第三十二話 ガーディアニア騎士団長レックス
国境を越えた俺たちはリナリナの案内で、とある森の遺跡へと来ていた。
この国の王族は大昔の魔族との戦争で、光の勇者と共に戦った騎士たちの末裔らしい。
そのような歴史から、光の勇者や女神を祀るための神殿が遺跡として多く残っている。
リナリナによると、この場所で騎士団長のレックスと落ち合うことになっているそうだ。
剣を抜いてミスティローズを出し、セレナの話し相手になってもらったりしながら時間をつぶす。
そうしているうちに、やがて十数人の騎士たちが姿を現した。
「お待たせしました」
銀色の鎧を着た、好青年を思わす顔立ちの男が声をかけてきた。
この男がレックスで間違いない。
「レックス殿、お初にお目にかかる。ナイトブライトの騎士団長オリヴィアだ」
「おお、あなたが! 数々のご活躍、お聞きしていました。お会いできて光栄です」
「それは恐縮だ。あなたの強さも、我が祖国にまで届いているぞ」
「自分なんて、まだまだです」
そんな言葉をかけあいながら、オリヴィアとレックスが握手を交わした。
ゲームでは対立して決闘までしていた二人が、こうして手を取り、互いを称えあっている。
そう思うと、なんとも感慨深い。
「ところで。我が国の状況は、もうリナリナ殿からお聞きしているでしょうか」
「大まかにはな」
「我ら騎士団は魔族によって操られた王や要人により、聖女奪還の命を受けていました。しかし、すでにリナリナ殿からの伝達によって裏を知っていた自分と、自分を信じてくれた彼らはこれに抵抗し、今では国の反逆者として追われる身です」
彼らというのは、レックスの後ろにいる兵士たちのことらしい。
どうやら騎士団の中でも、レックスの言葉を信じてついてきてくれた兵と、王の命令に背けず城に残った兵がいるそうだ。
「オリヴィア殿、あの方が聖女ですか」
まだミスティローズとおしゃべりしているセレナに、兵士たちの視線が集まる。
「そうだ。あなた方の王らを救うには、彼女を聖域へ連れていかねばならない。案内を頼めるか」
「もちろんです! どうか我らが王を、よろしくお願いします!」
きれいに背筋を伸ばしたのち、レックスが斜め四十五度で頭を下げた。
そのときだった。
「キャー!」
突如セレナの悲鳴がして振り返ると、一人の魔族が宙から彼女へ飛びかかってきていた。
詠唱不要な闇の魔法弾を飛ばす。威力は低いが速射性重視だ。
「グギャ!」
どうにか魔族にヒットし、魔族が空へと逃れた。
なんてことだ。
いつの間にか翼の生えた魔族が無数に飛び回り、俺たちを取り囲んでいるじゃないか。
「闇……属性?」
レックスがつぶやく。
周囲の魔族よりも、闇属性の魔法が気になったようだ。
彼が怪訝な表情で、俺を睨みつけている。
他の兵士たちの顔にも、不信感が浮き出ているのが分かった。
しかし今は、そんなことよりも魔族たちだ。
真っ先にセレナをさらおうとしたところを見ると、やはり彼女が目的らしい。
「レックス殿、まずは聖女を守るのが先決だ」
「そうですね」
レックスの指揮のもと、兵士たちがセレナを中心に陣を組み、魔族らを迎え撃つ。
俺もセレナの側に置いていたミスティローズブレイドを拾い上げ、魔族たちを見上げて構える。
飛行型の魔族が相手だと、接近戦の騎士たちやオリヴィアには戦いづらい相手だろう。
「レイ、ここは俺たちの出番じゃね?」
「ああ、そのとおりだ。マックスウェルの属性は風だったよな。俺を空中に飛ばすことはできないか?」
「なるほどね、そういうことなら任せておきなよ。合図したら飛びな」
「わかった!」
方針が決まり、マックスウェルが詠唱を始める。
「今だ、飛べ! サイクロンリフト」
合図を受けて飛び上がる。すると下から強風が巻き起こり、俺を空高くまで浮き上がらせた。
空中の魔族たちと同じ視線に到達したのを見計らい、飛び上がる前から詠唱を初めて準備していた魔法を発動させる。
「ダークニードルバースト!」
俺を中心に無数の黒い針が飛び出し、魔族らを串刺していく。
『ほう。これは痛そうじゃの』
「感心している場合じゃないぞ。お次は霊属性との合成魔法だ」
以前やった、黒い羽を生成する魔法を発動。
宙を滑空し、空を飛び回る魔族めがけて剣を振るう。
空中戦は慣れていないので戦いづらいが、なんとかなりそうだ。
そう思った矢先、後ろから数匹の魔族がとびかかってきた。
完全に油断していたが、下から飛んできた火球が魔族たちを迎撃した。
見下ろすと、シャーロットがこちらに手のひらを向けていた。
そういえば彼女も剣士ではあるが、たしなむ程度の火属性魔法が使えるキャラだった。
しかし今の威力、ゲームで見たよりも強力じゃないのか?
どうやらシャーロットは、魔法の練習もしっかり行ってきたようだ。
さらにはマックスウェルも風の刃を飛ばして、魔族たちを撃退している。
彼は優秀な魔術師だとカイロスが別れ際に言っていたけど、本当だったらしい。
この調子なら、この場は問題なく切り抜けられそうだ。
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