第七十七話 格ゲー
そういえば空中にいた俺を、昇〇拳で迎撃してなかったか?
ガードしてもガン無視で連続コンボを仕掛けてくる動き、あれもまるで格ゲーの削り狙いみたいだ。
そうか!
魔王ベルゼの流れるような動きに翻弄されて、その裏で操っている者の存在を忘れていた。
ユウダイかタクヤのどちらかは分からないが、裏で操ってるやつは格ゲーをしているんだ。
ベルゼに向かって飛んでいく波〇拳もどきに向かって、俺も魔法弾を放つ。
魔法弾が波〇拳もどきにぶつかって軌道がそれ、イシュトバーンへの直撃を避けることに成功する。
『さすがに強いの。しかし、妙な動きをするやつじゃ』
「ミスティローズ。魔属性の魔法には、遠隔透視があったよな」
『うむ。あの魔王の精密な動き、自動操縦ではあるまい。術者が遠隔透視で見ておる可能性は高いな』
「どのくらいの距離から見ることができるんだ?」
『遠隔透視は魔力量があればいいというものでもないし、生まれ持った相性もあるからの。最高位の者であれば海の向こうからでも可能と聞くが、覚えたての者ならせいぜい城の中といったとこじゃろう』
ユウダイたちは、まだ魔族になって日が浅い。
ということは、おそらくこの部屋からそう遠くない場所で魔王ベルゼを操作しているはずだ。
そうこうしている間に、ベルゼがこちらへと体の向きを変えてきた。
どうやら標的をイシュトバーンから俺に変えたらしい。
向き直ったベルゼは、一直線に俺のほうへと駆け出してきた。
だがこれだ、この違和感だ。
なぜわざわざ動きを止めて、仕切り直すように俺のほうへ体を向ける。
なぜ常に直線状で攻撃を仕掛けてくる。
横方向への動きがほとんどなく、戦闘スタイルに立体感がない。
俺は向かってくるベルゼを無視して、イシュトバーンのほうへと走り出した。
案の定、ベルゼの動きが一瞬止まる。
格ゲーには、バトルとは無関係の方向へ自由に走っていく概念がない。だから素早い対応ができないのだ。
「イシュトバーン、聞いてくれ。ヤツを倒す算段がついたんだ」
「倒すだぁ? この俺様の目が黒いうちは、何人たりとも魔王様を殺らせねぇ!」
「違う。魔王を裏で操るヤツを、倒す算段だ」
俺の言葉に、イシュトバーンの眉がピクリと動く。聞かせてみろ、の合図と見た。
「ややこしい話だし、細かい説明をしても理解できないと思う。だから、俺の言われたとおりにしてくれ」
「オーケー、面倒な話は俺様もごめんだ。やることだけ、さっさと聞かせろや」
「まず、俺を上空へ飛ばしてくれ。これを二回やる」
ベルゼが向きを変えて、俺たちへと照準を合わせてきた。
先ほどより、方向転換はスムーズだ。
少しずつだが、横の動きに慣れてきたみたいだな。
ベルゼが仕掛ける前に、イシュトバーンが俺の腕をつかんで上空へとぶん投げた。
遠隔透視にも2パターンある。
操っている者の視覚を借りて透視するパターンと、誰の視点でもない客観的な視点で見る透視。
格ゲーは基本的に横からの視点で、画面の中のキャラを操作する。
ベルゼを操ってるヤツも彼女の視点ではなく、横からの客観的な視点でこの闘いを見ているはず。
だから、立体的な動きに対応が追い付かないんだ。
上空へと飛べば、ヤツの視点でいうところの画面の外へと出ることになる。
そこからベルゼに向かって降下し、剣による斬撃を繰り出した。
ベルゼは顔も視線も真正面に向けたまま腕を上に伸ばし、魔力の刃で俺の剣を受け止めた。
一時的に画面から消えた俺の攻撃にも対応できる。
格ゲーの腕前は相当なものだな。
だが俺の今の攻撃を見て、ヤツならピンときただろう。
大人気の格ゲー「レジェンド・オブ・ファイター」に登場する竜崎サクラの超必殺技、「竜空・疾風落下」を模したものだということが。
これでヤツも、さらに格ゲーへとのめり込むに違いない。
俺は着地すると同時にバックステップし、イシュトバーンのほうへと戻った。
と同時に、後ろから頭を小突かれてしまった。
「てめぇ! やっぱり魔王様を殺す気じゃねぇか!」
「ちょ、違うって! ちゃんとガードできるように計算したって!」
「んな器用なことができるわけねぇだろ! 神にでもなったつもりか? ああ?」
言い合ってる間に、ベルゼが俺たちのほうへと突っ込んできた。
「ほら、速く! 俺を上空へ!」
「くそったらぁぁあああ!」
叫びながら、イシュトバーンが再び俺を真上へと投げる。
その様子を見て超必殺技を警戒したのか、ベルゼがガードの構えを取った。
やはり、完全に格ゲーをやってる気でいるな。
だが、真の狙いは術者を探すこと。
最初の超必殺技は、そのことを悟られないためのカムフラージュだ。
ヤツが魔王ベルゼの目を借りた視点で透視していたなら、上空にいる俺の動きも見えていただろうけど。
格ゲーをやってるつもりのヤツなら、キャラが見えなくなる画面の外へ咄嗟に視点を移すのは難しいだろう。
俺は高く飛び上がったところで、闇属性と霊属性の合成による黒い翼を生成した。
そして下には降りず、部屋の窓から別の部屋へと移動した。
瞬間、例の電磁波のようなものを感じ取る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます