第三十四話 フードの男

 遺跡を離れて、俺たち一行はとある漁村へと向かっていた。


 聖域は、船でしか行きつけない小島にある。

 それだけ聞くと漁師の船を借りるため、漁村へ向かっているように思うだろう。

 それは半分正解だが、ちょっと違う。


 船を手に入れるのなら漁村よりも、さらに近い距離に立派な港町があるのだ。

 実際、ゲームのシナリオでは、勇者パーティーも港町で船を手に入れる。それが本来の流れだ。

 その正規ルートに背いて漁村へ向かうのは、やはり先の展開を知っている俺とシャーロットならではの理由があるからに他ならない。


 騎士団はみな馬に乗って移動し、俺たちは荷馬車に揺られて目的地を目指す。

 移動を始めてから、すでに一日が過ぎていた。

 しかし漁村は、もう目と鼻の先とのことだ。


 舗装された道は港町へと向かっているが、漁村へ伸びている道は存在しない。

 なので、途中で道を外れて森へと入っていく。


 整備されていない地面を進んでいるので、荷馬車がさらに激しく揺れた。

 そんな調子でさらに進むと、やがてならされた道が現れた。


 地図にはない村らしいけど、人の手が加わったであろう道が、こうして存在している。

 つまり人の住む村も、この道の先に実在しているということだ。


 その道を突き進んでいたとき、突然騎士たちの馬が急停止した。

 俺たちの乗る荷馬車も前進をやめる。


 転生者特有の、電磁波に似たものを感じる。


 しかし、何かがおかしい。

 確かにあの電磁波と似ているけれど、何かが違っている気がした。


 いったい何が起きているのかと、荷台から顔を出して外を見る。

 すると道の真ん中で行く手を阻むかのように、フードを深くかぶった人物が立っていた。


「ここに来るだろうと思って、待っていたぜぇ。言ったろ、必ずぶち殺すってな」


 その声はまさか!


 そう思って荷馬車から飛び降りたのも束の間、やつは逃げるように背を向けて走り去っていった。

 次の瞬間、森の中から黒い火球が無数に飛んできた。


「まずい!」


 俺は剣を抜き、飛んでくる火球を剣でさばいていった。

 シャーロットとオリヴィアも、すでに剣を抜いて対応していた。

 しかし、飛んでくる火球の多さに苦戦している様子だ。


「ぶひひいいいいん!」

「しまった! 馬が!」


 火球の直撃を受けた荷馬車の馬が、黒い炎に包まる。そして激しく暴れたあと、崩れ落ちた。

 と同時に、森の茂みから魔族の軍勢が姿を現す。


「敵は森の中だ! 総員、突撃!」


 レックスの号令とともに、ガーディアニアの騎士たちが火球の飛んでくるほうへと突き進んでいった。


「あのぉ。私はどうします?」


 荷馬車にもたれ、なんとも緊張感のない声でリナリナがオリヴィアに尋ねる。


「ともに魔族を撃退。雑魚掃除を担当してくれ」

「まいどありがとうございますぅ。報酬はお片付けした魔族の数による、実績清算ということで。今後とも……」


 ニコニコともみ手をする。そして、

「ご贔屓に!」

 の言葉とともに彼女がフッと消えた。


 いつの間にか魔族の群れの中心に移動していたリナリナが、逆手に持った二本のダガーで敵を切り刻んでいく。

 生で見ると、すごすぎる身のこなしだな。敵に回ったらと思うとゾッとする。

 彼女の場合、雇われなだけにそれもあり得るからなおさらだ。


「我らも続こう!」


 俺もシャーロットもオリヴィアの言葉にうなずき、向かってくる魔族めがけて駆けだした。


「マックスウェル、セレナを頼む!」

「任せろ!」

「レイさん、無茶しないでくださいね!」


 荷馬車の中から二人が顔を出す。


 魔族たちの数はこちらよりも明らかに多いが、それでも俺たちが押しているようだ。

 いきなりの集中攻撃には驚かされたが、人数は少なくても精鋭揃い。

 この程度の軍勢なら問題ない。


 そう思った矢先のことだった。


「ぐわぁぁああ!」

「な、なんだこいつら!」


 真っ先に突撃していった騎士団たちの方角から、悲鳴のような叫び声が次々と聞こえてきた。


『レイよ。何やら怪しい気が満ちておるぞ』


 剣の刃から顔を出し、ミスティローズが警告してくる。

 俺は飛びかかる魔族たちをなぎ倒すと、叫び声のするほうへと駆けだしていった。

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