなった。
俺はケットくんを連れて、第二部隊が戦闘中との報告を受けた部屋へ向かって駆け出した。
* * *
「え?」
部屋へたどり着くと、俺は予想を上回る事態に驚きの声を上げてしまった。
天井がはるか上空に存在する、吹き抜けの広々とした部屋。
その中でオリヴィアとレックスが、一匹の魔獣と応戦している。
フェリックスも魔獣から少し距離を取り、魔法で援護していた。
しかし他の騎士や魔術師たちは負傷して倒れ、ほぼ戦闘不能といった状態だ。
精鋭揃いの第二部隊をここまで追い込んだのは、ドラコンストルという一匹の魔獣のようだった。
高さ約4メートルほどの、巨大な二足歩行の魔獣。
鱗は深い蒼色に輝き、火を灯したような眼が特徴的だ。
確かに強力な魔獣だが、腑に落ちない。
第二部隊にこれほどの打撃を与えるレベルの魔獣だっただろうか。
「オリヴィア! 俺たちと代わり、負傷者たちを第三部隊へ!」
俺の声に反応したように、オリヴィアはドラゴンストルへ斬撃を与えたその反動で後方へと下がった。
レックスもそれに連動し、ヤツの攻撃を避けながら後退する。
入れ替わるように俺とケットくんがドラゴンストルへと向かっていき、左右から攻撃を仕掛けた。
するとドラゴンストルは腕を床と水平になるように伸ばして、勢いよく回転を始めた。
コマのように高速回転したヤツの体に、俺の剣とケットくんの槍が弾かれる。
俺とケットくんは同時に飛びのいて、ヤツからいったん距離をとった。
「強い……。ケットくん、あいつはいったい何なんですか?」
「ケットくんじゃねぇ。俺様はイシュトバーンだ!」
いつの間にか、ケットくんの頭を取っていたらしい。
「それはさておき、だ。こいつはドラゴンストル以外の何者でもねぇ。本来なら余裕でぶっ殺せる相手だ」
どうやらイシュトバーンにとっても想定外らしい。
『レイよ、気を付けるのじゃ! あやつから微かにだが、邪神の気配を感じる!』
ミスティローズが剣から顔を出してきた。
「なんだって? じゃあ、あいつもダイキと同様に、邪神から力を得ているっていうのか?」
『少々違うようじゃの。邪神の力を持った何者かの魔力が、あやつの肉体を覆っておる……というのが近い表現であろうか』
誰かがあのドラゴンストルをアンデッドにして操作している。そういうことなのか。
邪神の力を持った何者か……。
ユウダイかタクヤのどちらか、それしか考えられない。
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