第三十三話 このままは嫌です!
魔族たちを倒したのも束の間、俺はレックス率いる騎士団から疑惑を向けられることになってしまった。
「なぜ魔族がここにきたのでしょうね」
そう言いながらもこちらに向けられる鋭い目が、もう完全に俺を疑っている感じだ。
光の勇者や女神への信仰が強いこの国では、逆に魔族や魔属性を蔑む心も他国より強い。
魔属性に限りなく近い闇属性の使い手となると、まあ御覧のとおりというわけだ。
それは最初から予想していたので、彼らの前で魔法は使うまいと思っていたんだけど。
いきなり見せてしまうことになろうとは。
「レックス殿。まさかレイヴァンスが魔族をここに呼び寄せたと?」
「先ほどの魔族は、明らかに聖女を狙っていました。つまり、聖女がここにいることを知っていたのです。魔族側の内通者がいると考えるほうが自然でしょう」
「それがレイヴァンスだというのか?」
それに対してレックスは何も答えず、ただただ俺に冷たい視線を送っていた。
「待ってください! レイさんは私を守ってくれたんですよ。それに、一生懸命戦っていたじゃないですか!」
セレナがかばうように俺の前に立って、手を広げる。
「内通者がいるとしたら、むしろ怪しいのはそっち」
そう言い出したのはシャーロットだ。
指をさされて、騎士団たちの顔がさらに曇った。
「あるいはぁ。私かもしれませんよぉ」
場の雰囲気にそぐわないおどけた声で、リナリナが自分のニッコリ笑顔に両手の指を向ける。
「つまり、ここで言い争っても無意味……ということだ」
その場を絞めるようにオリヴィアが言うと、レックスがため息をついて後ろを向いた。
「それもそうですね。この件は保留ということにしましょう。ただし彼が敵だとわかったときは、容赦しません」
もう完全に俺が犯人だと決めつけてるな。
まあ、仕方ないのかな。
闇属性なんて、どこに行ってもそんなもんだ。
それに俺は敵じゃないんだし、いつかは分かってもらえるだろう。
疑念は残しつつも、なんとなくこの場は収まった感じだし。とにかく先を急がねば。
レックスも同様のことを考えたのか、その場のみんなを引き連れてこの場を去ろうとした。
俺もその後をついていこうと、歩を進める。
そのとき、誰かが俺の服の裾をつかんだ。
「嫌です……」
振り向くとそこには、うつむいて肩を震わせているセレナがいた。
「このままは嫌です!」
彼女の声に、その場の全員が歩みを止めた。
「なんで……なんでレイさんはいつも、言われっぱなしで黙っているんですか? 我慢しているんですか? 心の中で泣いてるくせに!」
「セレナ……」
「私はレイさんにたくさん助けていただきました! 私だけじゃありません! たくさんの人を救ってきて、正しいことをしてきたんです! それなのに闇属性ってだけで、なんでひどいこと言われなきゃいけないんですか!」
涙を流しながら、セレナは叫んだ。
先ほどまで冷ややかな目をしていた騎士団の兵士たちも、後ろ暗さを感じたのか、みなセレナから顔を背けて斜め下を向いている。
「レイさんに謝ってください。でなきゃ、私は絶対に協力しません!」
うれしかった。本当にうれしかったんだ。
闇属性だから仕方ない。
そんな考えが、ずっと頭の片隅に居座っていた。
闇の魔法は見た目も効果もエグくて、悪者が使うイメージしか湧いてこないものばかりだし、魔属性にそっくりだし。
だから、蔑まれても仕方ないんだって考えていた。
でも、見た目もイメージも、闇属性は叩いてしかるべきという大多数の声をもはねのけ、俺という人間を見てくれていた。
思えばセレナはこれまでも、ずっとそうだったじゃないか。
なんか、泣きそうになってくる。
「私も……レイヴァンスを信じないなら協力しない。そんな人たちの国なんて、勝手に滅びればいい」
シャーロット。気持ちはうれしいけど、さすがに言い過ぎじゃないかな。
「そうだな。レイにはダチを救ってもらった恩がある。レイに謝りな。でなきゃ、魔術協会も協力はしないぜ」
ははは、魔術協会をマックスウェルの一存でどうこうできるとは思えないけど、でもすごくうれしいよ。
あれ?
なんだか、頬に伝うものがある。
「ほら、レイさん。やっぱり泣いてたんじゃないですか。もっと私を……私たちを頼ってください」
セレナが俺に微笑みを向けながら、俺の頬に流れているものを指でぬぐった。
前世でもこの世界でも、助けてくれる仲間なんていなかった。
でも今は、こんなにも俺を助けてくれる仲間がいる。
「というわけだが、レックス殿。どうする?」
腕を組んでクールな笑みを浮かべながら、オリヴィアがレックスに問いかける。
騎士団たちは押し黙ったまま、うつむいていた。
そんな彼らの周囲には、重苦しい空気が漂っている。
それに対して俺の周りは、とても温かい空気に包まれている気がした。
この先、こんなにも素敵な仲間たちがいてくれたら、俺が闇落ちすることなんて絶対にない。
初めて、そう思うことができた。
破滅フラグは今、完全にオフになったんだ。
しばらくののち、レックスが俺の前までやってきて、背筋を伸ばした。
顔をまっすぐ俺に向けて、目をあわせてくる。
そして斜め四十五度を保つ、きれいなお辞儀をした。
「申し訳ありませんでした、レイヴァンス殿。どうか、我々に力を貸してください」
そう言ってずっと頭を下げたまま、彼は微動だにしなかった。
もしかして、俺が何か言うまで、その体制のままでいるつもりなのか?
「あ、いや。そんな……頭をあげてください。もちろん、協力します。というか、俺たちもあなた方の助けが必要です。ともに戦いましょう!」
何やらあたふた慌てた口調になってしまったが、ここでようやくレックスが頭を上げてくれた。
ただ、そのときのレックスの顔は相変わらずの真顔で、それがまだ持っている不信感のせいなのか、それとも単に真面目な性格故なのかが読めなかった。
「ご協力、感謝します」
そんな言葉もあったし、この場はとりあえずの和解でいいんだよな。
「レイさんは私が守ります! だからもう心で泣いて我慢するのは、めっ! ですよ」
左隣にきて、セレナがグーの手で俺の頭をコツンと軽く触れてきた。
「ありがとう、セレナ……」
すると右側から俺の腕を、誰かがちょいちょいとつついてきた。
「私が守る。私を忘れないで」
そうつぶやいてきたのはシャーロットだった。
顔を赤くするくらい恥ずかしいなら、無理してそんなセリフを言わなくても……。
いや、すごくうれしいけどさ。
「あー! シャーロットさん、ずるいです。私の真似です。レイさんが疑われても、シャーロットさんはあの人たちにそのままついていこうとしてました!」
「違う。セレナに先を越されただけ」
左腕はセレナにギュッとつかまれて、シャーロットに右腕を組まれている。
なんだかよくわからないが、妙な争いが起きてるみたいだ。
「あははは」
おかしくなって、つい笑い声が漏れてしまった。
「あ、レイさん! 初めて笑いました!」
急にはしゃぎ声をあげて、セレナが見上げてきた。
あれ、そうかな。そんなにいつも笑ってなかったっけ。
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